あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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二皿目 黄身時雨と初恋の人に会いたい鎌いたち

その12 一年ぶりの再会 

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 蘭丸は、アパートの来客用と書かれた駐車場へ停車した。

「えっと、ユカリさんの部屋は302号室だから、ここの三階ですね」
「そうですね……」

 菜々美は和菓子の袋を持って車を降りると、アパートを見上げた。わりと新しい五階建てで、外観がピンクでドアが白色で可愛い雰囲気だ。

(このアパートって……)

 嫌な胸騒ぎを覚え、ちらりとノリヒサを見る。彼は緊張のあまり口数が減り、青ざめながら少し遅れて蘭丸の後についていく。

「菜々美ちゃん、ぼぅっとしてどうしたの? 上がっておいでよ」

 蘭丸は上機嫌で階段を上がっていく。

「よし、ここだね。表札がでてないなぁ。まあ、セールスとかが多いから、表札を出さない人も多いらしいし。それじゃあ、押すね」

 三人で302号の前に立ち、蘭丸が呼び出しベルを押した。ピンポーンという音がドア越しに聞こえる。

「あの、ノリヒサさんから、ユカリさんへ『黄身時雨』を渡してあげてください」

 菜々美がそっと紙袋を手渡した。

 じきに「はい」と応答する女性の声がした。ハッとノリヒサが顔を上げる。

「ユ、ユカリの声です!」

 蘭丸が「どうも。少し前にお電話しました、『甘味堂夕さり』です」と穏やかに告げると、ガチャリと音が響き、ドアが細く開く。

「――お待ちしていました」

 ドアから顔を出したのは、肩につかないショートカットの髪をした小柄で可愛い女性だった。菜々美はぺこりとお辞儀をする。

(この人が二口女のあやかしで、ユカリさん……)

 二口女は後頭部にもう一つの口を持つあやかしで、江戸時代の奇談集『絵本百物語』に登場しているが、ユカリは人型を取っているので、見た目は若い普通の女性だ。
 咲人が電話連絡を入れたこともあり、ユカリはノリヒサを見ても驚きはしなかった。

「……」

 二人は時が止まったように、互いを見つめ合っている。最初に口を開いたのはユカリだった。
 彼女はため息交じりの小さな声で、目を細めて囁いた。

「久しぶりね。ノリヒサ」
「ユ、ユカリ……うん。ひ、久しぶり。あの、僕……ずっと、その……」

 蘭丸が笑いながらノリヒサの背中を叩く。

「口下手か、ノリヒサさん! しっかりしてくださいよー」
「ふふふ、ノリヒサのそういうところ、変わってないわね」

 菜々美は一瞬、蘭丸の無邪気さに汗が浮かんだが、ユカリが笑ったことで、ノリヒサも照れ笑いしているし、その場の空気が和んでほっとする。

「ユ、ユカリこそ、全然変わってないね。一年前のままだ」
「そう? あたしは変わったのよ」

 意味深な言葉をつぶやき、ユカリは菜々美と蘭丸の方を向いて会釈をした。

「初めまして。谷本ユカリです。お二人が『甘味堂夕さり』の方ですね? どうぞ、部屋に上がってください。お茶を淹れますので。ノリヒサも中へ入って」

 白色の玄関ドアから中は、菜々美が思っていたより広かった。通されたリビングの他、二部屋もある。

(ここって、家族用のアパートじゃ……?)

「菜々美ちゃん、あのさ……ここ、広くない?」

 さすがに天真爛漫な蘭丸もアパートの広さに気づいたようで、小声でそうつぶやいた。
 ノリヒサはユカリしか目に入ってない様子で、いきなり腰を折るようにして、がばっと深く頭を下げた。

「ユ、ユカリに、謝ろうと……ずっと思っていた。あの、ごめんね。僕は自分の転勤のことで頭がいっぱいで。一緒に来たいという君の気持ちを無視してしまった」

 ユカリは小さく微笑んだ。

「もういいの。あたしもちゃんと話し合わず、怒って喧嘩別れして、悪かったと反省しているわ。何度か連絡しようと思ったけれど……」
「ぼ、僕もだよ。つい意地になってしまった。本当に馬鹿だった」

 ノリヒサとユカリが互いに謝りあっていると、部屋の奥からか細い泣き声が聞こえてきた。

「ふぇぇぇん、ふわぁぁぁあぁぁん」
「赤ちゃんが起きちゃったわ。ちょっとごめんなさい」
「あ、赤ちゃん?」

 菜々美と蘭丸の声が重なる。
 衝撃を受けたノリヒサが、凍り付いたように動きを止め、リビングを出て行ったユカリの後姿を、縋るような眼差しで見つめていた。
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