あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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三皿目 ろくろ首の母娘と水羊羹

その12 ろくろ首の攻撃

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「……妻とは離婚したが、アカリは大切な娘だ。娘を渡せ!」

 叫びながら康之の首が、しゅるるると音を立てて伸びた。歯を剥き出しにした康之の顔が、菜々美の首筋へ向かってものすごい勢いで襲ってくる。

「……っ」

 咄嗟に腕で首をかばうと、牙のような鋭い歯が腕に食い込んだ。

(痛い……っ)

 激痛に息を呑みながらも、菜々美はアカリを放さない。

「お、お姉さん……」
「……大丈夫よ!」

 なんとか隙を見て、アカリを連れて逃げなければ。アカリの家までは、そう遠くない。
 そう思うが、康之の攻撃な執拗で、心臓が独ドクドクと早鐘を打ち付け、噛まれる痛さに倒れそうになる。

「アカリを寄越せ!」

 康之の首が菜々美の目の前で大きく口を開けた刹那、何かが疾風のように現れた。

「菜々美に触るな!」

 今までに聞いたことのない怒気を含んだ咲人の叫びに、菜々美は目を見開いた。
 康之の細く伸びた首を掴んで投げ飛ばし、菜々美とアカリを背にかったのは、銀色の長髪を風に踊らせた咲人だった。
 咲人の全身から迸る怒気を感じ、彼が激怒していることが伝わってきて、菜々美はこくりと喉を鳴らした。

「咲人さん……! ど、どうしてここが?」

 すぅっと激昂した気が薄れ、咲人は康之を見据えたまま、菜々美の方へ答える。

「お前の翡翠のピアスには、特別な妖力を注いである。危険を察知すると対になっているピアスの色が変化して、居場所と共に知らせてくれる――」

 左耳朶のピアスにそっと触れながら、そんな妖力が込められていたのかと菜々美は感心した。

「菜々美ちゃん……えっ、咲人さん?」

 公園の入り口から蘭丸が走ってきた。話が終わって迎えに来たのだろう。間宮と清美も蘭丸の後ろから走って公園に入ってくる。

「アカリ!!」

 間宮がスピードを上げ、アカリを抱きしめようとする。

「アカリに触るなぁぁぁ! オレの娘だあぁぁぁ!」

 駄々をこねる子供のような叫び声を上げ、康之の首が間宮に襲いかかる。

「お、お前が誰だろうが、清美チャンとアカリちゃんを傷つけることは許さないっ」

 面倒くさがりでチャラ男の間宮が激怒している。垂れた目を吊り上げ、ぽっちゃりした体躯からは考えらない機敏で勇敢な動きで、康之の首を振りほどく。
 そのまま一目散に、突っ立っている首のない体へ渾身の力で体当たりした。

「うぐっ……!」

 吹っ飛んだ康之の体がブランコの柵にぶつかり、尻もちをつく。
 同時に伸びている首が「くそっ」と悪態をつき、しゅるると首を縮めて、倒れていたからだに戻った。
 清美が怯えているアカリへ走り寄る。

「アカリ!」
「ママ! リュウおじちゃん!」

 清美がアカリを抱きしめ、二人を間宮が両手で包み込むようにする。
 その様子に、康之が舌打ちし、立ち上がって元妻を一瞥した。

「清美、もう他の男をたぶらかしたのか。このアバズレが」

 間宮が康之の胸蔵を掴んだ。

「なんだよ、その言い方は! 清美チャンのことを悪く言うな! あんたと別れて一年が経つ。恋愛をしても問題はないだろう!」

 蘭丸が大きな声を張る。

「それより、あなたの方が問題ですよ。アカリちゃんの体の傷や火傷の痕は全部、あなたの仕業だったんですね。アカリちゃんがなぜ黙っていたかわからないんですか!」

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