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食べられない草を食べる女
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[三週間後]
開け放たれた窓からは、外気がなだれ込んでくる。
窓枠は外の世界に大きく口を開いて何かを飲み込もうとしているみたいだ。
部屋の中に充満する朝の香りは、俺の肺にまで入りこんでくる。
空気は肺胞に溶けながら、歌を歌う。
精錬されたメロディーは俺の体が完治したことを告げているように思えた。
そして、いきなり誰かが俺の肩を強く叩いた。
「ちょっと! 朝ごはん持ってきたわよ!」
「うわっ! びっくりした! 部屋に入るならノックしろよな!」
「したわよ! したのに返事がないから勝手に入ったの。
そしたら窓の外を見ながら悦に浸っていたからそれをしばらく見てから声をかけたわ!」
この女性格わりー!
「え、悦になんて浸ってねーよ!」
「“空気は肺胞に溶けながら、歌を歌う”とか頭の中で思っていたんでしょ、どうせ!」
「な、思ってねーよ!」
なんでこいつ頭の中が読めるんだよ。それも一言一句正確に!
「空気が歌うって何よ! 意味がわからないから!
それより、朝食冷めちゃうわよ!」
アリシアが持ってきたトレーには、トーストとコップ一杯の液体があった。
「おお! 気がきくな! ありがとう!」
朝起きるといつも喉が乾く。乾いた喉を水で潤おそうとコップを手に取った。
「だめっ! 何度言ったらわかるの? あんたそれ殺戮洗浄剤“処刑君”水味よ!」
一口だけ口に含んだ瞬間、ギャグ漫画のように吹き出した。
口から放射状に飛び出た液体は朝焼けを弾きながら綺麗に飛び散った。
「だからなんで食事と一緒に持ってくるんだよ!
わざとやっているだろ!
それになんだよ水味って?
なんで洗浄剤に味をつけるんだよ!
悪意しか感じられない!」
「なんでってそれは殺戮洗浄剤“処刑君”だからよ!」
「だからよ、じゃねーよ。説明になってねーだろ。
それよりもうベッドの上は飽きたし街を案内してくれよ!」
アリシアの家は町外れにあった。
隔離されているんじゃないかというくらいポツンと。
草原のど真ん中に建つ家は、それはそれで趣があるが、少々不便だ。
「いいえ! 今日は天気がいいし、家に引きこもりましょう!
家に引きこもって一日中部屋の外を眺めるの!」
「それもうこの三週間でやり尽くした!
つーかお前なんで頑なに家から出たがらないんだよ?」
ここ三週間はずっと部屋で療養していた。
アリシアはずっとその間付きっきりだった。
本当にずっと付きっきりだった。
ちょっとウザいくらい付きっきりだった。
「だって、ケンに嫌な思いさせちゃうかもしれないから」
「はあ? せっかく異世界に来たのに、家にずっといる方が嫌だよ!
ほら着替えるから部屋から出てろ!」
「わかったわよ。その代わり嫌な思いをしたらすぐに帰るわよ?」
「はいはい。わかったから部屋からとっとと出てけ!」
そして、俺はアリシアが部屋から出ると服を脱いだ。
アリシアが用意してくれた男性用の服に着替えると不意に誰かの視線を感じた。
どこからか鋭い刃物のような視線が俺の体表を舐め回すように見ている。
俺はすぐに部屋のドアの方を見た。
視線の主は、ドアの隙間からこちらを伺うアリシアだった。
「出てけつったろっ! なんで俺を一人にしてくれないんだよ?」
アリシアはこんな感じで俺が何をするにもついてきて、じーと俺のことを見てくる。
すごくウザい。
「どこかに行っちゃわないか心配で」
「どこにも行かねーよ!」
そして、着替え終わると、変な女と異世界の街に繰り出した。
道すがらアリシアのことを少し考えた。
アリシアは無職だ。
それに学生でもない。
聞くところによると最終学歴は幼稚園。
だからよう卒らしい。
ここ三週間アリシアは特に忙しそうな様子もなくただずっと熱心に俺のことを看病してくれた。
優しいには優しいんだけど変な子だ。
アリシアの主食は道に生えている草とか畑で採れた野菜だ。
たまに川で魚を釣ってくる。
まあ、生活が成り立っているならこれでいいか。
人の人生に口を出すもんじゃないだろ。
人には人の考えがあるし、十人いれば十通りの生き方がある。他人の人生を詮索しちゃダメだ。
と、心の中で思ったが聞かずにはいられなくなった。
「なあ、アリシア。お前働かないの?」
「働かないわ!」
「そうか! そこまで言い切ると逆に清々しいな! 偉いぞ!」
「えへへ。ありがとう」
アリシアはホクホク顔だ。
「それより街に着いたらどこに行くんだ?」
「着いたらすぐに帰るわよ!」
「は?」
「聞こえなかったの? 着いたらすぐに帰るって言ったわ! ちゃんと聞いていなさいね!」
「違う違う。聞こえた上で、理解ができなかった。帰るってどういうこと?」
「だから街に入り口まで行って街があるなーって思ってからすぐに帰るわよ!」
「なんでだよっ?」
「なんでって?」
アリシアの頭の上に具現化した疑問符が見えたような気がした。
それくらい不思議そうな顔をしていた。
「なんで不思議そうな顔をするんだよ?
帰るってなんでだよ?
せっかく街に行くんだから見て回ろうぜ。
異世界に来てからまだ家の外に生えている草しか見てないぞ?」
「いいからすぐに帰るわよ! それにケンが見ている草は実は食べられるのよ! ふふん!」
得意そうな顔をするアリシア。
「いや、あれは食用でもなんでもない草をお前が無理やり食べているんだよ!」
「そうよ。私は食べられない草を食べる女よ!」
『パワーワードを感知しました。アリシアの能力が向上します』
いつものパワーアップアナウンスが空に溶ける。
「だー! もういいから行くぞ!」
俺は頑なに家に帰ろうとするアリシアを連れて街の中に入った。
街はこれぞ異世界という感じだった。
開け放たれた窓からは、外気がなだれ込んでくる。
窓枠は外の世界に大きく口を開いて何かを飲み込もうとしているみたいだ。
部屋の中に充満する朝の香りは、俺の肺にまで入りこんでくる。
空気は肺胞に溶けながら、歌を歌う。
精錬されたメロディーは俺の体が完治したことを告げているように思えた。
そして、いきなり誰かが俺の肩を強く叩いた。
「ちょっと! 朝ごはん持ってきたわよ!」
「うわっ! びっくりした! 部屋に入るならノックしろよな!」
「したわよ! したのに返事がないから勝手に入ったの。
そしたら窓の外を見ながら悦に浸っていたからそれをしばらく見てから声をかけたわ!」
この女性格わりー!
「え、悦になんて浸ってねーよ!」
「“空気は肺胞に溶けながら、歌を歌う”とか頭の中で思っていたんでしょ、どうせ!」
「な、思ってねーよ!」
なんでこいつ頭の中が読めるんだよ。それも一言一句正確に!
「空気が歌うって何よ! 意味がわからないから!
それより、朝食冷めちゃうわよ!」
アリシアが持ってきたトレーには、トーストとコップ一杯の液体があった。
「おお! 気がきくな! ありがとう!」
朝起きるといつも喉が乾く。乾いた喉を水で潤おそうとコップを手に取った。
「だめっ! 何度言ったらわかるの? あんたそれ殺戮洗浄剤“処刑君”水味よ!」
一口だけ口に含んだ瞬間、ギャグ漫画のように吹き出した。
口から放射状に飛び出た液体は朝焼けを弾きながら綺麗に飛び散った。
「だからなんで食事と一緒に持ってくるんだよ!
わざとやっているだろ!
それになんだよ水味って?
なんで洗浄剤に味をつけるんだよ!
悪意しか感じられない!」
「なんでってそれは殺戮洗浄剤“処刑君”だからよ!」
「だからよ、じゃねーよ。説明になってねーだろ。
それよりもうベッドの上は飽きたし街を案内してくれよ!」
アリシアの家は町外れにあった。
隔離されているんじゃないかというくらいポツンと。
草原のど真ん中に建つ家は、それはそれで趣があるが、少々不便だ。
「いいえ! 今日は天気がいいし、家に引きこもりましょう!
家に引きこもって一日中部屋の外を眺めるの!」
「それもうこの三週間でやり尽くした!
つーかお前なんで頑なに家から出たがらないんだよ?」
ここ三週間はずっと部屋で療養していた。
アリシアはずっとその間付きっきりだった。
本当にずっと付きっきりだった。
ちょっとウザいくらい付きっきりだった。
「だって、ケンに嫌な思いさせちゃうかもしれないから」
「はあ? せっかく異世界に来たのに、家にずっといる方が嫌だよ!
ほら着替えるから部屋から出てろ!」
「わかったわよ。その代わり嫌な思いをしたらすぐに帰るわよ?」
「はいはい。わかったから部屋からとっとと出てけ!」
そして、俺はアリシアが部屋から出ると服を脱いだ。
アリシアが用意してくれた男性用の服に着替えると不意に誰かの視線を感じた。
どこからか鋭い刃物のような視線が俺の体表を舐め回すように見ている。
俺はすぐに部屋のドアの方を見た。
視線の主は、ドアの隙間からこちらを伺うアリシアだった。
「出てけつったろっ! なんで俺を一人にしてくれないんだよ?」
アリシアはこんな感じで俺が何をするにもついてきて、じーと俺のことを見てくる。
すごくウザい。
「どこかに行っちゃわないか心配で」
「どこにも行かねーよ!」
そして、着替え終わると、変な女と異世界の街に繰り出した。
道すがらアリシアのことを少し考えた。
アリシアは無職だ。
それに学生でもない。
聞くところによると最終学歴は幼稚園。
だからよう卒らしい。
ここ三週間アリシアは特に忙しそうな様子もなくただずっと熱心に俺のことを看病してくれた。
優しいには優しいんだけど変な子だ。
アリシアの主食は道に生えている草とか畑で採れた野菜だ。
たまに川で魚を釣ってくる。
まあ、生活が成り立っているならこれでいいか。
人の人生に口を出すもんじゃないだろ。
人には人の考えがあるし、十人いれば十通りの生き方がある。他人の人生を詮索しちゃダメだ。
と、心の中で思ったが聞かずにはいられなくなった。
「なあ、アリシア。お前働かないの?」
「働かないわ!」
「そうか! そこまで言い切ると逆に清々しいな! 偉いぞ!」
「えへへ。ありがとう」
アリシアはホクホク顔だ。
「それより街に着いたらどこに行くんだ?」
「着いたらすぐに帰るわよ!」
「は?」
「聞こえなかったの? 着いたらすぐに帰るって言ったわ! ちゃんと聞いていなさいね!」
「違う違う。聞こえた上で、理解ができなかった。帰るってどういうこと?」
「だから街に入り口まで行って街があるなーって思ってからすぐに帰るわよ!」
「なんでだよっ?」
「なんでって?」
アリシアの頭の上に具現化した疑問符が見えたような気がした。
それくらい不思議そうな顔をしていた。
「なんで不思議そうな顔をするんだよ?
帰るってなんでだよ?
せっかく街に行くんだから見て回ろうぜ。
異世界に来てからまだ家の外に生えている草しか見てないぞ?」
「いいからすぐに帰るわよ! それにケンが見ている草は実は食べられるのよ! ふふん!」
得意そうな顔をするアリシア。
「いや、あれは食用でもなんでもない草をお前が無理やり食べているんだよ!」
「そうよ。私は食べられない草を食べる女よ!」
『パワーワードを感知しました。アリシアの能力が向上します』
いつものパワーアップアナウンスが空に溶ける。
「だー! もういいから行くぞ!」
俺は頑なに家に帰ろうとするアリシアを連れて街の中に入った。
街はこれぞ異世界という感じだった。
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