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私は呆然とする生存者たちに声をかけた。
「次が来る! 構えて!」
頭の中に先ほど起こった出来事を反芻させる。いきなり、イソギンチャクの装備者が空に浮かび上がり、二メートルほど上空で静止した。そして、大きな破裂音を伴って四散したのだ。私はこの技を知っている。以前より明らかに強力になっている。

そして、この能力を使った人物がこちらに歩いてくる。死神の足音は不気味だった。一歩また一歩こちらに歩を進める。血の匂いが鼻に突き刺さる。空気が質量を孕んで私の体にのしかかる。星の放つ重力が強まり、私を地面に縛り付ける。黒に黒が重ねられ、より黒くなる。絶望が温度を持って生き物になったみたいだ。

「俺のつるぎは悪を砕く」
絶望が放つ声は、まるで泣いているみたいだった。

「あいつの能力は念動力よ! 気をつけて!」
その瞬間、先生の剣が私の左腕に深く突き刺さった。
「な、なんだっっ? 手が勝手に!」

そして、私の体が空に向かって投げ飛ばされた。思った通り、徐々に持ち上げる力は弱くなっている。このルールはまだ生きているようだ。私がもし、彼(黒髪の少年)なら真っ先に先生を殺す。でも彼はそうしなかった。

私は空中で剣を構える。右手に力を込めて、切っ先を黒髪の少年に向ける。足にも力を込める。念動力に逆らうのではなく、身をまかせる。
「先生っ!」
私が先生に合図を出すと、私の足元に電撃でできた足場が現れた。私はそれを思いっきり蹴って前に進む。空気を切り裂いて、獲物を狙う。念動力を上回る強い力なら力づくで突破できる。まるで空からネズミを捉える猛禽類のようだ。

そして、私の剣は正確に少年の左手を傷つけた。傷は浅かった。
「俺の念動力に怯まず反撃してくるとはな」
彼は自分の手の甲についた傷を見ながら言った。
「先生、例の対策で!」
「わかった」

私と先生で黒髪の少年を挟み込む。先生が目を閉じて、一気に体から電撃を放出した。解き放たれた電撃はいくつもの板のようになり黒髪の少年をドームのように取り囲む。板は地面から空中まで覆い尽くす。だが、隙間が空いていて、檻のようにはなっていない。

「何をするつもりだ?」
少年は黒い剣でこちらとの間合いを図りながら牽制する。私は電撃の板の間を駆け回る。素早く板と板の間を飛んで、こちらの位置を認識させない。私の強みは、体の小ささを生かした機動力、自分の長所と短所を認めることで人間は強くなれる。私がもし屈強な大男に力で挑んでも勝てないだろう。だけど、私にはこのスピードがある。

私は加速していく。雷を体に伴いながら、板の上を滑る。少年はこちらの姿を捉えようと、キョロキョロと辺りを見渡す。そして、死角からの一撃が少年の体を傷つけた。右肩に大きめの裂傷が生じた。
「よし! いける!」
私は電撃の板をさっきよりももっと強く蹴りつける。電流とはエネルギーを持った粒の流れのこと。今、私の体は電荷(正と負の電気)を先生の能力で無理やり調整してある。だから私にだけは電気が効かない。
電気を足場にして、少年の周囲を一人で完全に包囲した。

素早く動き回り、彼の隙を見つける。彼の念動力はおそらく“実体を持った、視界に入っている物体を手を使わずに動かす”という力。彼の身長と目線の高さからおおよその視界を予想。そして、私は彼の視界から常に外れるように意識する。回避と防御を最優先、攻撃は手が空いて、条件が整った時だけ行う。

彼の後頭部に一撃が入った。彼の左後ろに一撃が入った。彼の背中に二発入った。彼のアキレス腱に弱い攻撃が入った。彼の左腕に一撃が入った。彼の後頭部に再び一撃が入った。今度はさっきより少しだけ強い攻撃だ。彼の腰に一撃が入った。彼の背中を一文字に切り裂いた。

私は攻撃を加えると素早く電撃の板の後ろに引っ込んだ。まるでカクレクマノミがイソギンチャクと共生しているようだ。流れるような連続攻撃は、まるで一方的な処刑のようだった。
「もうあなたの能力は対策している。諦めて投降して!」
「断る」
「あなたのことを完全に包囲している」
「俺はまだ負けていない」
「電撃の板はあなたが触れると、落雷のような衝撃と共に炸裂するわ。逃げ場なんてない」
「この電撃は外にいる金髪が発動しているんだろ? なら念動力であいつを殺せば解除することができる」
「あなたの念動力はあまり大きいものは動かせない。それにどれだけ激しい攻撃を受けても先生は絶対に電撃を解除しない。賭けてもいい、あなたはこの包囲から脱出できない」
「なぜ有無を言わせずに俺を殺さない? 雷を俺に落とせばケリはつくだろ?」
「私たちレジスタンスは人を傷つけたいんじゃないの。誰かを助けたいの。だからあなたのことは殺さない。電撃に完全に包囲されているし、あなたは私のスピードについてこられない。断言するわ、あなたは私に勝てない!」

その瞬間、私は背後から思いっきり打撃を食らった。
「ぐっ!」
私はうめき声とともに、背後を振り返る。私は完全に包囲されていた。私のことを包囲していたのは鋭利なガラス片だった。軽くて丈夫で小柄な女くらいは殺傷できるほどの威力を備えている。それらがいつの間にか、電撃で少年を取り囲んでいる上からさらに私のことを包囲していた。まるで、二重の罠にかけられたみたいだ。電撃の層の外側にガラスの層が作られている。遠くの方を見ると先生もガラスに攻撃されていた。

「死ねっ!」
少年の合図とともに、一斉にガラスの刃が私の体を襲った。光を反射しながらガラスが群れをなして飛んでくる。凶器の塊は殺意を伴い、空を切る。

私は堪らず、電撃の包囲の中に飛び込んだ。私が地面から顔を上げた瞬間、
「俺の勝ちだ」
少年の髪の色によく似た黒い剣が私の喉元にぴったりと充てがわれた。冷たい感触が私の肌の温度を変える。蛇に似た何かが背筋を這ってくる。それは、死ぬかもしれないという恐怖そのものだった。

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