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第六章 研究施設
83.赤い髪のその女性
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アジェラとリックも食事をとり終えた頃、食後にコーヒーを嗜む睦月。そんな彼を隣、リレイヌは渡されたホットティーをぼんやりと見下げていた。
食事はとった。飲み物もきちんと飲んだ。だというのに渇く喉に軽く瞼を落として心の中でため息を吐く。飢えというほど飢えてはいないが、それでも腹は満たされない。リレイヌはぼんやりと目を瞬くと、そっと目の前のカップに口をつけた。そうして嚥下したあたたかな液体の芳香な香りを堪能すれば、共に耳に届く誰かの声。
『美味しいかい?』
やけに楽しそうな声だった。
またなにか変な術でもかけられているのだろうかと、リレイヌは一度キョロリと周囲を見回す。見回して、そこで、違和感に気づいた。
睦月……いや、睦月だけじゃない。
リックもアジェラも、なぜか石のように固まっていた。団欒の途中で中途半端に固まってしまっている彼らに目を瞬き思わず各自の名を呼べば、それと同時に感じる気配。
ハッと、リレイヌは横に向けていた顔を正面に戻した。慌てて移動させた視界の先、赤と青が映り込む。
「やあ、おはよう」
告げたのは、女だった。
身長はおおよそ170前後。スラリとした長身の女だ。
鮮やかな赤い髪は短く切られており、透き通る青の瞳はどこかで見たことがあるような気がする色合いだ。
服装は瞳と同じ色の、丈の短い着物。着物から伸びた長い足は黒いロングブーツに収まっている。
綺麗な人。
まず抱いた印象はそれ。
次いで感じた気配は、彼女の『母』から感じるものと酷似していた。
「いや、こんにちは、が正解かな? まあどちらでもいいか……ひとまず挨拶をしよう。はじめまして、リレイヌ」
「……はじめ……まして……」
「うん。よく出来ました」
にこやかに笑う女に、口の中が渇いていく。
懐かしい気配と襲い来る緊張に、リレイヌの心臓はバクバクと大きな音をたてて鼓動していた。
「キミのことはずっと見ていたよ、リレイヌ。辛かった、ですまないことが、沢山あったね」
「そ、んなことは……」
「ない、と言い切れるかい?」
「……」
「はは! 正直だね。私は正直者は大好きだ」
うんうんと頷く女。楽しげな彼女は、ゆっくりとその場で歩き出す。
「痛み、苦しみ、嘆き……キミはずっと我慢してきたね。時に逃げ出したい時もあっただろうに、ずっと……」
「……あなた、は?」
「私? ああ、そういえば名乗ってなかったね……私はアガラ。アガラ・セラフィーユ」
「……アガラ」
カラカラの声でその名を呼べば、女──アガラはおかしそうにケラリと笑った。「同族……シアナ以外と会ったことないもんね」と告げる彼女にこくりと頷けば、アガラはにこやかに笑って室内に設置された時計を見やる。
「……時間だね」
なにが、を問う前に、彼女は言った。
「リレイヌ。これから先、もっと辛いことが待ち受けているかもしれない。けれど、挫けてはいけない。キミはだって、誰よりも幸せになる権利を持った子だから……」
「……しあわせ」
「そう。幸せだ」
柔らかに微笑むアガラは、瞬きをすると同時に忽然とその姿を消す。思わず目を見開くリレイヌの耳に、その優しい声は届いた。
「また会おう、リレイヌ」
それは、彼女との再会を意味する言葉……。
「……? どした?」
呆然とするリレイヌに、動けるようになったらしい。睦月が不思議そうに目を向ける。それに慌てて「なんでもない!」を返し、リレイヌはカップを呷った。
渇いた喉が潤される。カラカラだったそれは、若干の潤いを取り戻した。
食事はとった。飲み物もきちんと飲んだ。だというのに渇く喉に軽く瞼を落として心の中でため息を吐く。飢えというほど飢えてはいないが、それでも腹は満たされない。リレイヌはぼんやりと目を瞬くと、そっと目の前のカップに口をつけた。そうして嚥下したあたたかな液体の芳香な香りを堪能すれば、共に耳に届く誰かの声。
『美味しいかい?』
やけに楽しそうな声だった。
またなにか変な術でもかけられているのだろうかと、リレイヌは一度キョロリと周囲を見回す。見回して、そこで、違和感に気づいた。
睦月……いや、睦月だけじゃない。
リックもアジェラも、なぜか石のように固まっていた。団欒の途中で中途半端に固まってしまっている彼らに目を瞬き思わず各自の名を呼べば、それと同時に感じる気配。
ハッと、リレイヌは横に向けていた顔を正面に戻した。慌てて移動させた視界の先、赤と青が映り込む。
「やあ、おはよう」
告げたのは、女だった。
身長はおおよそ170前後。スラリとした長身の女だ。
鮮やかな赤い髪は短く切られており、透き通る青の瞳はどこかで見たことがあるような気がする色合いだ。
服装は瞳と同じ色の、丈の短い着物。着物から伸びた長い足は黒いロングブーツに収まっている。
綺麗な人。
まず抱いた印象はそれ。
次いで感じた気配は、彼女の『母』から感じるものと酷似していた。
「いや、こんにちは、が正解かな? まあどちらでもいいか……ひとまず挨拶をしよう。はじめまして、リレイヌ」
「……はじめ……まして……」
「うん。よく出来ました」
にこやかに笑う女に、口の中が渇いていく。
懐かしい気配と襲い来る緊張に、リレイヌの心臓はバクバクと大きな音をたてて鼓動していた。
「キミのことはずっと見ていたよ、リレイヌ。辛かった、ですまないことが、沢山あったね」
「そ、んなことは……」
「ない、と言い切れるかい?」
「……」
「はは! 正直だね。私は正直者は大好きだ」
うんうんと頷く女。楽しげな彼女は、ゆっくりとその場で歩き出す。
「痛み、苦しみ、嘆き……キミはずっと我慢してきたね。時に逃げ出したい時もあっただろうに、ずっと……」
「……あなた、は?」
「私? ああ、そういえば名乗ってなかったね……私はアガラ。アガラ・セラフィーユ」
「……アガラ」
カラカラの声でその名を呼べば、女──アガラはおかしそうにケラリと笑った。「同族……シアナ以外と会ったことないもんね」と告げる彼女にこくりと頷けば、アガラはにこやかに笑って室内に設置された時計を見やる。
「……時間だね」
なにが、を問う前に、彼女は言った。
「リレイヌ。これから先、もっと辛いことが待ち受けているかもしれない。けれど、挫けてはいけない。キミはだって、誰よりも幸せになる権利を持った子だから……」
「……しあわせ」
「そう。幸せだ」
柔らかに微笑むアガラは、瞬きをすると同時に忽然とその姿を消す。思わず目を見開くリレイヌの耳に、その優しい声は届いた。
「また会おう、リレイヌ」
それは、彼女との再会を意味する言葉……。
「……? どした?」
呆然とするリレイヌに、動けるようになったらしい。睦月が不思議そうに目を向ける。それに慌てて「なんでもない!」を返し、リレイヌはカップを呷った。
渇いた喉が潤される。カラカラだったそれは、若干の潤いを取り戻した。
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