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プロローグ
その1 似てない双子
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降っていた雨が上がり、参道に敷き詰められた玉砂利が濡れ、色を濃くしている。
神社の拝殿で二礼二拍手一礼した桃瀬菜々美は、「再就職できますように」と小さくつぶやいて、がらんと鈴を鳴らした。
父を早くに亡くし、保育士をしながら女手ひとつで育ててくれた母と、東京でモデルと大学生活を両立して頑張っている双子の妹――美月の顔が胸に去来し、家族のためにも早く再就職しなければと、ぐっと拳を握りしめる。
「あっ、桃瀬さんじゃない?」
振り返ると、高校の時の同級生の男が立っていた。同じクラスになったことはなく、名前が出てこない。
彼は口角を上げ、手を振りながら距離を詰めてきた。
「久しぶり。鈴木誠だよ。桃瀬さんは調理の専門学校を出て、カフェに就職したんだって?」
菜々美はコクリと頷くだけにした。そのカフェは三ヶ月でクビになり、現在は絶賛求職中なのだ。
「ところで、美月ちゃんは今も東京にいるんだよね? モデルのバイトと学業の両立、大変だろうね。今度いつ帰ってくるの?」
帰省する日がわかっても、美月の許可もなく教えるつもりはないし、家族水入らずの時間を邪魔しないでほしい。
「……さあ。美月は忙しくて、なかなか帰省できないみたいです」
「それじゃあ、美月ちゃんの連絡先を教えてよ。元気にしているか、声だけでも聞きたいんだ。僕は……」
「妹の連絡先を勝手に教えるわけにはいきません」
きっぱり言うと、鈴木の表情に苛立ちが浮かんだ。
「誠くーん」
手水舎からミニスカートの女性が小走りに駆けてきて、は鈴木の腕に手を絡ませた。
彼女は菜々美を睨みつけてくる。
「この人、誰?」
「高校の時の同級生だよ。東京でモデルをしている桃瀬美月さんって子がいるだろう。似てないけど、彼女の双子の姉だよ」
「ええっ、嘘! あのモデルの美月の姉? まったく似てないじゃない!」
美月は色白で茶色の大きな瞳、高い鼻梁と桜色の小さな唇が神業のようなバランスで配置された清純派美少女だ。
一方の菜々美は地味な容姿で、すべてにおいて『並』だった。
似てないと言われることには慣れているので黙っていると、美月の連絡先を教えてもらえないことに気持ちが収まらないのだろう。鈴木が当てつけのように言った。
「確か桃瀬さん家って、お父さんがいないんだよね。もしかしたら美月ちゃんは捨て子なんじゃないかって噂があっるんだよ。いくらないんでも似てなさすぎだから。桃瀬さんもおかしいって思ってるんじゃないの? 本当のところ、どうなのさ」
「私と美月が似てないことはわかっています。だからといって、何も関係のないあなたたちが、いい加減なことを言うのはやめてください。美月と私は間違いなく、双子の姉妹です」
怒気をにじませながらも、わざと丁寧な口調で言い切る菜々美の毅然とした態度に、鈴木と彼女はようやく黙った。
「桃瀬さん、あの……」
「アタシたちは別に……」
言い訳をしようとする二人に「急ぐので、それじゃあ」と背を向け、菜々美は足早に歩き出す。
初めて言われたのなら、深く傷ついただろう。今までも心ない噂は、菜々美の耳に入ってきた。
それに似てない姉妹だということは、菜々美自身が一番わかっている。
母子家庭で育ち、父親の顔さえ知らない菜々美と美月は、リレーに例えると、皆より遠くのスタートラインから、走らされてきたようなものだ。
全速力で皆の背中を追うが、その差はなかなか縮まらない。
そんな中、隣を走っていた美月は、持って生まれた容姿の良さから、あっという間に皆に追いつき、追い越していく。
菜々美はそんな美月を誇らしく思いながら、歯を食いしばり、全速力で皆の背中を追いかけ続けている。
(似てないけれど、美月は同じ両親から生まれた、私の大切な双子の妹だもん……!)
何があっても――本当に血がつながっていないのだとしても、生まれた時から一緒にいる美月のことが大好きで大切だ。好き勝手言いたい人は放っておけばいい。
大きく深呼吸をして、菜々美は鳥居をくぐり抜けて大通りに出た。
神社の拝殿で二礼二拍手一礼した桃瀬菜々美は、「再就職できますように」と小さくつぶやいて、がらんと鈴を鳴らした。
父を早くに亡くし、保育士をしながら女手ひとつで育ててくれた母と、東京でモデルと大学生活を両立して頑張っている双子の妹――美月の顔が胸に去来し、家族のためにも早く再就職しなければと、ぐっと拳を握りしめる。
「あっ、桃瀬さんじゃない?」
振り返ると、高校の時の同級生の男が立っていた。同じクラスになったことはなく、名前が出てこない。
彼は口角を上げ、手を振りながら距離を詰めてきた。
「久しぶり。鈴木誠だよ。桃瀬さんは調理の専門学校を出て、カフェに就職したんだって?」
菜々美はコクリと頷くだけにした。そのカフェは三ヶ月でクビになり、現在は絶賛求職中なのだ。
「ところで、美月ちゃんは今も東京にいるんだよね? モデルのバイトと学業の両立、大変だろうね。今度いつ帰ってくるの?」
帰省する日がわかっても、美月の許可もなく教えるつもりはないし、家族水入らずの時間を邪魔しないでほしい。
「……さあ。美月は忙しくて、なかなか帰省できないみたいです」
「それじゃあ、美月ちゃんの連絡先を教えてよ。元気にしているか、声だけでも聞きたいんだ。僕は……」
「妹の連絡先を勝手に教えるわけにはいきません」
きっぱり言うと、鈴木の表情に苛立ちが浮かんだ。
「誠くーん」
手水舎からミニスカートの女性が小走りに駆けてきて、は鈴木の腕に手を絡ませた。
彼女は菜々美を睨みつけてくる。
「この人、誰?」
「高校の時の同級生だよ。東京でモデルをしている桃瀬美月さんって子がいるだろう。似てないけど、彼女の双子の姉だよ」
「ええっ、嘘! あのモデルの美月の姉? まったく似てないじゃない!」
美月は色白で茶色の大きな瞳、高い鼻梁と桜色の小さな唇が神業のようなバランスで配置された清純派美少女だ。
一方の菜々美は地味な容姿で、すべてにおいて『並』だった。
似てないと言われることには慣れているので黙っていると、美月の連絡先を教えてもらえないことに気持ちが収まらないのだろう。鈴木が当てつけのように言った。
「確か桃瀬さん家って、お父さんがいないんだよね。もしかしたら美月ちゃんは捨て子なんじゃないかって噂があっるんだよ。いくらないんでも似てなさすぎだから。桃瀬さんもおかしいって思ってるんじゃないの? 本当のところ、どうなのさ」
「私と美月が似てないことはわかっています。だからといって、何も関係のないあなたたちが、いい加減なことを言うのはやめてください。美月と私は間違いなく、双子の姉妹です」
怒気をにじませながらも、わざと丁寧な口調で言い切る菜々美の毅然とした態度に、鈴木と彼女はようやく黙った。
「桃瀬さん、あの……」
「アタシたちは別に……」
言い訳をしようとする二人に「急ぐので、それじゃあ」と背を向け、菜々美は足早に歩き出す。
初めて言われたのなら、深く傷ついただろう。今までも心ない噂は、菜々美の耳に入ってきた。
それに似てない姉妹だということは、菜々美自身が一番わかっている。
母子家庭で育ち、父親の顔さえ知らない菜々美と美月は、リレーに例えると、皆より遠くのスタートラインから、走らされてきたようなものだ。
全速力で皆の背中を追うが、その差はなかなか縮まらない。
そんな中、隣を走っていた美月は、持って生まれた容姿の良さから、あっという間に皆に追いつき、追い越していく。
菜々美はそんな美月を誇らしく思いながら、歯を食いしばり、全速力で皆の背中を追いかけ続けている。
(似てないけれど、美月は同じ両親から生まれた、私の大切な双子の妹だもん……!)
何があっても――本当に血がつながっていないのだとしても、生まれた時から一緒にいる美月のことが大好きで大切だ。好き勝手言いたい人は放っておけばいい。
大きく深呼吸をして、菜々美は鳥居をくぐり抜けて大通りに出た。
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