あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆

その2 青柚子小豆羹とずんだ餅

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 菜々美と咲人は厨房の中で並ぶように立った。
 これから作る『青柚子小豆羹』は、喉越しがよく、半透明の生地が涼やかな冷菓だ。
 寒天と葛粉とグラニュー糖を混ぜ、水を加えて沸騰させ、白こし餡を溶かして練り続ける。青柚子の皮を加えたあと、流し缶に流し入れ、羊羹液に甘納豆を全体に散らばるように加えて表面を平らにし、粗熱を取って切り分けると完成だ。

 そして、東北地方の郷土料理のひとつである『ずんだ餅』は、すりつぶした枝豆を餡に用いる餅菓子だ。
 枝豆を茹で、薄皮を剥いて潰し、砂糖と食塩を混ぜてできたずんだ餡を餅にまぶす。
 枝豆に含まれるビタミンB1が、消化液の分泌を促し、夏の暑い時期に、旬の素材を使って夏バテ効果が期待できる頼もしい和菓子だ。

 冷蔵ショーケースに出来立ての和菓子を並べていると、蘭丸がノートパソコンを持って「おはようございます」と元気に来店してきた。包装紙の準備や店内の掃除をして、あっという間に開店時間になる。

 ガラガラと引戸を開けて、禿頭で黒縁眼鏡をかけた、中肉中背の男性が入って来た。

「いらっしゃいませ!」

 男性は菜々美を見て、「おや?」と驚いたような顔になり、厨房で琥珀糖を作っていた咲人のほうを見た。

「店長さん、こちらは? 前に来た時、いなかったと思うけれど」
「六月末から入ったスタッフです」
「桃瀬菜々美です。よろしくお願いします」

 元気よく挨拶する菜々美を、男性は眩しそうに見つめて、ぎこちなく微笑んだ。

「よろしく。柳田研也やなぎだけんやといいまして、種族は見越入道みこしにゅうどうです。すみません、女性は苦手というか、昔、ひどい振られ方をしたことがあり、それ以来、どうしても緊張してしまうのです」
「あ……そうでしたか」

 菜々美は心に傷が残るような振られ方をした研也というこの男性が、気の毒になった。
 見越入道は「古今百物語評判ここんひゃくものがたりひょうばん」や「煙霞奇談えんかきだん」など、江戸時代の怪談本や随筆などに登場し、人の背後に現れ、みるみる巨大化する坊主頭の妖怪として知られている。
 もっと大きくて強いあやかしを想像していたので、小柄で大人しそうな研也を見るとなんだか意外だ。それにトラウマがあるようなので、ぜひ元気を出してもらいたい。

「どの和菓子にされますか?」

 笑顔で訊くと、研也は冷蔵ケースを覗き込み、和菓子に視線を転じた。

「そうですね、全部美味しそうで迷うなぁ」

 禿頭で直綴じきとつという黒衣を着ている彼は、その上に袈裟を着ると、僧侶そのもののような雰囲気で、『青柚子小豆羹』と『ずんだ餅』を二つずつ注文した。

「店内でいただきます」
「はいっ、ありがとうございます」

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