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17.夢のリゾートホテル(7)
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ただ、である。
世の中はそんなに甘くはない。
もし仮に、有給休暇を取る予定の日に会社が回らない、あるいは業務に支障が出るような事がある場合、会社側は、労働者に対して有給休暇の時期を別の日にしてもらう事が可能になるのである。
これが労働基準法、第三十九条五項の但し書きで定められた〝時季変更権〟というもの。
もっとも、時季変更権はあくまで有給休暇の日を変更させる事が可能になる権利というだけで、有給休暇の申請そのものを取り消す事はできない。
だが、上司から「その日は会社が回らんくなるで、休むのは他の日にしてちょーよー」とお願いされたら、仮にその業務に支障が出る、という理由が嘘であったとしても、立場の弱い部下としては従わざるを得なくなるのである。
俺はその「他の日にしてちょーよー」を言われるかも知れないのが一番心配なのだ。
ホテルの宿泊日がキッチリ決まっているのにもかかわらず、休むなら時期をずらせと言われた時点で、もうその予約と佐藤に払うお金が全部パーになるのだから。
ダメだダメだ、いち会社員が三日間も休みを取るための適当な理由が何も浮かばない。
もう嘘をついたって仕方ないし、ここは開き直って、正直に「旅行のため」と書いてしまおう。
緊急連絡先の欄は自分の携帯電話に、念のため両親がいる実家の電話番号も書いておく。
後は俺の印鑑を押して書類の作成終了、と。
はぁ、気が重いなぁ。こんな理由で提出して、本当に稟議が下りるんだろうか。
「おっ、柚月やないか。おはようさん」
有給休暇の申請書類に不備がないかチェックしていると、今しがた出社した佐藤が声をかけてきた。
「おはよう。お金、おろしてきたぞ」
「おお、さよけ。ほな今もらっても……というワケにはいかなそうやな」
佐藤が俺の作った書類に目を落とし、有給休暇申請理由の欄を見て、事情を察したようだ。
「これ出すのが休む日の六日前だからな。『急すぎる』って課長にどやされるかも知れないと思うと、ビクビクするんだよ」
「そこはまぁ、権藤課長の機嫌次第やな。後は、その時に仕事が詰まってないかどうかやろ」
「参考までに、佐藤はどうやって休みを取る予定だったんだ?」
「そんなもん簡単やがな、突然どっちかの爺ちゃんか婆ちゃんが死んだ事にすりゃええ。要は忌引や」
「えぇ?」
それを聞かされた俺はすっかり呆れてしまい、大きくため息をついた。
こいつ、有給休暇じゃなくて、勝手に架空で祖父母を殺して、特別休暇を使ってリゾートホテルに行こうとしてやがったのか。
「お前さぁ、仮に忌引で三日間会社を休むとして、休み明けにこんがり日焼けした体で出社するつもりだったの?」
「アカンか? 葬式の準備やらで動き回って焼けましてん、って言えば通るやろ」
「じゃあ会社から送る弔電は誰の名前にすればいいんだ? あと、式に弔問したいって人がいたらどうする?」
「うっ。そ、そこまでは考えてなんだわ……」
佐藤はその場にガックリと膝をついた。
学生が部活をサボる理由づけに使うならまだしも、会社という組織には内部調査というものが存在するのに、佐藤の策はあまりにも浅はかすぎる。
もっとも、そこまでしないと権藤課長が休みをくれるわけがないと判断して、ありもしない事をでっち上げてまで、休みを作りたくなるのも分からない話ではないが。
世の中はそんなに甘くはない。
もし仮に、有給休暇を取る予定の日に会社が回らない、あるいは業務に支障が出るような事がある場合、会社側は、労働者に対して有給休暇の時期を別の日にしてもらう事が可能になるのである。
これが労働基準法、第三十九条五項の但し書きで定められた〝時季変更権〟というもの。
もっとも、時季変更権はあくまで有給休暇の日を変更させる事が可能になる権利というだけで、有給休暇の申請そのものを取り消す事はできない。
だが、上司から「その日は会社が回らんくなるで、休むのは他の日にしてちょーよー」とお願いされたら、仮にその業務に支障が出る、という理由が嘘であったとしても、立場の弱い部下としては従わざるを得なくなるのである。
俺はその「他の日にしてちょーよー」を言われるかも知れないのが一番心配なのだ。
ホテルの宿泊日がキッチリ決まっているのにもかかわらず、休むなら時期をずらせと言われた時点で、もうその予約と佐藤に払うお金が全部パーになるのだから。
ダメだダメだ、いち会社員が三日間も休みを取るための適当な理由が何も浮かばない。
もう嘘をついたって仕方ないし、ここは開き直って、正直に「旅行のため」と書いてしまおう。
緊急連絡先の欄は自分の携帯電話に、念のため両親がいる実家の電話番号も書いておく。
後は俺の印鑑を押して書類の作成終了、と。
はぁ、気が重いなぁ。こんな理由で提出して、本当に稟議が下りるんだろうか。
「おっ、柚月やないか。おはようさん」
有給休暇の申請書類に不備がないかチェックしていると、今しがた出社した佐藤が声をかけてきた。
「おはよう。お金、おろしてきたぞ」
「おお、さよけ。ほな今もらっても……というワケにはいかなそうやな」
佐藤が俺の作った書類に目を落とし、有給休暇申請理由の欄を見て、事情を察したようだ。
「これ出すのが休む日の六日前だからな。『急すぎる』って課長にどやされるかも知れないと思うと、ビクビクするんだよ」
「そこはまぁ、権藤課長の機嫌次第やな。後は、その時に仕事が詰まってないかどうかやろ」
「参考までに、佐藤はどうやって休みを取る予定だったんだ?」
「そんなもん簡単やがな、突然どっちかの爺ちゃんか婆ちゃんが死んだ事にすりゃええ。要は忌引や」
「えぇ?」
それを聞かされた俺はすっかり呆れてしまい、大きくため息をついた。
こいつ、有給休暇じゃなくて、勝手に架空で祖父母を殺して、特別休暇を使ってリゾートホテルに行こうとしてやがったのか。
「お前さぁ、仮に忌引で三日間会社を休むとして、休み明けにこんがり日焼けした体で出社するつもりだったの?」
「アカンか? 葬式の準備やらで動き回って焼けましてん、って言えば通るやろ」
「じゃあ会社から送る弔電は誰の名前にすればいいんだ? あと、式に弔問したいって人がいたらどうする?」
「うっ。そ、そこまでは考えてなんだわ……」
佐藤はその場にガックリと膝をついた。
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もっとも、そこまでしないと権藤課長が休みをくれるわけがないと判断して、ありもしない事をでっち上げてまで、休みを作りたくなるのも分からない話ではないが。
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