ショタっ娘のいる生活

松剣楼(マッケンロー)

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52.夏の終わりに(23)

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 しかしまぁ、将来のお嫁さんになってくれる、うちのショタっ娘ちゃんは、さすがに他の子供らとは着眼点が違うねえ。

 先程、地球以外の天体と、はぐれてしまった人工衛星のバランスが取れるかも知れない、という仮説の根拠として、アイザック・ニュートンによる『万有引力の法則』を用いたのだが、この法則を子供向けに説明するとこうなる。

 例えば、俺が今いる庭で、手に持ったボールを下方向へ離した場合、当然ボールは地面に落ちる。この現象を説明するにあたり、「ボールが地球の引力に引っ張られたから地面に落ちた」と考える人は少なからず存在する。

 その解答は半分正解なのだけれども、実は、「落としたボールも同様に引力を持っている」ため、試験問題の答えとしては三角、あるいはバツになってしまうのだ。

 アイザック・ニュートンは、ただの引力ではなく、「万有引力」の法則を発見した。すなわち、質量(物質そのものが持つ量)を持つモノは全てが引力を持つ事を示した言葉であり、「万有」の万は、万事ばんじのような、全てのものを示す単語を用いている。非常に分かりやすい和訳だ。

「ねぇお兄ちゃん。地球の引力ってどこまであるの?」

「ん? 『どこまで』とは?」

「えっと……地球の外って言うのかなぁ。地球からどれくらい離れたら、引力がなくなっちゃうのかなーって思ったの」

「ははぁ、なるほど。つまり距離の問題だね」

 その答えはどうやら正解だったようで、ミオがうんうんと頷いた。

「そうだなぁ。ミオが今いる場所を知らせるための信号を送る、GPS衛星はだいたい二万キロメートルくらい離れてるらしいけど」

「それでも引っ張り合ってるの? でも、二万キロってどのくらいの距離なのか分かんないよー」

 ミオはそう言うや、俺と密着するくらい距離を縮めると、いつものごとく、愛おしそうに俺の腕を抱きしめてきた。

 今更こんな事を思うのも何だが、うちの子猫ちゃんは甘えんぼうさんだなぁ。分からない事柄に面した折、俺を頼って「教えて教えてー」とお願いしてくるのが、とてもいじらしい。もちろん、良い方の意味で。

 それに引き替え、お袋をして「悪女」と切り捨てた元カノ・未玲の態度といったらもう、怒る気にもなれないくらい酷いものだった。

 ある日。街中まちなかのグレーチング(側溝で雨水を排水できる、格子状の鉄蓋)に引っかかって、未玲が履くハイヒールのヒール部分が折れるアクシデントが起きた。

「これ高かったのにー!」などと怒り心頭でわめき散らす未玲を見かねた俺は、「近くに靴屋があるから、修理しに行こうか?」と提案し、バランスを崩して転ばぬよう、手を差し伸べた。

 が、未玲は「義弘の手は暑苦しいから嫌」と一蹴した挙げ句、その場で拾ったタクシーに乗り込むや、俺を置いてきぼりにして帰ってしまったのである。

 その高かったハイヒールは誕生日プレゼントとして、未玲に指定されて買ったやつだから、俺の財布も少しは心配して欲しかったんだけどな。
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