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勝利(敗北)
しおりを挟む「そんなバカな! 通常の攻撃で、装備能力を上回るなど聞いたことがない。ダメだ、ここで俺が負けるなど許されない。もう一度電撃を装備してやる!」
彼は全身にトラウマを浴びつつ、電撃を発動しようとした。
「無駄よ。もうそんなものトラウマでも何でもない」
「くそっ! なぜ発動しない!」
「あなたはもう戦えない。強力な装備能力に頼り切っていて体力や戦闘力はほとんどないんでしょ? 右腕の腱は切った。命までは取らないからどこかへ行ってもう戻ってこないで」
私は、兵士を無視して、倒れているジャックの元に向かった。ジャックは意識を取り戻していた。
「勝ったのか?」
「ええ。あなたはここでじっとしていて、王様は私と先生で倒す」
「俺の能力があった方がいいだろ?」
「確かにあなたのオレオレ詐欺は強力よ。でも、私を信じて! きっと大丈夫よ」
「でも!」
「大丈夫よ! あなたは休んでいて」
「愛! 聞いてくれ!」
ジャックの表情が変わる。そんなに私が信じられないわけ?
「しつこいわね。私を信じて!」
「違う! あいつ自爆するつもりだ!」
私が後ろを振り返ると、先ほどの兵士が導火線に火をつけていた。ニヤつく表情でこちらをじっと見つめている。彼の表情はよく知っている。人間が絶望した時の表情だ。きっと巨大なトラウマを抱えているのだろう。彼のトラウマは他でもない私のことだ。そして、ジャックがオレオレ詐欺を発動する間も無く、巨大な爆発音が轟いた。
黒い煤と真っ白な灰が空を彩る。空気を爆炎と粉塵が汚す。綺麗な青い空に大きなキノコ雲が生み出された。それは本に描かれていたよりもずっと禍々しく、人間の最悪な部分だけを集めて、固めて、武器にしたような、人類史上最悪の悪魔の兵器だった。
私とジャックは傷一つついていなかった。雲が晴れると、誰かがこちらに近づいてきた。私はその人物に声をかけた。
「先生?」
その人物は何も答えない。煙を掻き分けて、その人物は姿を現し、私に声をかけた。
「大丈夫か?」
その人物は先生ではなかった。
「あなたが助けてくれたの?」
よく見ると私とジャックの体は巨大なイソギンチャクに絡まっていた。私たちを助けてくれたのは、イソギンチャクの装備者だった。
「ああ」
彼の声は何かが吹っ切れたように爽やかだった。
「お前たち王様を倒しに行くんだろ? 俺も行くよ。俺もレジスタンスに入れてくれ!」
「ええ。助かるわ」
そして、今度は本物の先生がやってきた。全身の鎧を細かな傷が覆っているが、大きな傷はなさそうだ。
「爆発音がしたから見にきたけど、大丈夫そうだな」
「私もジャックも命に別状はないわ。それより先生の方は?」
「私の方は全部片付けた。あとは王様だけだ」
先生はイソギンチャクの装備者の方を向いて、
「君は誰かな?」
イソギンチャクの装備者が何か言う前に、私が先生に、
「この人は、こちらに寝返ってくれた兵士よ」
「信用できるのか?」
「ええ。大丈夫よ」
「何を装備している?」
「イソギンチャクよ!」
「は?」
「イソギンチャク!」
「イソギンチャク?」
「「イソギンチャク!」」
「わかった。イソギンチャクだな。ジャックの傷はどうだ? 戦いに参加できそうか?」
「ああ!」
ジャックが言った。
「無理よ!」
私がそれに被せるように言った。
「どっちだ?」
「ジャックはここに置いていく。そして、怪我の治療が終わり次第、戦いに参加してもらう」
「ああ。それがいいだろう。なら早速行こう。早く行かないと体勢を立て直される」
「これで戦いが終わるのね!」
「今日で全ての決着がつく! もうこの国に王はいらない!」
「俺たちは何があっても絶対に諦めない!」
「一人の犠牲者も出さずに勝つぞ!」
「「「おう!」」」
そして、力強い声と共に、一人目の犠牲者が出た。
犠牲者の血液が私たちの全身にかかる。それはまるで血の雨のようだった。夥しい返り血は、この戦いに救いなどどこにもないことを暗に示しているようだった。
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