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プロローグ
その3 実技試験に向けて
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実技試験に向けて、菜々美は和菓子の本を持ち込み、キッチンに立った。
調理師の専門学校で和菓子も一通り学んでいるが、忘れていることも多い。
「実技試験に備えて、和菓子の勉強をやり直さないと」
よしっと拳を握りしめ、菜々美は気合を入れる。
和菓子には様々の種類がある。
四季折々の花々を模した伝統的な和菓子「練り切り」
米粉を中心にした粉と砂糖を水で溶き、蒸して仕上げた「外郎」
餡にそのまま粉を混ぜ合わせ、やわらかさと弾力を持つ「こなし」
糒を蒸らして作る餅菓子「道明寺」
餡玉に、四季折々の風情を表すそぼろ餡をまぶした「きんとん」
なめらかさと弾力性を持つ白い餅生地が特徴的な「求肥」
寒天と水を煮溶かし、砂糖や水飴を加えた夏の代表和菓子「錦玉羹」
山の芋をすり混ぜ、ふっくら蒸しあげた、上生菓子の代表「薯蕷饅頭」
葛焼き、涼味、琥珀糖、落雁や煎餅、霰、餡蜜、有平糖など、和菓子は多種多様なのだ。
菜々美は届いた封書をもう一度読み直し、胸にぎゅっと押し当てた。
「甘味堂夕さり……採用されたい。実技試験で何を出されてもいいように練習しなきゃ。何から作ろう? そうだ。この時期なら『水無月』は外せないわ」
半年の穢れを祓い、残りの半年の無病息災を祈願する夏越祓の六月三十日にいただくお菓子が『水無月』だ。
白い外郎生地の上に甘く煮た小豆をのせ、三角形に包丁を入れた水無月の外観は、暑気払いの氷を表すと言われている。
肩まである髪をポニーテールにすると、菜々美は早速エプロンをつけ、腕まくりをした。
甘納豆を熱湯にくぐらせ、水気を切り、蒸籠を強火にかける。
白玉粉と本葛粉を水で溶き、薄力粉や上新粉、上白糖と混ぜ合わせる。その生地を流し缶の中に入れ、蒸気が上がった蒸し器の中へ入れた。
ヘラで表面のぬめりを取り、甘納豆を全体にむらなく散らして残りの生地を流し入れ、さらに蒸した。冷めたら型から外して三角形に切って完成だ。
「まあ、水無月! 菜々美ちゃんが作ったの? 売っているものと同じくらいきれいな三角形ね」
「お母さん、美味しくなかったら正直に言ってね」
「わかったわ。ではいただきます。……んんっ! ぷるんとした口溶けが最高で、すごく美味しい!」
和菓子好きな母は、喜んで水無月を食べてくれた。
急須で煎茶を注ぎ、心を落ち着けて菜々美も水無月を味見する。
(本当だ。美味しい……!)
ぎっしりと詰まった小豆と、外郎の上品な甘みが混ざって、いくらでも入る。いい感じだ。
「大丈夫よ。菜々美ちゃんはきっと『夕さり』に採用してもらえるわ」
母の笑顔に自信をつけた菜々美は、その日から様々な和菓子を作り、実技試験に備えた。
そしていよいよ、試験の日になった――。
調理師の専門学校で和菓子も一通り学んでいるが、忘れていることも多い。
「実技試験に備えて、和菓子の勉強をやり直さないと」
よしっと拳を握りしめ、菜々美は気合を入れる。
和菓子には様々の種類がある。
四季折々の花々を模した伝統的な和菓子「練り切り」
米粉を中心にした粉と砂糖を水で溶き、蒸して仕上げた「外郎」
餡にそのまま粉を混ぜ合わせ、やわらかさと弾力を持つ「こなし」
糒を蒸らして作る餅菓子「道明寺」
餡玉に、四季折々の風情を表すそぼろ餡をまぶした「きんとん」
なめらかさと弾力性を持つ白い餅生地が特徴的な「求肥」
寒天と水を煮溶かし、砂糖や水飴を加えた夏の代表和菓子「錦玉羹」
山の芋をすり混ぜ、ふっくら蒸しあげた、上生菓子の代表「薯蕷饅頭」
葛焼き、涼味、琥珀糖、落雁や煎餅、霰、餡蜜、有平糖など、和菓子は多種多様なのだ。
菜々美は届いた封書をもう一度読み直し、胸にぎゅっと押し当てた。
「甘味堂夕さり……採用されたい。実技試験で何を出されてもいいように練習しなきゃ。何から作ろう? そうだ。この時期なら『水無月』は外せないわ」
半年の穢れを祓い、残りの半年の無病息災を祈願する夏越祓の六月三十日にいただくお菓子が『水無月』だ。
白い外郎生地の上に甘く煮た小豆をのせ、三角形に包丁を入れた水無月の外観は、暑気払いの氷を表すと言われている。
肩まである髪をポニーテールにすると、菜々美は早速エプロンをつけ、腕まくりをした。
甘納豆を熱湯にくぐらせ、水気を切り、蒸籠を強火にかける。
白玉粉と本葛粉を水で溶き、薄力粉や上新粉、上白糖と混ぜ合わせる。その生地を流し缶の中に入れ、蒸気が上がった蒸し器の中へ入れた。
ヘラで表面のぬめりを取り、甘納豆を全体にむらなく散らして残りの生地を流し入れ、さらに蒸した。冷めたら型から外して三角形に切って完成だ。
「まあ、水無月! 菜々美ちゃんが作ったの? 売っているものと同じくらいきれいな三角形ね」
「お母さん、美味しくなかったら正直に言ってね」
「わかったわ。ではいただきます。……んんっ! ぷるんとした口溶けが最高で、すごく美味しい!」
和菓子好きな母は、喜んで水無月を食べてくれた。
急須で煎茶を注ぎ、心を落ち着けて菜々美も水無月を味見する。
(本当だ。美味しい……!)
ぎっしりと詰まった小豆と、外郎の上品な甘みが混ざって、いくらでも入る。いい感じだ。
「大丈夫よ。菜々美ちゃんはきっと『夕さり』に採用してもらえるわ」
母の笑顔に自信をつけた菜々美は、その日から様々な和菓子を作り、実技試験に備えた。
そしていよいよ、試験の日になった――。
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