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勝負の時、卒業式
しおりを挟む時は流れ、シャーロットは卒業の日を迎えようとしていた。
あの事件の後も、大小様々な問題が起きた。
ひとつは、シャーロットの妊娠が発覚したことだ。あれだけしているのだから、出来ない方がおかしいが、コンラッドとアラステアも巻き込んでそこそこ大事になった。
婚約を破談にする前に妊娠はさすがにまずい。一度は堕胎を勧められたが、シャーロットは頑としてそれを受け入れず、『この子を殺すなら私を殺してからにして!』と訳の分からない抗議の末、アラステアに胎児の成長を卒業まで止める禁術をかけてもらった。アラステアは無属性の魔法属性のある元王宮衛生騎士ということもあり、広くは知られていない禁術を熟知していた。
胎児の成長は、レオンとの婚約が成立した後に解除してもらうのだが、シャーロットは卒業式用に準備したドレスを纏いながらも、しきりに腹を撫で、まだ小さな我が子に想いを巡らせた。
「お嬢様……、本当に、お美しいですわ……」
シャーロットのドレスの着付けを手伝ってくれた侍女たちが、彼女の晴れ姿に涙を零している。
「紫色の生花のドレスだなんて、お嬢様以外に似合う方などおりませんわ!」
「あぁ私たちのお嬢様がこんなにご立派になられて……」
普段は平静を崩さず仕事をこなす彼女たちも、今日ばかりは感情を露わにしていた。目の前で泣かれると、そんなに愛されていたのか、と背筋がむず痒くなってくる。
彼女の卒業式用のドレスは、レオンに贈られた本物の紫の花々で作られた。
デザインはシャーロットが行い、レオンがいつの間にか捕まえてきた王都でも有名な仕立て屋に作らせたのだ。
胸元には紫色のバラの花びらが散りばめられ、スカートのフリルの代わりに様々な花が均等に列をなしている。スカート自体は布地だが、花びらのような形にしてもらった。
「まるで、花のお姫様……、いえ、女王様ですわ」
その言い方はちょっときついモノがあるが、シャーロットとしてもこの出来には満足している。
「ありがとう。私も、とても気に入っているわ」
これを着る日を、待ち遠しく思っていたのだ。
レオンの瞳の色と同じ色の紫色のドレス。これは、シャーロットの決意の表れでもある。
今日、何も知らない両親たちの前で、シャーロットはコンラッドと合同で婚約破棄の宣言をする。そして、レオンとの婚約について国王に許しを得るのだ。
突然のことなのですんなり話が進むとは思っていない。だが、シャーロットはひとりではない。
だからこそ、胸を張って堂々としなければならないのだ。
「シャーロット嬢。入っても宜しいですか?」
別の部屋で着替えていたレオンが、扉越しに声を掛けてくる。
「レオン様……!」
シャーロットはパァッと満面の笑みを浮かべ、ドアの方へと駆け寄ると自らそれを開けた。
「とても、綺麗ですよ」
レオンの胸に飛び込んだシャーロットを容易に受け止め、彼は微笑みかけてくれる。
彼は今日、シャーロットのエスコートをするために正装を身に着けている。その色はシャーロットの髪と同じ色の赤で揃えられていた。
「レオン様も、とても素敵ですわ」
一度彼から離れ、改めて正装を眺めると、本当によく似合っていた。
本来はコンラッドと一緒に会場に行かなければならないところを、彼を同行させたらみんなはどんな顔をするだろうか。
驚きとざわめきが起こるだろうことは予想されるが、卒業式までの色々を思い出すと、「やっぱり」と思われそうでもある。
今日までの間、ずっとシャーロットに対する同級生たちの態度は変わらなかった。
一定の距離を置き、声もかけてこない。
だがその視線は何か、とても良いモノを見つめているようにも見え、全部気づかれているのでは、と勘繰ってコンラッドを問い詰めたが、あの男は「別に良いじゃないか」と全く取り合わなかった。
レオンも「存じ上げません」としか言わず、あの事件がきっかけで少し仲良くなったマリアンヌには苦笑いをされる始末だ。
(なんだか、私だけ何も知らされていないような気がする……)
だが、レオンの前で訝し気な顔をすれば、彼を困らせてしまう。だから笑うよう心掛けた。
「さあ、ロティー。参りましょう」
そっと差し出された手を取り、シャーロットは大きく頷いた。
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