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巻き込まれたシャーロット
しおりを挟む「やめてください! シャーロット様に何をなさるおつもりですか!!」
マリアンヌの悲痛な叫び声で、シャーロットは目を覚ました。頭がズキズキと痛む。
どうやら背後から殴られたようだ。
土埃が積もる床に仰向けで転がされ、腹部に重みを感じる。
「目が覚めましたか?」
年若い騎士の服を着た青年がシャーロットに馬乗りになり抑えつけているのが、かすむ視界で見て取れる。
(おかしいな……、身体の感覚がない……)
打ちどころが悪かったのか、頭は朦朧としていて、身体が言うことを聞かない。
「あなたには魔法封じを掛けさせてもらいました。彼女より劣るとはいえ、魔法を使われたら厄介ですからね」
その騎士は――アランはニヤリと笑い、シャーロットの胸元に手を伸ばす。着ていた制服は前をはだけさせられていて、下着が見えてしまっていた。
「や、め……!」
相手は学生だけだと思って油断していた。彼らを誑かしたのはコンラッドの騎士であるアランだ。マリアンヌを襲う現場に居合わせる可能性を考えるべきだった。
(私が……介入したから……?)
朦朧とする頭で、自分の失態を嘆いた。アランはこういうときのためにどこかに潜んでいたのだろう。
相手は王宮騎士だ。
いくら魔法の精度が上がったとはいえ、シャーロットよりも上位の魔法を操る彼の気配を辿れるはずがないのである。
「やっ……!」
彼の手が、シャーロットの乳房を乱暴に掴んだ。
「あなたは婚約者がありながら、淫らなことをしておいでのようだ」
下着から覗く素肌には、夜ごとにレオンにつけてもらった所有印が散りばめられている。
これを見れば、シャーロットが処女ではないことは明白だろう。
「似た者同士の婚約者ということですか」
ギリギリと、皮膚に彼の爪が食い込んでいく。
「おい、彼女は私が相手をする。お前たちも早くしてしまえ」
アランが少々乱暴な口調で男子生徒たちを急かした。彼らはお互いの顔を見合わせながら、涙ながらに嫌だと震えるマリアンヌの身体に触れていく。
「私はどうなっても構いません! だから、シャーロット様は……!!」
マリアンヌはこんな状況下で、何故かシャーロットを庇おうとしている。それを受け、ようやくシャーロットの意識がはっきりしてきた。
「――本当に、馬鹿がつくほど、良い子ですわね……」
ひとり、口の中で小さく呟く。シャーロットはキッとアランを睥睨し、唇の端を吊り上げた。
「あなた、こんなことをしてタダで済むと思っていらっしゃるの?」
「威勢がいいお嬢様ですね。あなたのせいで計画が狂ってしまった」
アランは、男子生徒に襲われていた彼女をコンラッドより先に助け、マリアンヌの心を自分に向けさせようとしたのだ。
彼に誑かされた男子生徒たちは捨て駒として利用されただけに過ぎない。だが原作でも、それは上手くいかなかった。
(あれ? どうして、上手くいかなかったんだっけ……)
コンラッドが駆けつけたとき、アランはすでに捕らえられていた。
(あ……! そうか、レオン様が捕らえて……!!)
ここでシャーロットは自分が三つの失敗をしていたことに気が付いた。
ひとつは自分がまだ学園を去っていないことを考慮しなかったこと。
ふたつめは首謀者の存在を忘れ、仮に捕らえられて魔法を封じられた時の対策をしなかったこと。
三つめは、シャーロットが自分の運命を変えたためレオンの行動がかなり前から原作を一脱しており、ここに居るべきレオンが存在していないことでアランを捕まえられる人間を自ら排除してしまったことだ。
「私は前から、団長が懇意にするあなたがどんな姿であの方を堕としたのか、気になっていました。ここで確かめてみるのも、良いですね」
「ッ……!」
これはまずい。
魔法が使えず、身体も言うことを聞かない。これでは攻撃する術がない。
(嘘うそ!! 無理むり!! レオン様以外の男に犯されるなんて、考えただけで吐き気がする!!)
じりっ、とシャーロットの恐怖を煽るようにして、下着の中に手が入ってくる。その瞬間、全身に鳥肌が立った。
(いや! 気持ち悪い!!)
助けて、と心の中で叫ぶ。
コンラッドが来るのはいつだろうか。
かなり癪ではあるが、今はあの腹黒鬼畜変態王子だけが頼りだ。
(レオン様……!!)
じわっ、と眦に涙が滲んだ。
気色の悪い男の手が、シャーロットの胸を揉みしだき、さらにもう片方の手がスカートの中に入ろうとする。
その瞬間、レオンの笑顔が脳裏を過り、シャーロットは思わず彼の名を口にしていた。
「っ!! レオン様ぁ!! 助けて!!」
大声でレオンに助けを求めてしまう。
だが、来るはずがない。
シャーロットはこの世界では『モブ扱い』に等しい。この世界で助けを求めてヒーローが駆けつけてくれるのは、ヒロインだけだ。
(こんな……、結局私は、この世界に嫌われてるっていうの……!?)
幸せな未来など、やはり悪役令嬢には訪れないのだろうか。
ギュッと目を閉じてせめてもの抵抗に顔をそむけると、こめかみに涙が伝った。
そのときだった。
ゴゴゴゴゴゴッと激しい地響きが起こり、シャーロットとマリアンヌに馬乗りになっていた男たちの均衡が崩れる。
そしてドゴォンッと何か大きな音がしたかと思えば、シャーロットの上からアランが消えていた。
(……あれ?)
助かったのだろうか、と身体を起こそうとするが、やはりまだ動かない。
視線だけを彷徨わせてアランを探すと、彼は倉庫小屋の壁にめり込んでいた。
それはもう見事に人型が出来ている。
「貴様。この私のモノに手を出すとは、死にたいのか?」
ドスの利いたその低音ボイスは、助けを求めたその人のものだった。視界の端にレオンの姿を捉え、安堵したのもつかの間、シャーロットは彼のその表情に思わず「ひっ」と喉を引き攣らせてしまった。
いつもの冷静で優しい彼ではない、怒りに身を震わせ鋭い眼光でアランを睥睨する彼は、憎しみに染まった目をしており、視線だけで人を殺せそうなほど迫力があった。
「おい、答えろ」
いつもは丁寧な言葉遣いであるのに、彼は完全にキレてしまっている。
壁にめり込むアランの頭を片手で鷲掴みにし、そのまま壁から引きずり出して宙づりにしていた。
「レオン。そいつにはまだ用事がある。殺すな」
少し遅れて、今度はコンラッドの声が響いてきた。冷静に状況を判断しているようだが、彼も声には深い憎しみが滲んでいる。
「殺すなら、この三人からだ」
コンラッドの声が、尻もちをついて震えている三人の少年たちへと向けられている。
彼らは何やら弁解の言葉を口々に言っていたが、コンラッドは宙に赤い小さな炎を出現させると、彼らの方へとスッと手の平で指した。するとその赤い炎は主の意思に従い目にも止まらぬ速さで三人へと襲い掛かり、言い訳を口にする彼らの喉を焼いた。
「一思いに消し炭にされなかったこと、有難く思え」
やはりコンラッドも相当激昂しているのか、その行動には容赦がなかった。
それをシャーロットはただ黙って見つめていた。
コンラッドが恐怖に負けて気を失ってしまったマリアンヌの身体を優しく抱き上げるのを確認し、心から安堵した。
「――よかった……」
「良くありません!!」
ぽそりと呟いた独り言に対して、レオンの怒号が鳴り響く。
「おい、レオン……」
マリアンヌを腕に抱いたまま、コンラッドが非難の声を上げるが、レオンはそれを無視して横たわったまま動けずにいるシャーロットの身体を起こし抱きしめる。
「なぜこんなことをしたのですか!!」
彼が怒るのは無理もない。
シャーロットが彼を撒いたりしなければ、こんなことにはならなかったのだから。
「ご、ごめんなさい……」
未だ動かない身体では彼を抱き返してあげられず、シャーロットはせめてその広い胸板に額を押しつけた。
(レオン様……、震えてる……)
怒りによる震えなのかとも思ったが、シャーロットにはレオンが泣いているように思えて、もう一度謝罪の言葉を繰り返した。
「ロティー……」
先ほどアランの頭を鷲掴みにした手で、優しく頭を撫でられた。アランは壁にぶつかった辺りから気絶していたようで、床に転がっている。
しばらくの間、シャーロットはレオンに抱きしめられたまま、一言も発さずされるがままその腕の中に閉じ込められていた。
コンラッドは他の騎士たちにアランを運ばせ、すでに立ち去っている。
どれくらいそうしていたのか、レオンは無言のままシャーロットを横抱きにして抱き上げると、どこかへと歩き出した。
寮へ戻るのかと思ったが、彼は謹慎塔の方へ向かっている。
(これは……やっぱり……)
ここからであれば、寮より謹慎塔の方が遥かに近い。
これからされることを予想し、シャーロットは恐怖と期待で瞳を潤ませるのだった。
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