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第六章 研究施設
74.闇の世界と地下世界
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「この施設の歴史は古いものでな。古く、長く、ココはかつてより運営されてきた。その目的たるはひとえに、地下世界の解放」
「……地下の世界が、この世に本当に存在すると?」
「するとも。だからこそ、我々は日々調べているのだ」
ゆったりと歩く老人を追いながら進む施設内。人の気配が疎らなそこを不思議そうに見回しながら、リレイヌたちは前に前にと進んでいく。
施設内は、その殆どが白に彩られていた。
壁や通路には無駄なものが一切置かれておらず、どこぞへと続く扉は一定の間隔を置いて左側の壁に配置されている。
天井には切れ掛けの蛍光灯。それを見るだけでわかる。ココがかなり貧困しているということに。
「リピト家には感謝している。なにせ、多額の支援金を私たちの研究のために送ってくれているからな」
「それは……いや、それにしてはこの施設、少し寂れてはいませんか?」
「寂れているとも。なにせ、地下世界は数多のものを喰らう。電力も火力も水力も、人ですら、あれらは食い荒らすのだからな」
「……食い荒らす?」
リックは眉を寄せた。不審そうな彼に、老人は一言。「見せてやろう」と告げ、前方に見えてきた階段に足をかけた。そうしてゆっくりと段を降りていく老人に、睦月が後ろ頭に手をやりながらポツリと呟く。
「……大丈夫かよ」
「さ、さあ……」
不安そうな声が零れた。アジェラだ。
彼はこれでもかと悩ましげに眉尻を下げたまま、深く深く続く階段を見下げてぶるりと震える。そうしてそっと腕をさするその姿は、完全に怯えを孕んでいた。
「……んま、何かあったら魔導組がなんとかできるか……とっとと行こうぜ」
そんなアジェラを励ますようにその背を叩き、先陣切って睦月が階段へ。「暗っ!」なんて言いながら降りていく彼を追いかけるように、リック、リレイヌ、アジェラ、そして最後にリジマたる女が続いていく。
「おい、足元気をつけろよ」
「誰に物を言ってる」
「お前じゃねえよこの弱虫」
「なんだと貴様!」
始まる口論に「ふたりとも辞めなよ……」と零したリレイヌが、ふと、足を止めた。それにより自然と停止したアジェラが、「どうかしましたか?」と前方の彼女に問いかける。
『ああ……そこに……そこにいるんだね……』
なにかが、リレイヌの鼓膜を揺らした──直後だ。
闇の中から出でた黒いナニカが、巨大な目をギョロつかせて彼女の前へ。ニタリと口元に弧を画きながら、そのずんぐりとした胴体とは裏腹に小さく長い腕を彼女目掛けて伸ばしていく。
『まっていたよ……キミのことを……』
腕が、輪となり彼女の首を取り囲む。
『さあ、おいで』
声が近くなった、その瞬間だ。凄まじい水圧をかけながら巨大な水柱が吹き上がった。共に、誰かの悲鳴があがり、その悲鳴と同じくして灼熱の炎が円を描きながら黒いナニカを飲み込んでいく。
「ヒギャッ! ギャアッ!」
醜い悲鳴があがり、ナニカが飛ぶように消えた。瞬間、眩しいくらいに明るくなる室内に、リレイヌは瞠目。へたりとその場に座り込み、そんな彼女を慌てた様子でアジェラが支える。
「大丈夫ですか、リレイヌ様!!」
「おい!! 今のはなんだよ!!」
「リレイヌ!! 怪我は!?」
三者三様。慌てふためき騒ぐ少年たちに、老人は「静まれ」と一言。「ああ!?」とガンを飛ばす睦月を無視して、階段を降りきった彼は、やはりゆったりと歩きながらその真っ白な部屋の中央へ。そこに位置するなんらかの、そう、扉のようなものの上に立つと、コンコン、とそれを靴の裏で叩いてみせる。
「ギィ……」
奇妙な声がした。
共に、円形に形を成した扉のようなものが、音をたてて開かれていく。
「……見ろ」
老人は言った。
子供たちは不満そうにしながらも階段上からその中を覗き、そして、目を見開いた。
形容するならば黒い海。絵の具をぶちまけた様な真っ暗闇の中、チラチラと姿を見せるのは魚のようなカタチをした不可思議な生命体。骨しかないそれらは優雅に暗闇の中を泳いでおり、時折屈折しながら方向を転換している。
「……これ、は……? 地下世界は、どこに……?」
「これは闇世界-ナイトメアランド-。地下世界はこの闇世界の中に存在するひとつの小さな世界だ。簡単に言えば、宇宙に点々と浮かぶ星々と同類……地下世界は闇世界の中のひとつに過ぎんのだよ」
「……」
「……地下世界に存在する未知のエネルギー。それを調べることが表向きの研究。しかし、我々はもっと先。遥かなる可能性に期待し、この闇世界を徹底的に調べあげたい」
そのために、協力してくれ。
告げた老人。リックが何かを言う前に、睦月が「危険は?」と一言。問うた彼に、「無論、多少はある」と老人は返した。睦月の眉間にシワがより、リックも睨むように老人を見る。
「危険があるのに協力しろと?」
「もちろん、断ってもらっても構わない。君たちはなにせ、まだ子供。逃げたくなることも時としてはあるだろうしな」
「……言い方」
アジェラがポツリ。不服そうに声を発す彼をちらりと見て、老人はそのまま視線をリレイヌへ。呆けたように闇を見つめる彼女に目を細め、そっと膝を折っていく。
「……頼む。君たちにしか成しえないことだ」
膝を折り、腰を曲げ、床に頭を擦り付けながら、老人は言った。所謂土下座というものを披露する彼に慌てたようだ。リジマが「やめてよ父さん!!」と叫ぶと、すぐに視線を不振そうな子供たちへ。にこりと笑い、「まあ君たちの言い分もわかるわ」と告げる。
「でも、この研究には世界の未来が握られているの。たくさんの人たちが、苦しみを上げることなく笑顔でいられる世の中にしたい……そのためには、闇世界を調べあげて、その中に眠るなんらかの『力』を見つけ出したいのよ」
「そうだとしても、僕たちには荷が重すぎます……!」
アジェラの声に、リジマは頷いた。そして、「わかってるわ」とひとつ。言葉を返して、リレイヌを見る。
「それでも、人々と未来の安寧のために……協力してほしい」
「……」
リレイヌはそっと老人を、リジマを、それから室内をぐるりと見回した。
なにかが、なにかがおかしい。
けれど、そのおかしいに、どうしてかリレイヌは気づけない。
気づけないままに、彼女は「はい」を口にした。突然の承諾に、少年たちが一斉に彼女の名を呼ぶ。
「いいの? ほんとうに?」
「……はい」
「そう、良かった。じゃあ、今日からよろしくね。私は先も紹介されたけどリジマ。リジマ先生って、呼んでくれると嬉しいわ」
「……はい、リレイヌです。よろしくお願いします、リジマ先生」
「ふふ、いい子ね」
ヨシヨシと、少女の頭を撫でるリジマ。リレイヌはそれをどこか遠くから眺めるように見つめながら、ぼんやりと頷いている。
「……まじで?」
睦月がぼやく。
「……まあ、リレイヌ様が良いなら、良いんじゃないですかね?」
アジェラが言う。
「……」
リックはそんなふたりの様子にため息を吐き出すと、小声で一言。
「ウンディーネ。姿は見せないでいい。あの女を見張れ。なにか臭う」
『御意』
聞こえた声に、リックは沈黙。どこか遠くを見るリレイヌを見て、そっと、眉を寄せるのだった。
「……地下の世界が、この世に本当に存在すると?」
「するとも。だからこそ、我々は日々調べているのだ」
ゆったりと歩く老人を追いながら進む施設内。人の気配が疎らなそこを不思議そうに見回しながら、リレイヌたちは前に前にと進んでいく。
施設内は、その殆どが白に彩られていた。
壁や通路には無駄なものが一切置かれておらず、どこぞへと続く扉は一定の間隔を置いて左側の壁に配置されている。
天井には切れ掛けの蛍光灯。それを見るだけでわかる。ココがかなり貧困しているということに。
「リピト家には感謝している。なにせ、多額の支援金を私たちの研究のために送ってくれているからな」
「それは……いや、それにしてはこの施設、少し寂れてはいませんか?」
「寂れているとも。なにせ、地下世界は数多のものを喰らう。電力も火力も水力も、人ですら、あれらは食い荒らすのだからな」
「……食い荒らす?」
リックは眉を寄せた。不審そうな彼に、老人は一言。「見せてやろう」と告げ、前方に見えてきた階段に足をかけた。そうしてゆっくりと段を降りていく老人に、睦月が後ろ頭に手をやりながらポツリと呟く。
「……大丈夫かよ」
「さ、さあ……」
不安そうな声が零れた。アジェラだ。
彼はこれでもかと悩ましげに眉尻を下げたまま、深く深く続く階段を見下げてぶるりと震える。そうしてそっと腕をさするその姿は、完全に怯えを孕んでいた。
「……んま、何かあったら魔導組がなんとかできるか……とっとと行こうぜ」
そんなアジェラを励ますようにその背を叩き、先陣切って睦月が階段へ。「暗っ!」なんて言いながら降りていく彼を追いかけるように、リック、リレイヌ、アジェラ、そして最後にリジマたる女が続いていく。
「おい、足元気をつけろよ」
「誰に物を言ってる」
「お前じゃねえよこの弱虫」
「なんだと貴様!」
始まる口論に「ふたりとも辞めなよ……」と零したリレイヌが、ふと、足を止めた。それにより自然と停止したアジェラが、「どうかしましたか?」と前方の彼女に問いかける。
『ああ……そこに……そこにいるんだね……』
なにかが、リレイヌの鼓膜を揺らした──直後だ。
闇の中から出でた黒いナニカが、巨大な目をギョロつかせて彼女の前へ。ニタリと口元に弧を画きながら、そのずんぐりとした胴体とは裏腹に小さく長い腕を彼女目掛けて伸ばしていく。
『まっていたよ……キミのことを……』
腕が、輪となり彼女の首を取り囲む。
『さあ、おいで』
声が近くなった、その瞬間だ。凄まじい水圧をかけながら巨大な水柱が吹き上がった。共に、誰かの悲鳴があがり、その悲鳴と同じくして灼熱の炎が円を描きながら黒いナニカを飲み込んでいく。
「ヒギャッ! ギャアッ!」
醜い悲鳴があがり、ナニカが飛ぶように消えた。瞬間、眩しいくらいに明るくなる室内に、リレイヌは瞠目。へたりとその場に座り込み、そんな彼女を慌てた様子でアジェラが支える。
「大丈夫ですか、リレイヌ様!!」
「おい!! 今のはなんだよ!!」
「リレイヌ!! 怪我は!?」
三者三様。慌てふためき騒ぐ少年たちに、老人は「静まれ」と一言。「ああ!?」とガンを飛ばす睦月を無視して、階段を降りきった彼は、やはりゆったりと歩きながらその真っ白な部屋の中央へ。そこに位置するなんらかの、そう、扉のようなものの上に立つと、コンコン、とそれを靴の裏で叩いてみせる。
「ギィ……」
奇妙な声がした。
共に、円形に形を成した扉のようなものが、音をたてて開かれていく。
「……見ろ」
老人は言った。
子供たちは不満そうにしながらも階段上からその中を覗き、そして、目を見開いた。
形容するならば黒い海。絵の具をぶちまけた様な真っ暗闇の中、チラチラと姿を見せるのは魚のようなカタチをした不可思議な生命体。骨しかないそれらは優雅に暗闇の中を泳いでおり、時折屈折しながら方向を転換している。
「……これ、は……? 地下世界は、どこに……?」
「これは闇世界-ナイトメアランド-。地下世界はこの闇世界の中に存在するひとつの小さな世界だ。簡単に言えば、宇宙に点々と浮かぶ星々と同類……地下世界は闇世界の中のひとつに過ぎんのだよ」
「……」
「……地下世界に存在する未知のエネルギー。それを調べることが表向きの研究。しかし、我々はもっと先。遥かなる可能性に期待し、この闇世界を徹底的に調べあげたい」
そのために、協力してくれ。
告げた老人。リックが何かを言う前に、睦月が「危険は?」と一言。問うた彼に、「無論、多少はある」と老人は返した。睦月の眉間にシワがより、リックも睨むように老人を見る。
「危険があるのに協力しろと?」
「もちろん、断ってもらっても構わない。君たちはなにせ、まだ子供。逃げたくなることも時としてはあるだろうしな」
「……言い方」
アジェラがポツリ。不服そうに声を発す彼をちらりと見て、老人はそのまま視線をリレイヌへ。呆けたように闇を見つめる彼女に目を細め、そっと膝を折っていく。
「……頼む。君たちにしか成しえないことだ」
膝を折り、腰を曲げ、床に頭を擦り付けながら、老人は言った。所謂土下座というものを披露する彼に慌てたようだ。リジマが「やめてよ父さん!!」と叫ぶと、すぐに視線を不振そうな子供たちへ。にこりと笑い、「まあ君たちの言い分もわかるわ」と告げる。
「でも、この研究には世界の未来が握られているの。たくさんの人たちが、苦しみを上げることなく笑顔でいられる世の中にしたい……そのためには、闇世界を調べあげて、その中に眠るなんらかの『力』を見つけ出したいのよ」
「そうだとしても、僕たちには荷が重すぎます……!」
アジェラの声に、リジマは頷いた。そして、「わかってるわ」とひとつ。言葉を返して、リレイヌを見る。
「それでも、人々と未来の安寧のために……協力してほしい」
「……」
リレイヌはそっと老人を、リジマを、それから室内をぐるりと見回した。
なにかが、なにかがおかしい。
けれど、そのおかしいに、どうしてかリレイヌは気づけない。
気づけないままに、彼女は「はい」を口にした。突然の承諾に、少年たちが一斉に彼女の名を呼ぶ。
「いいの? ほんとうに?」
「……はい」
「そう、良かった。じゃあ、今日からよろしくね。私は先も紹介されたけどリジマ。リジマ先生って、呼んでくれると嬉しいわ」
「……はい、リレイヌです。よろしくお願いします、リジマ先生」
「ふふ、いい子ね」
ヨシヨシと、少女の頭を撫でるリジマ。リレイヌはそれをどこか遠くから眺めるように見つめながら、ぼんやりと頷いている。
「……まじで?」
睦月がぼやく。
「……まあ、リレイヌ様が良いなら、良いんじゃないですかね?」
アジェラが言う。
「……」
リックはそんなふたりの様子にため息を吐き出すと、小声で一言。
「ウンディーネ。姿は見せないでいい。あの女を見張れ。なにか臭う」
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