この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

文字の大きさ
31 / 260

スパイ

しおりを挟む
「一旦引くぞ!」

そして、俺たちは尻尾を巻いて逃げ出した。走って、走って、走り抜いた。血中の酸素が足りなくなる。犬のように激しく息を出し入れしながら、体を動かす。全身全霊の全力疾走でなんとか街までたどり着いた。
「一旦噴水広場まで逃げよう! 街の中ならモンスターも襲ってこないだろう!」

街の入り口付近にある噴水広場まで走った。美しい噴水が空に向かって、水の礫を打ち上げる。精錬されていて、美しい。アリシアたちを見ると、全員虫の息だった。
「ぜーはーぜーはー」
と、激しく喘ぐアリシア。
「なんだかこちらの動きを対策されていたみたいだっきゅっきゅきゅ」
と、萌。

「うげっ。おえっ」
吐きそうになる俺。

それと対照的に、一切汗をかかないジミー。無表情で俺たちを見ている。いくら地味キャラだからってこれはおかしいだろ。つーかこいつ怖いな。
「みんな大丈夫か?」
俺の愉快な仲間たちは、返事をせずに、頷いた。俺は、噴水のそばまで行くと、
「ここまでくれば大丈夫だろ!」
その瞬間、待ち伏せしていたモンスターに襲われた。噴水の中から飛び出してきたのは三匹の人面食パンだった。
「くそっ! 待ち伏せか! 逃げるぞ!」
振り返ると、もう三人は地平線の彼方だった。
「ここはケンに任せて逃げるわよ!」
ガゼルのように逃げるアリシアたちに、
「ちょ待てよー!」
なんとか三人に追いつくと、次は、地下街に逃げ込んだ。

地下街の一角で壁に手をついて、肩で息をする。そして、
「ここまでくれば大丈夫だろ!」
その瞬間、待ち伏せしていたモンスターに襲われた。地下街の排水溝から飛び出してきたのはカニカマでできた蟹だった。紛らわしい。
「くそっ! なんでいく先々で待ち伏せしているんだ! 逃げるぞ!」
俺が振り返ると、三人はもうとっくに逃げていた。というか、確信犯だぞ。俺を囮に使っていやがる!
「ちょまー!」
なんとか三人に追いつくと、次は、商店街に逃げ込んだ。

商店街のパワーワードアパレル空気屋さんの空気できたタキシードに手をかけながら、
「ここまでくれば大丈夫だろ!」
その瞬間、待ち伏せしていたモンスターに襲われた。タキシードの陰から飛び出してきたのは、やる気満々のナマケモノだ。普通のナマケモノはなんかだらだらしてそうなイメージがあるけど、こいつは目に炎が滾って見える。
「くそ! またかよ!」
そして、俺はまた当然のように俺を見捨てていった仲間の元へ駆けた。

「なあ! なんで俺のこと置き去りにするんだよ!」
「ケン! あなたの屋敷の中に逃げましょう! そうすれば流石にもう追ってこれないはず!」
「おい! なんで俺のこと置いていったんだよ!」
「ごめんなさい」
と、消え入りそうな声でジミーが言った。
「早く屋敷に行くでちゅ! 反省はそこでするできゅ!」
「いや、お前が反省するんだよ!」

そして、命からがら屋敷の中に飛び込んだ。アリシアはまるで自分の家のようにソファーでくつろいでいる。

ジミーは虚ろな目でただ壁を見つめている。こいつ怖いな。

萌は勝手に冷蔵庫からプリンを取ってきて、
「危なかったでちゅね。はい! どうぞ!」
「いや、これ俺のプリンなんだけど」
俺はプリンを受け取ると、それをそのまま側のテーブルに置き、地べたに座った。

体内の全ての毛細血管がはちきれそうだ。酸素が完全に不足している。飲み込むようにして息を吸い込み、嘔吐するように二酸化炭素を吐き出す。肺はメトロノームのようなペースで激しく動く。そして、
「ここまでくれば大丈夫だろ!」
その瞬間、待ち伏せしていたモンスターに襲われた。

モンスターとの戦闘の最中、ジミーが聞こえるか聞こえないくらいの音量で舌打ちをした。
「チッ。しぶといな」
ジミーの地味な台詞はトゲを孕んでいた。まるで腹の底にある黒い沈殿物が吐息とともに溢れたかのようだった。

モンスターとの戦闘を終えて、
「だーやっと終わった」
屋敷はめちゃくちゃになった。壁はあちこちにヒビが入り、今にも崩れそうだ。まるで屋敷が老け込んだみたいだ。

地面にはモンスターが垂れ流した体液があちこちに水溜りを生み出している。
アリシアはぐでっとだらけている。ジミーは相変わらず、地味地味している。萌は萌え萌えしている。

俺はアリシアと萌に、
「アリ! 萌!」
と呼びかけた。いつもとトーンの違う声はまるでナイフのように尖っている。

「やるのね?」
と、アリシア。目が真剣だ。

「わかったできゅ!」
と、萌。声色がさっきとは打って変わったように真剣なものになる。空気がその身の温度を幾度か下げる。冷たい風が吹き抜ける。まるで今、俺がいるこの部屋に液体窒素が流し込まれたみたいだ。

俺たちは三人でジミーの元に行くと、
「なあジミー。お前が俺たちの仲間になったのって数週間前だよな?」
ジミーはこちらを振り返り、
「ごめんなさい」
「いやいや。なんで謝るんだよ! ただ聞いているだけだろ?」
「はい。それくらいです」

「その頃から俺たちは頻繁にモンスターに待ち伏せされるようになったよな?」
「え?」
「もう一度聞くぜ。お前が加入してから俺たちは待ち伏せされるようになった」
「私をスパイか何かだと疑っているのですか?」
「いいや」

「じゃあ、一体なんですかっ?」
控えめな女の子ジミーは、体を震わせて大声を上げる。

「俺はお前がスパイだと疑っているんじゃない。確信しているんだ!」

「どういうことです?」
「今回の依頼は“街の外でカレーライスが暴れているから退治してくれ”というものだったろ?」
「ええ」
「あの依頼は俺が出したんだ」
その瞬間、空気の狭間に亀裂が走る。緊張感が足元から背中に飛び乗った。

「え?」
ジミーは完全に表情をむき出しにしている。“驚愕という単語”をそのまま顔で表現しているみたいだ。

「誰がスパイかを確かめるための作戦だったんだ。アリシアと萌もそのことは承知だ」
「事前に打ち合わせして、私がジミーちゃんにだけ逃げ先を伝えたのよ!」
「そしたら逃げる先々でモンスターに襲われたでちゅ」
「ということはお前が誰かに俺たちの情報を売っているスパイだということだ! 観念しろ!」

俺の声が空気の中を泳いでいく。透明な空気は引き裂かれてその身をよじる。砕けた平和の破片が地べたに落ちて、沈黙する。

まるでサスペンス小説のラストシーンみたいだ。犯人に全てを突きつけて、とどめをさす。一番盛り上がる最高の場面。ジミーの曇った表情と裏腹に俺たちは、顔の中に勇気を閉じ込める。

そして、
「くそっ! ばれたか。その通り、私がお前たちのスパイだ! それでどうする? 私を殺すのか?」
「いや、猿轡して逮捕だ」
そして、ジミーは無事に警察に引き渡された。特に抵抗するわけでもなく、地味なラストだった。

猿轡をするのは、パワーワード対策だ。パワーワード使いなら、言葉一つで逆転できてしまうからな。

しばらくして、ボロボロになった屋敷で盛大にパーティーを開いた。参加者は俺とアリと萌だけだ。
「いやー! 上手くいったな! アリも萌もなかなかの演技だったぞ!」
「どやあああああ」
と、アリシア。

「これでもういちいち依頼のたびに危険な目に遭うこともないでちゅでちゅー!」
「でも一体誰が私たちの殺害を目論んでいたのかしらね? それにカレーライスから私を守ってくれた影は一体なんだったのかしら?」

「さあ。っていうかカレーライスに負けそうになっただろ! あれ本当にびっくりしたぞ!」
「まあまあ。今日はたくさん食べていっぱい飲むでちゅ!」
と言いながら、俺の冷蔵庫からつまみと飲み物を勝手に持ってきた。『たくさん食べて』ってそれ俺の食糧なんだけど。

「まあ! 美味しそう! 全部ケンの好物じゃない!」
そりゃそうだろ。

「はい! ケンちゃんも飲んで!」
萌が俺のコップを勝手に持ってきて、俺のとっておきのジュースを勝手に注いだ。

「ま、何はともあれ、よかったな! これでスパイのあぶり出しには成功したし、一件らくちゃーくっ!」
グラスのぶつかる音とともに、みんなで一斉に飲み食いした。宴は最高潮の盛り上がりを見せた。一仕事終えた後の宴会は至高。これのために働いていると言っても過言ではない。華やかな空間に、幸福感が飛び交う。

疲れが吹き飛び、身体中に元気と活気がみなぎる。まるで、最高に最高を重ねているみたいだ。つまり最高だ。

俺は目の前のステーキにかぶりついた。血の滴るステーキは俺の喉を潤した。噛めば噛むほど肉汁が飛び出てきて、喉の奥にぶっ刺さる。美味い。美味い。美味すぎる。

砕けたステーキの肉片は、存在感を放ちながら口腔内を踊る。舌の上で快感が踊っているみたいだ。柔らかい肉は、まるで快楽の塊。噛めば噛むほど、脳に快楽を送り込む。
俺は皿に顔を突っ込んで食いまくった。

「犬みたいに食べてー。ウルフみたい!」
「そ、そだね」
「なんでテンション下がってんのよ! まさかボッコボコにされたの思い出しだの? ケンはウルフに生きたまま食べられたもんね!」
「ち、ちげーよ!」

アリシアと言い争っていると、
「ケンちゃん! 萌、お電話かけてくるでちゅ」
「あ、ほーか。ほーか。夜だし気をつけてな!」
「もうスパイもいなくなったし大丈夫でちゅ! ケンちゃんはいつも萌のこと過保護できゅ!」
「だって萌はこの中で一番年下だからな。電話終わったらすぐ帰ってくるんだぞ」

萌とアリシアはこの屋敷に住んでいる。とっとこみんなの依頼をやる屋さんのメンバーはホームレスとか金がないやつばっかりだ。みんな俺の冷蔵庫から何か勝手にとっていく。勝手に俺のソファーに座る。

「子供扱いしないでくだちゅい!」
そして、萌は屋敷を後にした。

[萌視点]
夜の闇の中を飛んでいく。スキップするたびに心が揺れる。グラグラと音を立てて左右に揺れる。地面に足がつくたびに、振動が心に触れる。
「おっでんわ! おっでんわ! 楽しいおっでんわ!」

静寂を萌の楽しそうな声が砕く。静まり返って凍りついた街に、火が灯ったみたいだ。
「つながらないお電話がつっながっるよっ!」
萌は浮かれて浮かれてスキップする。飛び跳ねるごとに、闇の飛沫が顔にかかる。わずかに地面にぶつかる月の光は、今にも闇に飲まれそうなほど弱々しい。
萌のなんだかよくわからないオリジナル歌は沈黙を砕く。

「でんでんでんわ。楽しいおっでんわ!」
そして、萌は暗い路地裏に入ると、ピタリと歌うのをやめた。ゆっくりと確かな足取りで路地裏を縫っていく。細い道を幾度か曲がると、
「パワーワード電話発動。つながらない電話がつながる」

誰にも聞かれないような暗がりに、萌の声が響く。
プルルルルルルル

プルルルルルルル

プルルルルルルル
三度目のコール音の後、彼が電話に出た。

「首尾よくいったか?」
電話に出た彼の声はくぐもっている。まるで夜の闇のように掴み所がない。萌は、猫をかぶるのをやめると、

「ええ。全員騙されています」

「よくやった。例の作戦は、時期を見計らってやれ!」

「はい。喜んで! 皆殺しにします」
通話を切ると、夜の闇はより一層その色を濃厚なものにした。まるで地上に存在する全てのものを太陽から隠そうとしているようだ。

「くっくっくっく」
裏切り者の萌のいやらしい笑い声が、空気を割る。

「あーはっはっはっは!」
その声は、凍てつく冷気よりも冷たくて、暗い夜空より真っ暗だった。

「みんな殺してやる! はらわたを全部出してやる! 十二指腸を全部引きずり出してやる! 臓器という臓器をぶちまけさせてやるっ!」

萌は、脳内にケンの姿を映し出す。
『いやー! 上手くいったな!』
ケンは、お日様みたいな笑顔を振り撒く。

「ぶっ殺してやる! 背骨を引きずり出してやる! 頭蓋骨を抉り出してやる! 骨という骨を全部床に撒いてやる!」
萌は、脳内にアリシアの姿を映し出す。
『どやあああああ』
アリシアは、いつも元気で楽しそうだ。

「殺す殺す殺す殺す殺す! 絶対に殺す! ぶっ殺すっ!」
雲ひとつない夜空には、星が瞬いている。溢れて溢れそうなほどの星の海は、暗くて、重たくて、美しかった。

輝く星々は、まるで夜空を天蓋に貼り付けるピンのよう。星が消えてしまったのなら、もう夜空を支えるものなどない。天井から地面に向かってあの大空が落ちてきそうだ。

大きな大きな空は、今にも崩れ落ちそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...