死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第四章 悪意は忍び寄る

55.優しさの一ページ

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 後日、文字通りぐっすり眠ったリックが目覚めたのはお昼時。やばい、寝過ごした!、と慌てて階を降りた彼は、「あ、リックおはよう!」と明るく笑うリレイヌの姿に目を見開き停止した。
 リレイヌはリレイヌでそんなリックを背に、「もう少しでご飯できるよ~」と呑気な声を発し、そして綺麗にフライパンの中身をひっくり返している。その手際の良い事良い事……。

「リレイヌ様は独り立ちしても申し分ない生活能力の高さを有してるわよね~」

「うわっ!? ウンディーネ!? いつからそこに……!!」

「リックがリレイヌ様に見惚れて時を止めた瞬間に……」

「み、見惚れてない!!」

 真っ赤な顔で否定したリックに、ウンディーネは「またまたぁ~」とニヨニヨ笑った。
「いいのよ! 隠さなくても!」なんて言う彼女に、リックは「だから……!」と声を荒らげてすぐに止める。

「? どうしたの、リック?」

 背後の騒がしさが気になったのか、イフリートにフライパンを任せてリックの傍によったリレイヌが、こてん、と首を傾げた。そんな彼女に、リックは真っ赤な顔で首を横に振る。
 なんとも初心な反応。
 ウンディーネは「やだぁ、青春!」とキャピッと笑った。

「あらおはよう、リックくん。ゆっくりできた?」

 と、そこへやって来たシアナ。リックは慌てて背筋を伸ばし、ぺこりと頭を下げてみせる。

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」

 謝罪するリックに、シアナは微笑んでからそっとその肩に手を置いた。

「顔を上げて。言ったでしょう? 今ここにいるアナタはリピト家の者ではないの。リレイヌのお友達の、とっても小さな男の子だって」

「し、しかし……」

「……リックくん。お家の名は確かに大事かもしれない。けれど、それに縛られてはいけないわ。でないと、己自身を見失ってしまうかもしれないから……」

「……」

 そっと顔を上げたリックに微笑み、「さ、食事にしましょう」とシアナは手を叩いた。リックはそれにこくりと頷くと、リレイヌに背を押されながら食卓の席へと腰掛ける。

「「いただきます」」

「……いただきます」

 ちゃんと手を合わせ、出された食事に匙をつける。あたたかなそれにそっと目を細めたリックは、「美味しい?」と笑うリレイヌを一瞥。困ったように笑うと、「美味しい」と一言、言葉を零した。
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