あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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プロローグ

その2 菜々美と美月 

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 空を見上げると、厚みのある雲をふちどる鈍色にびいろ日差ひざしの中から、群青が所々透かし見えた。
 神社から歩いて二十分ほどの静かな住宅街の中に、菜々美の家がある。
 築二十年以上になるが、ペパーミントグリーンの外観がおしゃれな家は、両親が結婚した時に建てたもので、車が一台停められるスペースと、奥に小さな庭があり、季節の花々が咲いて美しい。

 玄関横にある郵便ポストを確認すると、菜々美ての封書が三通、届いていた。

「返事がきた……!」

 菜々美は一目散いちもくさんに自室へ戻ると、震える手で封書を開封していく。

「これは――不採用通知。ああ、こっちも……」

 送り返された自筆の履歴書を見ると、元気が吸い取られていくようで、思わず菜々美はしゅんと肩を落とした。
 一縷いちるの望みを頼りに、菜々美は三通目の封書を開封する。

「あ……。や、やった」

 そこには『採用面接に来てほしい』という文字が大きく印字されていた。書類に目を通し、信じられない気持ちで自分の頬をつねってみる。

「痛い……夢じゃない!」

 菜々美はすぐにスマートフォンを操作して、東京で暮らしている双子の妹、美月へ電話をかけた。
 タイミングよく数回のコールでつながり、明るい美月の声が聞こえてくる。

『菜々美、久しぶりだね。元気?』
「うん! 美月、聞いて! あ、今大丈夫?」
『大丈夫よ。何かあった?』

 興奮しすぎたせいで、美月の声に不安が混じっている。

「嬉しいニュースよ。書類選考だけで二十社は落とされたけど、ようやく採用面接を受けられるの!」

 大きな声でそう言うと、受話器の向こうで美月がほぅっと安堵のため息をついた。

『よかった……! よかったね、菜々美。……あたしのせいで色々とごめん』

 菜々美は驚き、強く首を横に振った。

「美月は何も悪くないよ! 私の様子を見に、来店してくれただけなのに。悪いのはあのパワハラオーナーだよ」

 菜々美が就職したカフェのオーナーが、来店した美月に一目惚ひとめぼれしてしまったのだ。
 彼は鈴木の百倍しつこく美月の連絡先を聞いてきた。
 もちろん菜々美が美月の連絡先を教えるはずがなく――結局は公私混同のパワハラのゴリ押しで、退職に追い込まれたのだ。

 調理師免許がある菜々美は、探せば次の仕事はすぐに見つかると思っていたが、時期が悪いのか、履歴書を送っても書類選考で落とされ続け、なかなか面接まで進まなかった。
 ようやく書類選考が通った喜びを噛みしめていると、美月が弾んだ声で訊いてきた。

『それで、あとは採用面接だけなの?』
「面接と実技試験の両方があるみたい。それでね、すごいのよ。甘味堂夕かんみどうゆうさりって和菓子店なんだけど、店舗てんぽの場所がわかりにくいらしくて、大元おおもと神社の鳥居とりい付近まで迎えに来てくれるって」
『えっ、途中まで迎えに来てくれるの? すごく親切な和菓子店ね』

 同じことを菜々美も思った。受話器を手に深く頷く。

「そうなの。私、この夕さりというお店で働きたい。頑張るからね」
『うん。応援しているわ。あたしにできることがあれば何でも言って』
「ありがとう、美月」

 通話を終え、菜々美は窓の外の曇天を見上げた。

(この空が東京へ続いている。私が退職した責任を感じている美月のためにも、再就職を急ぎたい……!)


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