あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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五皿目 見越入道の暴走と和菓子の絆

その3 研也と明日香

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 菜々美は研也をテーブル席へ案内すると、朱色の盆に載せた和菓子と、冷えた緑茶をテーブルに置いた。

「本当に美味しそうだ。では早速――」

 研也はものすごい勢いで和菓子を頬張り、盆を空にした。瑠璃もそうだが、早食いのあやかしが多いような気がする。喜んでもらっているなら、とても嬉しい。
 緑茶を一気飲みした研也は、改まって厨房の方を見た。

「店長さん、実は婚活のご相談をしたいんですが、よろしいでしょうか。人界で仕事も落ち着いてきましたし、そろそろ結婚したいのです。ただ、気が強い女性はトラウマがあるので、できれば優しい人を紹介してください」

「わかりました。蘭丸――」
「了解っ」

 店の奥でデッサン帳を見ていた蘭丸が、咲人の声に笑顔で立ち上がり、棚から用紙を取ってきた。

「それでは、こちらの身上書に、ご自身のことと、お相手の希望をご記入ください」

 研也はさらさらと用紙に記入していく。
 ふいにカラッと扉が開き、ひとりの女性客が入ってきた。

「いらっしゃいませ!」
「あら、結構大きなお店ですわね。美味しい和菓子を食べさせてくれる店と聞いて、楽しみに来ましたの」

 来店したのは、黒髪を結い上げ、淡い朱色に大柄の花模様が描かれた単衣がよく似合う、勝気そうな女性だ。
 すっと背筋を伸ばし、女性は店内をぐるりと見回すと、対面式厨房の中の咲人に気づいた。

「まあ、すごい美男子ね。店長さんかしら。妖狐族の方ね」
「……」

 厨房にいる咲人は和菓子作りに集中していて、女性の言葉をスルーしている。
 そんな咲人をうっとり見つめている女性を、研也がじっと見つめ、くるっと振り返り、蘭丸と菜々美に小声で言った。

「僕、あの女性がいいです。婚活の相手……! すごく好みなんです」
「え? そ、そうですか。婚活をご希望か、確認してみますね」

 和菓子を食べに寄っただけかもしれないので、婚活を希望するか確認しなければ。蘭丸が女性へ尋ねる前に、研也がいきなり「あの、そちらのお嬢さん!」と話しかけた。
 女性客が目をぱちくりさせている。

「あたしのことかしら?」
「ええ。自分は見越入道の研也と申します。あなたのお名前は?」
「あたしは人界で着付け教室を開いている、妹尾明日香せのおあすかですわ。種族は女郎蜘蛛じょろうぐも。名刺をお渡ししましょうか?」

 勝気な女性にひどい振られ方をしてトラウマがあると言ってた割に、研也はものすごく積極的だ。それだけ、明日香という女性のことが気に入ったのだろう。

 二人はビジネスマンのように、名刺を交換している。

「あの、実は僕、婚活を申し込んでおりまして……」

 明日香は眉を上げ、真っ赤になった研也を見据えた。何やら値踏みするような眼差しで、研也の全身をなめるように見つめる。

「そう言えば、この和菓子店は婚活をお手伝いしてくれるそうですわね。おもしろそう。ええ、あたしは独身ですわ」
「そ、それで、恋人は? お付き合いされている人はいますか?」

 握りこぶしを震わせ、興奮気味に問う研也に、彼女は「ほほほ」と声を上げて笑った。

「今はいませんわ。研也さんでしたわね。お相手を探していらっしゃるの? お優しそうなのに、彼女がいないんですのね」
「なかなか、明日香さんのような美しい女性との出会いがなくて。僕は人界で会社を経営しているんです。どうですか、僕と付き合ってくれませんか?」
「まあ、会社を……それでしたら、まずはお友達から――ご一緒に食事でも、どうです?」
「えっ、ほ、本当ですか? い、いつ?」
「着付け教室のない時に……詳しい日時を改めてご連絡しますわ。それでよろしいかしら?」
「ええ、自分はいつでも、明日香さんの都合に合わせますので」
「楽しみにしていますわ。それじゃあ、テイクアウトで『清流せいりゅう』と『青柚子小豆羹』をお願いします」
「あ、はいっ、毎度ありがとうございます」

 元気よく応え、包装紙で和菓子を包み、紙袋に入れて菜々美は明日香へ手渡した。

「それでは、失礼しますわ。研也さん、またね」

 彼女は優雅にお辞儀をして立ち去った。

「やった……明日香さんとデートできる……! みなさん、ありがとうございました。また来ますね」

 ゆでだこのようになった研也が、弾んだ足どりで店を出て行った。
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