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第六章 研究施設
86.おかしなこと
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ゆるやかに過ぎ行く日々というものは、何となくだが怖く感じる。
リレイヌは近頃様子のおかしいアジェラたちを視界、ふとそんな事を考えた。その前方、必死に勉学と向き合う睦月が苦しそうに唸っている。
「ぐうう! なんっでいきなり勉強なんだよ!! 俺こういうのスゲー不得意なんですけど!?」
「バカそうだもんなお前」
「なにおう!!??」
怒鳴る睦月の隣、サラサラと文字を紙に連ねるリックが、フン、と軽く鼻を鳴らした。それにカチンと来たようだ。睦月は「上等だテメェ」と額に青筋を浮かべて立ち上がる。
「表に出ろこのクソすまし顔野郎。あの時みたいにコテンパンにしてやっからよ」
「そんなチンケな誘いに乗るとでも? バカはほとほと呆れるな」
「んだとコラァ!!」
怒鳴る睦月に「辞めなさい!」とリジマ。彼女は遺憾を表すように腕を組み、ウザそうな顔を浮かべる睦月を見下ろす。
「アナタたちは、ちょっとくらい仲良くしたらどうなの? 顔を突き合せたらすーぐ喧嘩に発展させようとするんだから!」
「うるせえこの洗脳ババア!」
「なんですってこのクソガキ!!」
騒ぎ出す両者に苦笑が漏れる。
と、ふとアジェラが立ち上がり、とぼとぼと部屋を出ていった。その後ろ姿がなんだか辛そうで、リレイヌは騒ぐふたりをよそ、少し悩んでからアジェラの後を追いかける。
「アジェラ!」
走り、駆け寄り、呼んだ名前。
アジェラはくるりと彼女を振り返り、へらりと笑う。
「なんでしょう、リレイヌさま……」
確実に疲れきった様子の彼に、そっと目を伏せ、それを上げる。
そうして何があったのかを問えば、アジェラはにこやかな笑みを浮かべたまま言う。「何もありませんよ?」と。
「リレイヌ様の勘違いではないでしょうか? 僕は至って普通です。強いて言うなら寝不足なだけなので……」
「……アジェラ」
「……あなたに、心配される謂れはありません」
突き放すような一言だった。
どこか拒絶すら含まれていそうなそれを受け、リレイヌは一歩、アジェラの方へ。「ねえ」と声をかければ、気怠げな目がゆっくりと上げられる。
「……アジェラは、えっと……アジェラが苦しんでるのは──」
何かを言いかけたリレイヌの言葉を遮るように、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。途端、ブラックアウトする施設の明かり。思わず振り返るリレイヌは、赤く照らされた蛍光灯をその瞳に映し込む。
「……リレイヌ様」
なにが、と、一歩下がったリレイヌを呼び、アジェラが前へ。そうして、まるで彼女を守るようにその背に隠すと、「来ます」と一言。
「え?」と声を上げたリレイヌの視線の先、ボトボトと何かが天井より落下してくる。
黒い、ソレは、黒いなにかだった。得体の知れないそのなにかは、ブクブクと成長するとやがて巨大な生き物の姿を形作る。
見下ろすようにふたりの子供を見つめるソレは、「ママ……ママ……」と小さく鳴いた。そして、徐にその巨大な手をリレイヌへと伸ばしていく。
「──ボル」
手がリレイヌに触れるか触れないかの位置まで来た時、アジェラがぽつりと零した。口から落とされたその音を認識するよりも先に、巨大なソレは紫色の炎に包まれ燃え始める。
「ギャ……!! アツ……!! アツ、イ……!!」
まとわりつく炎を払おうと必死なソレに、アジェラはひとつ。指を立てて何かを詠唱。途端、彼の周りに広がる赤色の魔法陣に、リレイヌはひとり、大きく目を見開いた。
「燃えろ」
静かな声と共に発動された高火力な魔法。忽ちに黒い何かを焼き尽くしたソレにぽかんとするリレイヌは、「お怪我は?」と問われてすぐさま頭を横に振る。それに、アジェラは「そうですか」と微笑むと、やがてふらりとよろけてその場に膝を着く。リレイヌは慌てて彼を支えながら、「だ、大丈夫?」を口にした。
「……大丈夫です。少し、目眩がして……」
「アジェラ……」
「……それよりも、ふたりが心配ですね……一度戻りましょう。この停電のことも気になりますし……」
言いながらふらりと立ち上がるアジェラに、リレイヌは困ったような顔でこくりと頷く。
どちらにせよ、今やるべきは友達の安否確認と現状の把握。何も無いと良いけどと、彼女は歩き出すアジェラを支えながらゆっくりと先程までいた部屋に向かう。
チカチカと、赤い光が点滅していた。
目に痛いそれを横目、部屋へと戻ったふたりが目にしたのは、赤。
真っ赤なそれはベタベタと周囲に散乱しており、リレイヌは思わず言葉をなくす。
「……睦月は? リックは?」
「……」
「リジマ……先生は……?」
狼狽えたような呟き。
アジェラはそれを耳に、ゆっくりと顔を上げた。そして、「地下」と一言。そのままガクリと意識を失う。
「あ、アジェラ! アジェラ大丈夫!?」
慌てて声をかけて倒れた彼を揺すれば、「ううん……明太子……」と謎の言語を吐かれてしまった。どうやら寝ているようだ。
リレイヌは心底安心しながら、周囲を見回し視線をアジェラへ。置いては行けないと、彼を抱えてゆっくりと部屋を出て廊下を進む。
「……みんな、大丈夫かな」
不安に塗れながらぽつり。
「……地下、か」
あんまり行きたくないなと、若干の恐怖心を胸に、彼女はアジェラの示した地下へと向かい足を進めた。
リレイヌは近頃様子のおかしいアジェラたちを視界、ふとそんな事を考えた。その前方、必死に勉学と向き合う睦月が苦しそうに唸っている。
「ぐうう! なんっでいきなり勉強なんだよ!! 俺こういうのスゲー不得意なんですけど!?」
「バカそうだもんなお前」
「なにおう!!??」
怒鳴る睦月の隣、サラサラと文字を紙に連ねるリックが、フン、と軽く鼻を鳴らした。それにカチンと来たようだ。睦月は「上等だテメェ」と額に青筋を浮かべて立ち上がる。
「表に出ろこのクソすまし顔野郎。あの時みたいにコテンパンにしてやっからよ」
「そんなチンケな誘いに乗るとでも? バカはほとほと呆れるな」
「んだとコラァ!!」
怒鳴る睦月に「辞めなさい!」とリジマ。彼女は遺憾を表すように腕を組み、ウザそうな顔を浮かべる睦月を見下ろす。
「アナタたちは、ちょっとくらい仲良くしたらどうなの? 顔を突き合せたらすーぐ喧嘩に発展させようとするんだから!」
「うるせえこの洗脳ババア!」
「なんですってこのクソガキ!!」
騒ぎ出す両者に苦笑が漏れる。
と、ふとアジェラが立ち上がり、とぼとぼと部屋を出ていった。その後ろ姿がなんだか辛そうで、リレイヌは騒ぐふたりをよそ、少し悩んでからアジェラの後を追いかける。
「アジェラ!」
走り、駆け寄り、呼んだ名前。
アジェラはくるりと彼女を振り返り、へらりと笑う。
「なんでしょう、リレイヌさま……」
確実に疲れきった様子の彼に、そっと目を伏せ、それを上げる。
そうして何があったのかを問えば、アジェラはにこやかな笑みを浮かべたまま言う。「何もありませんよ?」と。
「リレイヌ様の勘違いではないでしょうか? 僕は至って普通です。強いて言うなら寝不足なだけなので……」
「……アジェラ」
「……あなたに、心配される謂れはありません」
突き放すような一言だった。
どこか拒絶すら含まれていそうなそれを受け、リレイヌは一歩、アジェラの方へ。「ねえ」と声をかければ、気怠げな目がゆっくりと上げられる。
「……アジェラは、えっと……アジェラが苦しんでるのは──」
何かを言いかけたリレイヌの言葉を遮るように、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。途端、ブラックアウトする施設の明かり。思わず振り返るリレイヌは、赤く照らされた蛍光灯をその瞳に映し込む。
「……リレイヌ様」
なにが、と、一歩下がったリレイヌを呼び、アジェラが前へ。そうして、まるで彼女を守るようにその背に隠すと、「来ます」と一言。
「え?」と声を上げたリレイヌの視線の先、ボトボトと何かが天井より落下してくる。
黒い、ソレは、黒いなにかだった。得体の知れないそのなにかは、ブクブクと成長するとやがて巨大な生き物の姿を形作る。
見下ろすようにふたりの子供を見つめるソレは、「ママ……ママ……」と小さく鳴いた。そして、徐にその巨大な手をリレイヌへと伸ばしていく。
「──ボル」
手がリレイヌに触れるか触れないかの位置まで来た時、アジェラがぽつりと零した。口から落とされたその音を認識するよりも先に、巨大なソレは紫色の炎に包まれ燃え始める。
「ギャ……!! アツ……!! アツ、イ……!!」
まとわりつく炎を払おうと必死なソレに、アジェラはひとつ。指を立てて何かを詠唱。途端、彼の周りに広がる赤色の魔法陣に、リレイヌはひとり、大きく目を見開いた。
「燃えろ」
静かな声と共に発動された高火力な魔法。忽ちに黒い何かを焼き尽くしたソレにぽかんとするリレイヌは、「お怪我は?」と問われてすぐさま頭を横に振る。それに、アジェラは「そうですか」と微笑むと、やがてふらりとよろけてその場に膝を着く。リレイヌは慌てて彼を支えながら、「だ、大丈夫?」を口にした。
「……大丈夫です。少し、目眩がして……」
「アジェラ……」
「……それよりも、ふたりが心配ですね……一度戻りましょう。この停電のことも気になりますし……」
言いながらふらりと立ち上がるアジェラに、リレイヌは困ったような顔でこくりと頷く。
どちらにせよ、今やるべきは友達の安否確認と現状の把握。何も無いと良いけどと、彼女は歩き出すアジェラを支えながらゆっくりと先程までいた部屋に向かう。
チカチカと、赤い光が点滅していた。
目に痛いそれを横目、部屋へと戻ったふたりが目にしたのは、赤。
真っ赤なそれはベタベタと周囲に散乱しており、リレイヌは思わず言葉をなくす。
「……睦月は? リックは?」
「……」
「リジマ……先生は……?」
狼狽えたような呟き。
アジェラはそれを耳に、ゆっくりと顔を上げた。そして、「地下」と一言。そのままガクリと意識を失う。
「あ、アジェラ! アジェラ大丈夫!?」
慌てて声をかけて倒れた彼を揺すれば、「ううん……明太子……」と謎の言語を吐かれてしまった。どうやら寝ているようだ。
リレイヌは心底安心しながら、周囲を見回し視線をアジェラへ。置いては行けないと、彼を抱えてゆっくりと部屋を出て廊下を進む。
「……みんな、大丈夫かな」
不安に塗れながらぽつり。
「……地下、か」
あんまり行きたくないなと、若干の恐怖心を胸に、彼女はアジェラの示した地下へと向かい足を進めた。
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