この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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椅子に住む仲間

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第二章 パワーダンジョン

[ケン視点]
泣きじゃくるアリシアを椅子でできたテーブルにつかせると、
「さ、今日はご馳走だ! みんな用意してくれ!」

「うん!」
「わかった!」
「了解!」

椅子を一度分解してパーツの状態に戻す。
そして、そのパーツをうまくパズルのように組み合わせて作られたお手製の“”の上に次々と皿が並ぶ。
皿の大きさは大小まちまちだった。どの皿にも何も乗っていない。

食事の準備ができると、俺は皿に水差しで水を注いだり、氷の塊を乗せたりした。
そして、それらに向かって手を伸ばす。

「パワーワード発動。水のソテー。水の踊り食い。水の親子丼。水のお頭焼き。水の白子」
すると、皿に次々と料理が形成された。

水のソテーは、こんがり焼けたいい匂いを放つ水だ。
レストラン水屋で食べたものと同じ料理だ。

水の踊り食いは、生きたまま生で食べる水。
皿の上で水が跳ねながら踊っている。
まるで水が生きているみたいだ。

作り方は、水を取ってきてすぐ調理するだけだ。それだけ。

水の親子丼は苦労した。
水の親は、水のエネルギーを持った状態である水蒸気とした。

水でできたご飯の上に水蒸気が乗っている。
実に美味しそうだ。

水のお頭焼きは、一旦氷にした水を彫刻刀で削って巨大な魚の頭の形に彫ってみた。
パワーワードの能力によってしっかりと魚の頭の味がするはずだ。

水の白子は、大変だった。
水が子供を作るときに必要なものがわからなかった。
水は子供を作ったりしないからな。

だから水蒸気(水の親)が水になる原因である冷却という行為を、“水の遺伝子”と捉えた。
要するに水の白子はちょっと冷たい水だ。
でも、しっかり白子の味がするはずだ。

俺が水料理をテーブルに用意すると、
「す、すごい! これ全部パワーワードで作ったのね!」
「ああ。まあな」
俺は少しどやった。嘘、結構どやった。

続いて、
「パワーワード発動。空気の寿司。空気の果汁でできたジュース。空気のサンドイッチ」
空気使いのロイが次々と空気をパワーワードによって料理に変えていく。

空気の刺身は、まず空気をシャリの形に握ったそうだ。
気体なのでビニールで包んで逃げないようにしてだ。

そして、空気の切り身を作ってシャリに乗せて実現した。

今、この皿に乗っている空気の刺身は、しっかりとサーモンやマグロの味がするはずだ。

空気の果汁でできたジュースは大変だったらしい。
まず空気を液体窒素で急速に冷却して固体の状態にした。
そして、それを彫刻刀で削ってきのみの形にする。
最後に、きのみから滴る“液体になった空気”を抽出してジュースにしたらしい。


空気のサンドイッチは、窒素と酸素と二酸化炭素を全部半液体、半固体の状態にする。
この時、熱や冷気でうまく調節したらしい。

そして、窒素をパンに見立てて、酸素と二酸化酸素を挟んだそうだ。
もちろんアボガドサーモンや、マヨコーン味など多彩な味付けのものになっている。

「わー。空気料理なんて初めて見るわ! 私もみんなにご馳走するわ。
ちょっと待ってね!」
と、嬉しそうなアリシア。俺はが胸をよぎった。
「はい! どうぞ!」
みんながアリシアに注目する中、アリシアはポッケから小さい石と雑草を取り出した。

「これなにでございますか?」
と、メリッサ。

「ふふん。これはよ! 
みんなが私のお友達になってくれた記念に分けてあげるわ!」
アリシアがどやっている。

「どうみてもただの石にしか見えないんだけど」
と、タイラー。
「アホー!」
俺はアリシアの頭を叩いた。

「その辺で拾ってきた石を食うなってあれほど言っただろ!」
「あいたー! なにすんのよっ!」

「みんなそれは食っちゃダメだ! 
それは食べられる石じゃなくて、アリシアが食べられない石を勝手に食べて、食べられるって言い張っているだけだ!」
「え? アリシア氏、普段石食べているでござるか?」
と、ジャック。こいつはオタクだ。

「そうよ! 石だけじゃないわ。
爬虫類や両生類もペロリよ! 
それに雑草はほぼ毎日食べているわ! 
あなたにも分けてあげる!」

アリシアは嫌がるジャックにしなしなに萎れているしなしなの雑草しなしなを無理やり手渡した。
「やめんかっ! ぼっち女!」
「ぼ、ぼっちって言うなー!」

俺たちのやりとりを見て、家の中に笑い声が起きた。
アリシアはすごく楽しそうだった。

きっと誰かと笑って食べる食事なんて生まれて初めてなのだろう。

俺は、それを見て胸の中になんだからよくわからないものがぎゅうぎゅうに押し込まれたような気がした。

「ミスアリシア! アリシアはとてーもインタレスティンね! もっとアリシアのこと知りたいデース」
と、外国人のアンジェリカ。片言のハイデルキア語を喋る。

「いいわよ! 私の特技は、なんでも食べられること! 
趣味はを頭の中に描いて一日中おしゃべりすること! 
私、と遊ぶことに関しては誰にも負けないわ! 
その子とだってするんだから! 
最終学歴は幼稚園中退よ! 
両親は二人とも死んだわ。貯金残高は七マニーよ! ふふん!」

アリシアはとても得意げに話した。
すごく得意げに話した。

まるで自慢話をするように話した。
つーかこいつ、前話した時は、幼稚園卒業って言っていたのに嘘だったのか。
話を盛ってイヤがったな。

そんな頭がおかしい子アピールを聞いて、一同は大歓喜だった。
「す、すげー! 幼稚園に行ったことがあるのか!」
「オーマイガー! アメイジン! アンビリーバボー! エスパニョーラ! トレビアーン!」
「貯金残高七マニーとはやるでござるな! 拙者お金に触れたことすらないでござる!」
「し、信じられないチンゲール! 
なら一人相撲や、一人指相撲、一人二人三脚ひとりににんさんきゃく、一人合宿、一人結婚もやったことあるチンゲールか?」

「ええ! あるチンゲールよ!」

影響されているんじゃねーよ。つーか一人二人三脚ってなんだよ。

「なあ。みんな! 
俺がこの“とっとこみんなの依頼をなんでもやる屋さん”略してナンのリーダーだし、俺の自己紹介も聞いてくれ!」

「ケンくん、うるさいでございますわ! 今は、アリシアちゃんのお話を伺っているのです」
「なあ、聞いてくれよ。俺の名前はケン。
記憶喪失で、異世界転生者だ! 
異世界から来たんだぜ! 
すごいだろ? すごいよね? ね?」
俺は、無理やりとっておきの面白自己紹介をした。


「へー。じゃあアリシアちゃんはそんなやばい場所にすごいものを隠していたんだな?」
だがみんなはアリシアに夢中だった。

「ほーら、みんな見てくれよ! 
これ俺の世界から持ってきたコインなんだぜ? 
珍しいだろ? すごいだろ?」
俺は異世界から持ってきたであろう、銀色と銅色のコインを見せびらかそうとした。

「えっ? アリシアちゃん、そんなエグいこと一人でしてたのっ? それ激アツだよっ!」
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