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第三章 強さを求めて
47.愛してるのその言葉
しおりを挟む「……っ、!?」
ハッと目を見開いて、リレイヌは眠りの渦から弾き出されたように目を覚ました。
夜。夜だった。
静かな水の音がコポコポと聞こえる、夜。
どこからこの音が鳴っているのか、確かめる前にベッドを抜け出したリレイヌは、その足でトコトコとリビングへ。不安そうにチラチラと左右を見回しながら、続く階段をおりて見えた部屋に入り込む。
仄かな明かりを灯す室内には、コーヒーを傍ら、分厚い書物を読むシアナが、柔らかそうなソファーに腰をかけ、コクコクと船を漕いでいた。彼女は足音でリレイヌに気づいたのだろう。眠たげな目を開いて部屋の出入口を見やると、やがてその美しい青色の瞳に愛しい娘の姿を写し、柔らかに微笑んでみせる。
「おはよう。遅い目覚めね、リレイヌ」
優しい声に思わず安堵したリレイヌは、そのままそっとシアナの傍へ。「なにしてたの……?」と問いかけながら、シアナの持つ書物に目を向ける。
「……本をね、読んでたの。大昔のお話の本を」
「大昔の……」
繰り返すように告げたリレイヌに微笑み、シアナはそっと彼女を膝の上へ。抱えあげた小柄なその子を優しく撫でやりながら、「アナタも知っていた方がいいわね」と語り出す。
「むかし……とても古い時代のことよ。イヴという名の、ひとりの女性がいたの。彼女は才に溢れた人で、誰とでも隔てなく接する優しい人だった……」
「イヴ、って……」
「……ある日、とある神がイヴを愛した。愛されたイヴもその神に恋をし、ふたりは結ばれることとなったんだけど……ヒトは、それを許さなかった」
「……」
「ヒトは神に反逆し、イヴを捕らえて火炙りの刑に処した。これに怒った神は、ヒトを憎むようになった……これが、私たちセラフィーユの一族のハジマリよ」
ぱちり、と目を瞬いたリレイヌ。シアナは笑い、困ったように眉尻を下げてみせる。
「イヴを愛した神はヨルドーン。初代龍神だったの」
「初代さま……」
「そう。初代様よ」
頷くシアナに、リレイヌも頷く。こくりこくりとゆっくり頭を上下させる彼女に、シアナはそっと手を伸ばしてその小さな頭を撫でやった。悲しみに揺れる青の瞳が、そっと、静かに伏せられる。
「……私は、きっと、私のした選択を悔いることはないわ」
「? 母様?」
「……悔いることは、ないと思うの」
両手を伸ばし、小さな娘を抱きしめる。不思議そうな顔で母を見上げる娘は、本当に、小さくて小さくて、今にも壊れてしまいそうだ。
「リレイヌ。私の子。愛しい、愛しい私の子」
愛しているわと、呟いた。
その声が聞こえていたのだろう。リレイヌは柔らかに笑い、「私も」を口にする。
「私も、母様のこと愛してる」
「……うん」
うん、と頷いたシアナは、僅かに溢れた涙を消すように、抱きしめた娘の頭に頬を寄せ、目を閉じた。
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