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牛乳が生えている
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「よしっ! ここだ!」
「うおっ! すっげー!」
と、普通のコメントを残したタイラー。
「ファンタスティック! アメーイジン! 感嘆の極みっ!」
と、アンジェリカ。お前、今最後にやけに流暢なハイデルキア語喋らなかったか?
「うわあ! 懐かしい」
と、アリシア。以前にもきたことがあるのだろうか。
俺たちが着いたのは、巨大な牛乳でできた大きなダンジョンだった。
大きく口を開ける牛乳はまるで地獄の大穴。
獲物を待ち受ける蛇のようだ。
一度、入ってくるものを飲み込んだら、もうその口を閉ざしてしまいそうだ。
一陣の風が吹き抜ける。
その風に乗って牛乳のまろやかな香りが俺の鼻腔に突き刺さる。
「なあ、これって牛乳だよね? どうなっているんだ?」
目の前の光景が信じられないとばかりにタイラーは目を輝かせている。
その目には煌めく星屑が見えたような気がした。
「ここは第一のパワーダンジョン! 別名、乳製品の洞窟だ!」
俺は目の前に燦然と輝く牛乳でできたダンジョンを指差した。
俺の指先から放たれる指線は正確に目の前の牛乳を指していた。
太陽の煌めきを反射した牛乳は白い光を周囲に撒き散らす。
それがすごく綺麗に、またどこか異様に感じた。
牛乳でできたダンジョン。
そんなもの誰が想像できるだろうか?
それを想像してくれと言われても、困った顔をしてしまう人が大半だろう。
だが、事実、俺の目の前には巨大な牛乳をくり抜いて作ったであろう大きな洞窟があるのだ。
牛乳は完全に結晶化しており、巨大な山のようになっている。
その結晶の山は、くり抜かれ、穴が空いている。
そこが入り口なのだろう。
牛乳をよく見ると、うっすらと中の様子が伺える。
薄くなって半透明な部分があり、中が迷宮のように入り組んでいることがわかる。
「さあ! 行くぞ! 討伐目標は最近街を荒らす狼男だ! 出発!」
狼男の討伐には懸賞金がかかっている。
狼男を倒すことができればしばらく生活の足しにできる。
「「「おおー!」」」
高らかに掲げられた活気は、空気中を飛散し、辺りに元気をばらまいた。
俺たちはこれから世にも不思議な牛乳のダンジョンに入っていく。
そこが地獄の入り口で、これから起こる凄惨な惨劇など想像すらしていなかった。
ダンジョンに入るといきなりトラブルメーカー(アリシア)が声をあげた。
「きゃっ!」
薄暗い洞窟で何かにぶつかったみたいだ。
尻餅をつくような音と何かが地面に散乱したような音が聞こえた。
「わ、私が丹精込めて作ったお弁当がっ!」
「いや、それはどうでもいい」
アリシアのぶちまけられた弁当のおかずを見ると、大小様々なゴミ、それと焼いた形跡のある石だった。
こんなものを本気で人に食わせようとしているのか? 本当に頭がおかしいんじゃないのか。
「ひっどーい! せっかく作ったのにー!」
「こんなの食べて平気なのお前だけだよ。それより大丈夫か?」
親切な俺はかっこよく尻餅をついたアリシア(アホ)に手を伸ばすと、
アリシアがそれを無視して嬉しそうな声をあげた。
「うわっ! すっごーい。牛乳が地面に生えている!」
俺はそっと右手を下ろした。恥ずかしい。
『パワーワードを感知しました。アリシアの能力が向上します』
「これ食べられるのかしら?」
アリシアは目の前の物体を指で弄る。
「なんでもまず口に入れようとすなっ!」
俺は大きく振りかぶってアリシアを叩いた。
「あいたっ!」
俺たちがまず見つけたのは、地面に生えている牛乳だった。
俺は牛乳を一本へし折ると、それを見つめた。
それは、飴細工のように綺麗に加工された牛乳だった。
ご丁寧に、枝や葉っぱまで作られていて、芸術品のようだ。
これなら牛乳が地面に生えていると言っても差し支えないだろう。
「よくこんなものを作るよな」
呆れ半分、関心半分の複雑なトーンで独り言を言った。
そして薄暗い洞窟内で、俺は一本の牛乳に服を引っ掛けた。
ポケットが破れて中から数本の綿棒と元の世界から持ってきたコインが数枚地面に落ちた。
「ああ! くそっ!」
「私暗くて何も見えませーん!」
「アリシア! 照らしてくれ!」
俺がアリシアの名前を呼ぶ。
「がってん! アリシアファイアー!」
と、アリシアが空気中の水分を炎に変えた。
燃える空気が洞窟内を明るく照らす。
明るくなった洞窟内で、アンジェリカが俺のコインと綿棒を拾って、
「はい、どうぞでーす」
「サンキュ」
コインと綿棒をアンジェリカから受け取る。
「このコイン私の国の古いコインでーす」
アンジェリカが俺のコインを指差して言う。
「いや、これは俺が来た世界から持ってきたもんだ。
たまたま似ているんだろ。それより見ろよ!」
俺たちの周囲どころか洞窟のはるか先までアリシアの出した炎が伸びている。
この能力は先日、アリシアの家を燃やしたときに彼女が獲得したものだ。
パワーワードの分類は、
『通常ありえない主語と述語の組み合わせ。
矛盾する一文。
そして、その人の人生において意味のある一文』の三つだ。
その中で最後のものだけが飛び抜けて強い。
断トツで強い。
正直、これさえあれば他は何もいらないほどの影響力がある。
人生を変えるような一文は、文字通りその人の人生を変えるのだ。
今、アリシアは物理法則と自然現象を全て無視して、好きな時に好きな場所で想像できる範囲で自由になんでも燃やすことができる。
そして、その炎は彼女の辛い過去を焼き尽くした炎と同じ色をしている。
洞窟の中を舐めるようにして炎が灯る。
空気中に一列に、人魂が浮かんでいるようにも見える。
「アリシアちゃん。すごいでーす」
「えへへ。もっと褒めよ!」
「アリシアちゃん。すごいよ!」
「もっともっと褒めよ!」
「アリシア!」
俺は手を大きく振りかぶった。それを見て、アリシアは頭を両手でガードした。
「ひっ!」
きっと頭を叩かれると思ったのだろう。そして、俺はアリシアの頭を力強く撫でた。
「いた、く、ない?」
アリシアは頭を覆っていた両手を退けた。
俺はもっと強くアリシアの頭を撫でる。
「アリシア。この炎を見るたびに、辛かった過去を思い出せ」
俺はアリシアに言うと同時に、彼女の昔の台詞を思い出した。
【いつもみたいに誰の邪魔もしないように生きていくから!
隅っこでじっとしているから!
誰にも迷惑はかけないから!
一人ぼっちで生きていくから! お願い、こんなことやめて!】
「うん。よく覚えているわ」
「お前は誰の邪魔もしないように、隅っこでじっとしていた。
誰にも迷惑はかけないように、一人ぼっちで生きてきた」
「うん。そうしてた」
「この炎はお前の人生を変えた。お前はもう一人じゃない。
こうして俺たちの行く先を明るく照らしているのはお前の能力だ。
お前は俺たちにとって必要な存在だ」
「そんなに褒められるとちょっと照れるな」
「お前が俺たちのリーダーになってくれ。この中で最も強いのはお前だ」
俺の頭の中にいるアリシアは、俺に向かって、
『えっ? 私リーダーなんて無理だよ! ケンがリーダーやってよ!』
と、自信なさげに言った。
だけど、現実のアリシアは俺の想像よりももっとずっと強かった。
「がってん! 私がリーダーをやるわ。私が絶対に誰一人死なせない!」
アリシアは俺たちの目を見て、力強く、はっきりと言った。
そして、洞窟の隅の暗がりから獣の威嚇のようなものが聞こえてきた。
「グルルルルルルル」
「早速モンスターみたいだな」
「タイミングばっちりでーす」
「アリシアちゃん! 先頭はお願いするね!」
「ええ! 私に任せてっ!」
いつの間にか俺たちの心はアリシアを中心にして、一つになっていたような気がした。
「うおっ! すっげー!」
と、普通のコメントを残したタイラー。
「ファンタスティック! アメーイジン! 感嘆の極みっ!」
と、アンジェリカ。お前、今最後にやけに流暢なハイデルキア語喋らなかったか?
「うわあ! 懐かしい」
と、アリシア。以前にもきたことがあるのだろうか。
俺たちが着いたのは、巨大な牛乳でできた大きなダンジョンだった。
大きく口を開ける牛乳はまるで地獄の大穴。
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一度、入ってくるものを飲み込んだら、もうその口を閉ざしてしまいそうだ。
一陣の風が吹き抜ける。
その風に乗って牛乳のまろやかな香りが俺の鼻腔に突き刺さる。
「なあ、これって牛乳だよね? どうなっているんだ?」
目の前の光景が信じられないとばかりにタイラーは目を輝かせている。
その目には煌めく星屑が見えたような気がした。
「ここは第一のパワーダンジョン! 別名、乳製品の洞窟だ!」
俺は目の前に燦然と輝く牛乳でできたダンジョンを指差した。
俺の指先から放たれる指線は正確に目の前の牛乳を指していた。
太陽の煌めきを反射した牛乳は白い光を周囲に撒き散らす。
それがすごく綺麗に、またどこか異様に感じた。
牛乳でできたダンジョン。
そんなもの誰が想像できるだろうか?
それを想像してくれと言われても、困った顔をしてしまう人が大半だろう。
だが、事実、俺の目の前には巨大な牛乳をくり抜いて作ったであろう大きな洞窟があるのだ。
牛乳は完全に結晶化しており、巨大な山のようになっている。
その結晶の山は、くり抜かれ、穴が空いている。
そこが入り口なのだろう。
牛乳をよく見ると、うっすらと中の様子が伺える。
薄くなって半透明な部分があり、中が迷宮のように入り組んでいることがわかる。
「さあ! 行くぞ! 討伐目標は最近街を荒らす狼男だ! 出発!」
狼男の討伐には懸賞金がかかっている。
狼男を倒すことができればしばらく生活の足しにできる。
「「「おおー!」」」
高らかに掲げられた活気は、空気中を飛散し、辺りに元気をばらまいた。
俺たちはこれから世にも不思議な牛乳のダンジョンに入っていく。
そこが地獄の入り口で、これから起こる凄惨な惨劇など想像すらしていなかった。
ダンジョンに入るといきなりトラブルメーカー(アリシア)が声をあげた。
「きゃっ!」
薄暗い洞窟で何かにぶつかったみたいだ。
尻餅をつくような音と何かが地面に散乱したような音が聞こえた。
「わ、私が丹精込めて作ったお弁当がっ!」
「いや、それはどうでもいい」
アリシアのぶちまけられた弁当のおかずを見ると、大小様々なゴミ、それと焼いた形跡のある石だった。
こんなものを本気で人に食わせようとしているのか? 本当に頭がおかしいんじゃないのか。
「ひっどーい! せっかく作ったのにー!」
「こんなの食べて平気なのお前だけだよ。それより大丈夫か?」
親切な俺はかっこよく尻餅をついたアリシア(アホ)に手を伸ばすと、
アリシアがそれを無視して嬉しそうな声をあげた。
「うわっ! すっごーい。牛乳が地面に生えている!」
俺はそっと右手を下ろした。恥ずかしい。
『パワーワードを感知しました。アリシアの能力が向上します』
「これ食べられるのかしら?」
アリシアは目の前の物体を指で弄る。
「なんでもまず口に入れようとすなっ!」
俺は大きく振りかぶってアリシアを叩いた。
「あいたっ!」
俺たちがまず見つけたのは、地面に生えている牛乳だった。
俺は牛乳を一本へし折ると、それを見つめた。
それは、飴細工のように綺麗に加工された牛乳だった。
ご丁寧に、枝や葉っぱまで作られていて、芸術品のようだ。
これなら牛乳が地面に生えていると言っても差し支えないだろう。
「よくこんなものを作るよな」
呆れ半分、関心半分の複雑なトーンで独り言を言った。
そして薄暗い洞窟内で、俺は一本の牛乳に服を引っ掛けた。
ポケットが破れて中から数本の綿棒と元の世界から持ってきたコインが数枚地面に落ちた。
「ああ! くそっ!」
「私暗くて何も見えませーん!」
「アリシア! 照らしてくれ!」
俺がアリシアの名前を呼ぶ。
「がってん! アリシアファイアー!」
と、アリシアが空気中の水分を炎に変えた。
燃える空気が洞窟内を明るく照らす。
明るくなった洞窟内で、アンジェリカが俺のコインと綿棒を拾って、
「はい、どうぞでーす」
「サンキュ」
コインと綿棒をアンジェリカから受け取る。
「このコイン私の国の古いコインでーす」
アンジェリカが俺のコインを指差して言う。
「いや、これは俺が来た世界から持ってきたもんだ。
たまたま似ているんだろ。それより見ろよ!」
俺たちの周囲どころか洞窟のはるか先までアリシアの出した炎が伸びている。
この能力は先日、アリシアの家を燃やしたときに彼女が獲得したものだ。
パワーワードの分類は、
『通常ありえない主語と述語の組み合わせ。
矛盾する一文。
そして、その人の人生において意味のある一文』の三つだ。
その中で最後のものだけが飛び抜けて強い。
断トツで強い。
正直、これさえあれば他は何もいらないほどの影響力がある。
人生を変えるような一文は、文字通りその人の人生を変えるのだ。
今、アリシアは物理法則と自然現象を全て無視して、好きな時に好きな場所で想像できる範囲で自由になんでも燃やすことができる。
そして、その炎は彼女の辛い過去を焼き尽くした炎と同じ色をしている。
洞窟の中を舐めるようにして炎が灯る。
空気中に一列に、人魂が浮かんでいるようにも見える。
「アリシアちゃん。すごいでーす」
「えへへ。もっと褒めよ!」
「アリシアちゃん。すごいよ!」
「もっともっと褒めよ!」
「アリシア!」
俺は手を大きく振りかぶった。それを見て、アリシアは頭を両手でガードした。
「ひっ!」
きっと頭を叩かれると思ったのだろう。そして、俺はアリシアの頭を力強く撫でた。
「いた、く、ない?」
アリシアは頭を覆っていた両手を退けた。
俺はもっと強くアリシアの頭を撫でる。
「アリシア。この炎を見るたびに、辛かった過去を思い出せ」
俺はアリシアに言うと同時に、彼女の昔の台詞を思い出した。
【いつもみたいに誰の邪魔もしないように生きていくから!
隅っこでじっとしているから!
誰にも迷惑はかけないから!
一人ぼっちで生きていくから! お願い、こんなことやめて!】
「うん。よく覚えているわ」
「お前は誰の邪魔もしないように、隅っこでじっとしていた。
誰にも迷惑はかけないように、一人ぼっちで生きてきた」
「うん。そうしてた」
「この炎はお前の人生を変えた。お前はもう一人じゃない。
こうして俺たちの行く先を明るく照らしているのはお前の能力だ。
お前は俺たちにとって必要な存在だ」
「そんなに褒められるとちょっと照れるな」
「お前が俺たちのリーダーになってくれ。この中で最も強いのはお前だ」
俺の頭の中にいるアリシアは、俺に向かって、
『えっ? 私リーダーなんて無理だよ! ケンがリーダーやってよ!』
と、自信なさげに言った。
だけど、現実のアリシアは俺の想像よりももっとずっと強かった。
「がってん! 私がリーダーをやるわ。私が絶対に誰一人死なせない!」
アリシアは俺たちの目を見て、力強く、はっきりと言った。
そして、洞窟の隅の暗がりから獣の威嚇のようなものが聞こえてきた。
「グルルルルルルル」
「早速モンスターみたいだな」
「タイミングばっちりでーす」
「アリシアちゃん! 先頭はお願いするね!」
「ええ! 私に任せてっ!」
いつの間にか俺たちの心はアリシアを中心にして、一つになっていたような気がした。
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