あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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四皿目 どら焼きと離婚寸前の夫婦

その2 鬼之丞とみたらし団子

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 焼き上がったどら焼きの生地をケーキクーラ―に載せ、乾燥しないように乾いた布巾をかぶせておく。大きさの揃った一枚に餡を挟み、二枚を組み合わせて完成だ。

「鬼之丞ちゃん、どら焼きも味見してね」
「しゅる! ななたん、ありがと」

 菜々美はどら焼きの半分をさらに半分にちぎって、ふぅふぅと冷まして銘々皿に載せ、鬼之丞に手渡した。

「あむっ、あむあむ……、おいしいっ」

 しっとり香ばしい皮と、やわらかな餡がなじんで、みずみずしい味わいになっている。
 顔に餡をくっつけて、鬼之丞がぷるんとした頬を朱色に染めて笑っている。
 作ったものを喜んで食べてもらえることが何よりうれしくて、菜々美は笑顔で鬼之丞の顔の餡を口に入れた。甘い味がして、ふいに美月を思い出した。

「双子の妹がいるんだけど、その子もどら焼きが大好きなのよ」
「ななたんの、いもうとたん?」
「うん。東京にいるから、頻繁に会えないけど、お盆休みには帰省するから楽しみなの」

 つぶらな瞳がうるうると潤み、鬼之丞が菜々美を見上げている。

「どうしたの?」
「ボクも、かーちゃに、あいたい」
「鬼之丞ちゃん……」

 菜々美がこの店に採用になったのが六月末で、その時にはもう、鬼之丞は咲人に預けられていた。それからひと月以上が経っている。きっと寂しいのだろう。

「早くお母さんが元気になって、鬼之丞ちゃんを迎えに来てくれるといいね」
「うん……」

 しょんぼりしてしまった鬼之丞を元気づけるように、菜々美は明るい声を出す。

「さあ、次は『みたらし団子』を作ります。鬼之丞ちゃん、お手伝いをお願いしますね」
「あいっ、ボクおてつだい、しゅるー」

 笑顔になった鬼之丞に安堵し、菜々美は厨房に立つ。
 由緒ある神饌菓子である『みたらし団子』は、京都の下鴨神社の御手洗池のあぶくをあらわしたとされる。
 上新粉、白玉粉、上白糖に水を少しずつ加え、混ぜ合わせて加熱し、水を打った台の上に生地をあける。耳朶くらいの固さになるよう揉みまとめ、生地を計測しながら同じ大きさに丸め、水につけておいた竹串に二個ずつ刺す。
 焼き網で軽く焼き目をつけ、上白糖と醤油と本葛粉と水を加熱し、とろみが出たタレをつけていただく。

「わぁ、お団子、おいしそう。ボク、あじみする。ちょうだい、ななたん」
「はい、どうぞ」

 焼き目のついた串団子をみたらしのタレにくぐらせ、手渡す。

「うわあぁ……」

 串を持って支えてやると、大きな口を開け、あむっと団子にかぶりついた。
 もぐもぐと丸い顔をさらに丸くさせて咀嚼し、ごくんと呑み込む。

「もちもち、しこしこして、おいしいっ」
「鬼之丞ちゃんの好きな『きび糖ミルク』も飲む?」
「わぁ、のむー」

 小さな両手で器を持ち、こくこくと一気に飲み干すと、鬼之丞は満面の笑みを浮かべた。

「おいしかった。ななたん、ありがと」
「どういたしまして」

 お腹の皮が膨れて眠くなったようで、鬼之丞は目をしきりに擦りながら菜々美に寄り添うと、目を閉じた。
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