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第三章
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しおりを挟む夢を見た。懐かしい夢を。
黒を基調とした学生服に身を包み、軽く寝坊して慌てる自分が、そこにはいた。上着のボタンを止めながら部屋を飛び出し、階段を滑るように駆け下りて一階へ向かう姿は、我ながら滑稽なものだと思う。
一階につくと、鼻腔を擽るのは良い香り。すでに満腹になっているはずの腹が、香りにつられてか一度鳴る。
朝食の用意された食卓には、かつて父であった人物が存在していた。その奥には母であった人物の姿もある。二人の顔は見えない。その理由はわからない。
栄養バランスを考えた彩ある食事を見て、自分は急いで席に座っていた。いただきますと手を合わせ、がっつくように口の中にパンを詰め込んでいる。
「あら、ジルったら寝坊?」
母が問うた。己は頷く。
「時計がぶっ壊れててさ。音鳴らなくて起きれなかった」
「あらま、じゃあ新しいの買い換えないとね」
「頼んますー」
勢いよく食事をかき込み、流すように胃の中へと送っていく。これは間違いなく腹痛を起こす案件だ。
そんな予想をしながら、目の前を通過していく母の姿を視線で追う。だが、母は俺には気づかない。
「親父、送ってよ。親父の車なら間に合う」
「構わんが、親父はこのコーヒーを飲み終わったら出るぞ?」
「まじかよ! 急ぐ!」
宣言通りに急ぎ、五秒以内に食事終了。ミルクと砂糖を追加したコーヒーを飲む父を急かすように、カバン片手に地団駄を踏む自分。ガキかよ、とツッコミたくなったが、やめておく。よく考えればまだガキなのだ。自分も。俺も。
「外出てるぞー!」
「おー、すぐ行く」
片手をあげて答えた父。その返事に満足気に笑い、自分は部屋を出ていく。それを、無意識の内に引き止めようと片手を伸ばした。掴もうとした腕はしかし、届いているはずなのに、なぜか掴めない。
「──行くな……」
震える声を紡ぎ出す。
「……死ぬぞ」
その一言と共に、目の前に広がる世界は、深い闇に包まれた。
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