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第六章 研究施設
73.夢と現実
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けたたましいサイレンの音が鳴っていた。
赤い警告灯が危険を知らせているのを尻目、走る少女はそのままの勢いで地下の部屋へ。珍しく鍵の開いているそこに飛び込めば、視界に写ったのは狂気に当てられたひとりの女。
銀色の髪を振り乱し、高らかに笑うその女の目の前には、傷ついた友人たちが3名。気を失い倒れている。
「睦月! アジェラ! リック!」
3人の友人の名を呼び駆け出そうとした少女を嘲笑うように、開いた床から現れた黒いナニカ。巨大な目玉が特徴的なソレは、ゲラゲラと笑う女にちらりと目を向けると、そのまま何事も無かったように大口を開きバクリと友人たちを食べてしまう。
「ッ!! やめてッ!!」
泣き叫ぶように声を荒らげ、少女は巨大なナニカの元へ。地下に潜りいこうとするその姿に手を伸ばしたところで、笑う女に髪を掴まれ動きを止めた。睨むように振り返れば、女はニタリと笑って少女の名を呼ぶ。
「リレイヌ。いい子ね、リレイヌ」
それは、酷く穏やかで優しい声だった。
少女はキッと眉尻を上げると、そのまま振り払うように女の腕を攻撃する。
しかし、所詮は子供の力。大人の力には勝てず、ただ振り払っただけになってしまった腕が、ガシリと掴まれてしまった。
ゲラリ ゲラリ。
笑う女が引きずるように少女を化け物の方へ連れていく。
「いい子ね。いい子。みぃーんないい子。だから先生も、いい子にならなきゃいけないの」
優しい声とは裏腹に、力任せに少女を床に叩きつけた女。楽しげに笑う彼女を睨みあげれば、女は何を思ったのか、容赦なく少女の首を鷲掴み、力を込める。
「いい子に、ね? いい子になるの。だってそれが理想的な人間の形だものね?」
「ぐっ、うっ……!」
「あら? 苦しいの? あはは! いやだわ、リレイヌったら! そんなに苦しむなんて──アナタはほんとに悪い子ね」
ストンと感情が抜け落ちたように、女は告げた。真っ黒な瞳が見開かれ、少女の首を掴む手にさらに力が入っていく。
「ッぁ、くっ……」
「ふふ、ふふふふふ……痛い? 苦しい? うふふ、正直ね。いい子だわ。でも、アナタは悪い子。アナタが産まれてきてしまったが故に、たくさんの人が傷ついて苦しんで……お前のせいであの子たちも死ぬしかないの。わかる? 全部、全部お前のせいなんだよこの化け物がッ!!」
「っ、……そ、んなの……ッ」
「自分は悪くないって? なら教えてあげる。あの子たちが、あの子たちがここに連れられて来たほんとうの意味を──」
そうして語られた真相に、少女は目を見開き、そっと涙を流した。女はそれにゲラゲラ笑うと、やがて震える口を引き結び、涙を流す。
「わたしを……っ、わたしを殺しに来なさい……っ」
「いつか必ず、殺しに来なさい……っ」
「そうして必ず、生き延びなさい……っ」
「わたしを怨んで、生き延びなさい……っ」
ボロボロと流れる女の涙。
苦しそうに、辛そうに、それでも確かに幸福そうに、笑う女は意識の飛びかけた少女の体を持ち上げると、開いた床の方へ。今にも消え去りそうな黒いナニカを見下げ、そっと、少女の体を放り投げる。
「殺しに来なさい……」
女は言う。
「アナタたちには、その権利があるから……」
「またね」と、微笑んだ女が、開いた床を静かに閉じる。共に、大口を開けた化け物に喰らわれた少女は、そのまま──……
「──リレイヌ、着いたよ」
「……」
そっと目を開けたリレイヌに、「この寝坊助」と睦月が笑った。それに「寝るのはいい事ですよ」と返したアジェラが、「ウルセェ」と雑に殴られる。
リックはそんなシェレイザ家の2人の様子にため息を吐くと、自分に寄りかかり寝ていたリレイヌをそっと盗み見て、ぱちぱちと目を瞬く。
「……夢見悪かった?」
「……え?」
「ちょっとだけど、泣いてる」
指摘されたリレイヌは、己の目元に手を当てると、すぐにそれを拭い首を横に振った。そして、「泣いてないよ!」と明るく告げ、グッと大きく伸びをする。
「……リレイヌ、きみ……」
「ぼっちゃーん! 着きましたよー!」
「……うるさいヤツだな」
今大事なとこなのにとブツブツ言い、リックは止まった馬車からいの一番に足を踏み出した。睦月とアジェラもそれに続き、最後にリレイヌが差し出されたリックの手を借りそっと馬車をおりて、雨によりぬかるんだ地に足をつける。
「……ココが?」
「おうよ。地下世界の研究施設だ」
「操手さん知ってるの?」
「や、知らないとココまで坊ちゃんとお前ら送って来れねえからな?」
それもそうかと納得。したところで、研究施設らしき建物から二人の人間が歩み出てきた。ひとりは背中の曲がった、髪の毛は無いのにやけに立派な口髭だけはある小柄な老人。ひとりは銀色の髪を緩く結んだ、黒い瞳をもつ背の高い女性。
あれ?、と首を傾げたリレイヌに気付かず、ふたりの人物は子供たちの方へ。「お待ちしておりました」と恭しく頭を下げると、にこやかに笑ってみせる。
「私はデル。こっちは娘のリジマ。これからキミたちを調べさせてもらう、この施設の研究者だ」
「リック・A・リピト。それから、右からリレイヌ、アジェラ、睦月。よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとうございます」
ひとまず説明から入りましょうかと、老人が踵を返す。そうして歩いていく小さな背中を目を瞬き見つめる子供たちに、助け舟よろしくリジマと呼ばれた女は軽く笑って声をかけた。
「父さんに着いて行ってちょうだい。中に入ったら軽い説明が施されるから、そのつもりで」
「……そうですか」
「うん。あ、足下ぬかるんでるから気をつけてね」
「どーも、お気遣いありがとーごぜーます」
「ふふ、いい子ね」
睦月の態度に特に何を言うでもなく笑うリジマは、操手にぺこりと頭を下げると、そのまま施設の方へ。歩いていく彼女を、小さな子供たちは不思議そうにしながらも追っていく。
『いい子ね』
夢の中の声と現実の声が重なる。
リレイヌはそっと額を抑えると、沈黙。何事も無かったように先いく皆を追いかけるのだった。
赤い警告灯が危険を知らせているのを尻目、走る少女はそのままの勢いで地下の部屋へ。珍しく鍵の開いているそこに飛び込めば、視界に写ったのは狂気に当てられたひとりの女。
銀色の髪を振り乱し、高らかに笑うその女の目の前には、傷ついた友人たちが3名。気を失い倒れている。
「睦月! アジェラ! リック!」
3人の友人の名を呼び駆け出そうとした少女を嘲笑うように、開いた床から現れた黒いナニカ。巨大な目玉が特徴的なソレは、ゲラゲラと笑う女にちらりと目を向けると、そのまま何事も無かったように大口を開きバクリと友人たちを食べてしまう。
「ッ!! やめてッ!!」
泣き叫ぶように声を荒らげ、少女は巨大なナニカの元へ。地下に潜りいこうとするその姿に手を伸ばしたところで、笑う女に髪を掴まれ動きを止めた。睨むように振り返れば、女はニタリと笑って少女の名を呼ぶ。
「リレイヌ。いい子ね、リレイヌ」
それは、酷く穏やかで優しい声だった。
少女はキッと眉尻を上げると、そのまま振り払うように女の腕を攻撃する。
しかし、所詮は子供の力。大人の力には勝てず、ただ振り払っただけになってしまった腕が、ガシリと掴まれてしまった。
ゲラリ ゲラリ。
笑う女が引きずるように少女を化け物の方へ連れていく。
「いい子ね。いい子。みぃーんないい子。だから先生も、いい子にならなきゃいけないの」
優しい声とは裏腹に、力任せに少女を床に叩きつけた女。楽しげに笑う彼女を睨みあげれば、女は何を思ったのか、容赦なく少女の首を鷲掴み、力を込める。
「いい子に、ね? いい子になるの。だってそれが理想的な人間の形だものね?」
「ぐっ、うっ……!」
「あら? 苦しいの? あはは! いやだわ、リレイヌったら! そんなに苦しむなんて──アナタはほんとに悪い子ね」
ストンと感情が抜け落ちたように、女は告げた。真っ黒な瞳が見開かれ、少女の首を掴む手にさらに力が入っていく。
「ッぁ、くっ……」
「ふふ、ふふふふふ……痛い? 苦しい? うふふ、正直ね。いい子だわ。でも、アナタは悪い子。アナタが産まれてきてしまったが故に、たくさんの人が傷ついて苦しんで……お前のせいであの子たちも死ぬしかないの。わかる? 全部、全部お前のせいなんだよこの化け物がッ!!」
「っ、……そ、んなの……ッ」
「自分は悪くないって? なら教えてあげる。あの子たちが、あの子たちがここに連れられて来たほんとうの意味を──」
そうして語られた真相に、少女は目を見開き、そっと涙を流した。女はそれにゲラゲラ笑うと、やがて震える口を引き結び、涙を流す。
「わたしを……っ、わたしを殺しに来なさい……っ」
「いつか必ず、殺しに来なさい……っ」
「そうして必ず、生き延びなさい……っ」
「わたしを怨んで、生き延びなさい……っ」
ボロボロと流れる女の涙。
苦しそうに、辛そうに、それでも確かに幸福そうに、笑う女は意識の飛びかけた少女の体を持ち上げると、開いた床の方へ。今にも消え去りそうな黒いナニカを見下げ、そっと、少女の体を放り投げる。
「殺しに来なさい……」
女は言う。
「アナタたちには、その権利があるから……」
「またね」と、微笑んだ女が、開いた床を静かに閉じる。共に、大口を開けた化け物に喰らわれた少女は、そのまま──……
「──リレイヌ、着いたよ」
「……」
そっと目を開けたリレイヌに、「この寝坊助」と睦月が笑った。それに「寝るのはいい事ですよ」と返したアジェラが、「ウルセェ」と雑に殴られる。
リックはそんなシェレイザ家の2人の様子にため息を吐くと、自分に寄りかかり寝ていたリレイヌをそっと盗み見て、ぱちぱちと目を瞬く。
「……夢見悪かった?」
「……え?」
「ちょっとだけど、泣いてる」
指摘されたリレイヌは、己の目元に手を当てると、すぐにそれを拭い首を横に振った。そして、「泣いてないよ!」と明るく告げ、グッと大きく伸びをする。
「……リレイヌ、きみ……」
「ぼっちゃーん! 着きましたよー!」
「……うるさいヤツだな」
今大事なとこなのにとブツブツ言い、リックは止まった馬車からいの一番に足を踏み出した。睦月とアジェラもそれに続き、最後にリレイヌが差し出されたリックの手を借りそっと馬車をおりて、雨によりぬかるんだ地に足をつける。
「……ココが?」
「おうよ。地下世界の研究施設だ」
「操手さん知ってるの?」
「や、知らないとココまで坊ちゃんとお前ら送って来れねえからな?」
それもそうかと納得。したところで、研究施設らしき建物から二人の人間が歩み出てきた。ひとりは背中の曲がった、髪の毛は無いのにやけに立派な口髭だけはある小柄な老人。ひとりは銀色の髪を緩く結んだ、黒い瞳をもつ背の高い女性。
あれ?、と首を傾げたリレイヌに気付かず、ふたりの人物は子供たちの方へ。「お待ちしておりました」と恭しく頭を下げると、にこやかに笑ってみせる。
「私はデル。こっちは娘のリジマ。これからキミたちを調べさせてもらう、この施設の研究者だ」
「リック・A・リピト。それから、右からリレイヌ、アジェラ、睦月。よろしくお願いいたします」
「ご丁寧にありがとうございます」
ひとまず説明から入りましょうかと、老人が踵を返す。そうして歩いていく小さな背中を目を瞬き見つめる子供たちに、助け舟よろしくリジマと呼ばれた女は軽く笑って声をかけた。
「父さんに着いて行ってちょうだい。中に入ったら軽い説明が施されるから、そのつもりで」
「……そうですか」
「うん。あ、足下ぬかるんでるから気をつけてね」
「どーも、お気遣いありがとーごぜーます」
「ふふ、いい子ね」
睦月の態度に特に何を言うでもなく笑うリジマは、操手にぺこりと頭を下げると、そのまま施設の方へ。歩いていく彼女を、小さな子供たちは不思議そうにしながらも追っていく。
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