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第二話 近づけない距離
しおりを挟む「イーズ。今日はなにか予定が入っていたかな? 覚えているかい?」
メイドにより運ばれてきた食事を軽く平らげ、優雅な動作で口を拭う少女、リレイヌ。そんな彼女に、青年、イーズは「はい」と頷きメモ帳を取り出した。そしてその中身を開け、内容を朗読する。
「午前10時より、レヴェイユからリオル様が来訪される予定です。主様と今後のための話をしたいと仰っていました」
「ああ、なんか言ってたな……」
少しだけ遠い目になったリレイヌは、こほんと一つ咳払いをすると、「それ以外は?」と質問。これに、イーズは「特にありません。いつものように仕事漬けです」と答えてみせる。
「仕事漬けか……最近はリオルの奴が真面目に仕事をしているから量は然程ないが、やはり司令官としての責務は多いな」
「調整しますか?」
「いやいい。どうせ仕事以外にやることはないんだ。調整したら暇人になるし、弄らないで結構だよ」
からりと笑って告げた彼女に、イーズは「そうですか」と一言。メモ帳を仕舞う。
世界管理組織レヴェイユ。そう呼ばれる組織が存在していた。
その組織は数多に存在するとされる世界を一つ一つ管理するための組織で、世界崩壊を止めるために存在していると言っても過言ではない。
その組織の頂点に君臨するのがリレイヌの幼なじみであるリオル・シェレイザという男だ。飄々とした性格の彼は度々仕事をほっぽりだして外を練り歩き、皆を困らせる。それはそれは自由に生きている人間だ。半ば屋敷に幽閉されている形のリレイヌとは住む世界が若干違う輩である。
そんな彼が今日、この屋敷を訪れる。今後のための話をするために。
今後のための話とは一体なにか。また主様に無理難題を押し付けるんじゃないか。
イーズはそこまで考え、頭を振る。
そうなった時は自分がなんとかすればいい。そう考えて。
「それはそうと主様。そろそろ人肉を食べなくてはいけない時期ではないでしょうか」
びくりとリレイヌの肩が震えた。そうして恐る恐るといったように振り返った彼女は、笑顔なのにとても困ったような表情を浮かべている。
「やー、人肉はまだ間に合って……」
「食べなくなってから既に三ヶ月は経過しました。いい加減摂取しないと体に悪いですよ。ただでさえあなた方龍神の主食は人間なんですから」
畳み掛けるような説教に、リレイヌは口を閉ざして両耳を抑えた。若干不服そうにもとれる表情は彼女の幼さも相まって非常に愛らしいものだが、そんなことに流されるようではいけない。
人肉摂取は彼女に栄養をとってもらうためにも必要なことだ。ここは無理矢理にでも食べさせなければ……。
「……今日の夕食は人肉を使ったものにしてもらいます。嫌がっても食べてもらいますからね」
「……君は頑固だな」
はぁ、と嘆息。リレイヌは負けたと言いたげに肩をすくめる。
「わかった。食べる。食べるよ。そうしないと化け物になってしまうからね。それは避けたい」
「……化け物?」
「知らなくていいことだよ」
どこか冷たく告げたリレイヌに、まだ自分は彼女に近づけないのかと、イーズは一人、拳を握った。
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