この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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新しい依頼とパワーダンジョン”最先端技術がある古代遺跡”

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第六章 あたいのカレピを探して!

[ローズ視点]
私は腹の底から声を押し出した。飛び出た声は、空気を裂きながら話者の鼓膜を揺らす。
「以上があたいの今回の依頼だっつーのっ!」

ケンと名乗った男と、その取り巻きは顔を見合わせる。きっとあたいのこのギャル力に怖気付いたのだろう。
「とんでもない依頼人がきたな」
ケンはなんの面白みも特徴もないモブっぽい喋り方で言った。

「とんでもないってどーいうこと? ちょームカつくんですけどー!」
「いや、こっちの話だ。依頼は、別れた彼氏を捜索してほしいってことだな?」
「それよりプリクラ撮るっしょ!」
「それよりってなんだよ! あんたが依頼してきたんだろ!」

「こいつノリわるー。マジ勘弁。ってかあんたあたいのことさっきからジロジロ見過ぎ!」
「は? だって依頼の話しているんだから。仕方がないだろ」

「この美しい黒髪!」
あたいは、髪を見せびらかすようにして言った。
「このうるツヤ肌!」
あたいは、肌を見せびらかすようにして言った。
「そして、このわがままボデー!」
あたいは、全身を見せびらかすようにして言った。

「あんたがこのあたいに惚れていることはほぼ確!」
「わがままボデーね。まあいいや、それで彼氏はどこにいるんだ?」
「これがその地図っしょ! 隣の部屋に住んでいる絵が上手いおばあちゃんに書いてもらったっしょ! あげぽよー!」
モブ顔の男は地図を受け取った。

「最先端技術がある古代遺跡だな。ここパワーダンジョンだぞ? 本当にあんたも来るのか?」
「イェア!」
「中にはたくさんの敵がいるんだぞ?」
「あーね(あー。そうだね)」
「ふー。まあいいや、依頼金はもう受け取ったし、責任を持って俺たち“なん”があんたを護衛する」
「ん? マジイミフなんすけど。あたいまだお金支払ってないぽよ」

「いーや。もう事前に受け取っておいたぽよだ」
「じゃーあたいはタダで依頼受けられるってこと! あげぽよっ!」
そして、あたいとケンとアルトリウスって女騎士とアリシアは出発した。アリシアはなぜか黒い布がかかった板を背負っていた。


「ねー。あんたってまじウーロン茶よね!」
街を歩きながらケンにちょっかいを出してみた。
「ウーロン茶? なんのことだ?」
「うざいロン毛の茶髪男ってこと!」

「てめーぶっ殺すぞ! つーか茶髪じゃねーだろ!」
穏やかな昼下がりの街。喧騒が静寂を貪り尽くす。賑やかな街は、あたいの若々しい心をさらに若返らせる。
「アリシアちゃん。その大きな板なにに使うっしょ?」
あたいがアリシアに尋ねると、彼女はそれを慌てて隠した。

そして、
「ただの板っしょ! それよりローズさんは、どんな音楽聴くっしょ?」
と、アリシア。どうやらあたいの喋り方に影響を受けたみたいだ。
「あたいの友達の間では、これが流行っているっしょ!」
あたいはアリシアに持っていた音楽プレイヤーを貸してあげた。
「ほー。私これ聞いたことないっしょ。結構古い曲っしょ?」
「アリシアちゃんまじケーワイ! これが最新の音楽っしょ!」

アリシアとくだらない話をしながら街を進んでいく。赤い屋根の家には、風見鶏がカラカラ音を立てて回る。宝石のように透き通った風は、空の中に溶けていった。
空に溶ける風は、水に落としたガラスのようだ。近くにあるはずなのに、ものすごく見にくい。

街を抜けて、細い洞窟を通り、高台を超えて、谷を渡り、山奥にひたすら突き進む。湿った空気の中を泳いでいるみたいだ。森の中は街とは全く違う世界だ。

喧騒の代わりに静寂がひしめいて、人々の代わりに小動物が跋扈ばっこする。
あたいの乾いた肺を、森の空気が潤してくれたような気がした。

あたいたちは、歩いて、歩いて、歩き続けた。



そして、パワーダンジョン『最先端技術がある古代遺跡』に着いた。
そこは、巨大な緑に覆い尽くされた遺跡だった。深緑色の木々や蔦が絡まっているのは、見たこともないような最先端の機械。あたいたちが住んでいるこの世界の時代は、(地球でいう)中世のはずだ。

なのに、なぜこんな機械が存在するのだろう。建築や、移動手段などの技術はそんなに進んでいないのに、病院の治療技術などは驚くほど進んでいる。

「なあ! アルトリっち! なんで最先端技術が木々に埋もれているんだ?」
「さあな。パワーダンジョンだからじゃないか? 矛盾する二つの事象を、矛盾を有した存在させる。それがパワーワードだ」

「ふーん。つーかあたい疲れたんですけど。ちょっと休んでから探索するぽよあげ!」
なんだかよくわからないが、今日はやけに疲れる。体力を何者かにむしりとられてみたいだ。まるで老婆の気分じゃん。

「そうだな。ローズの体調に合わせて行動しよう」
あたいたちは、遺跡の入り口でだべることにした。
遺跡は見れば見るほどおかしい。古くさいのに新しい。旧と新を混ぜ合わせて同時に存在させているみたいだ。遺跡はモノクロの洞窟の中に彩りを与える。

洞窟の天井に伸びるコロシアム状の建物。これがこの遺跡を外部から守っているのだろう。遺跡は石造りだが、割れた石積みの間から機械の一部がところどころ顔を出している。

遺跡の中に入ればもっとたくさんの機械がひしめいているだろう。

コロシアムの壁一面に茂るツタは、複雑な模様を描く。遺跡が服を着ているようだ。
機械の銀と、石の茶、それに自然の緑が、複雑な三重奏を作り出す。神秘的でどこか不思議な光景だ。
あたいが遺跡の壁を眺めていると、ケンは焚き火をした。パチパチはじける炎の粒が空気に混じって泳いでいく。
「ケン。紅茶を頼む」
「あいよ」
ケンはアルトリウスに紅茶を手渡した。

「ケン。私は、シングルモルトウイス、」
「ねえよ!」
ケンはアリシアに紅茶を手渡した。

「ローズも何か飲むか? って言っても紅茶しかないけどな」
「お! 気がきくじゃん! ならアイコ(アイスコーヒーのこと)一つ!」
「ねえよ!」
ケンはあたいに紅茶を手渡した。

その時だった。
「わしは、ロイヤルミルクティーが飲みたい!」
あたいたちの輪の中に、いつの間にかホームレスがいた。顔は髭面でいかにもホームレスだ。髪は伸び放題でいかにもホームレス。着ている服はオンボロでいかにもホームレスだ。

「んなもんねーよ。つーか誰だあんた?」
「あなたもしかして老人ホームから逃げてきた老人?」
と、アリシア。

「なら紅茶で我慢するとしようかの」
ホームレスはケンとアリシアを無視した。ホームレスは勝手に紅茶をすすり始めた。
「ねえ。人の飲み物勝手に飲まないでくれない?」

「まあまあ。いいじゃんいいじゃん。たかが紅茶っしょ!」
「てめー。ぶっ殺すぞ」
「ケン! おじいちゃんにも優しくしないとダメよ!」

「なあ。じいちゃん。あんたこの遺跡で私の彼氏見なかったか?」
「んー。見たぞ」
ホームレスじいちゃんは汚らしい髪の間から瞳をのぞかせながら言った。

「マジッ? 人には親切にするもんだな! あげぽよー! いえーい!」
あたいは飛び上がって喜んだ。洞窟内を歓喜の声が飛び交う。

「んーで。あたいの彼ピッピはどこにいた?」
「あの遺跡の中じゃ」
「いや。それはわかっているんだけど。具体的に遺跡のどこ?」
「なんじゃと! わしのリコーダーを無くしたじゃと?」

「リコーダー? なんの話だよっ? それより、あの遺跡に」
「ええい。わしのカスタネットは誰にもやらんぞ!」

「いや、そうじゃなくて、あの」
「わしは誰に何を言われても世界一のギタリストになるんじゃ!」
このジジイだいぶ痴呆が進んでいるな。

ケンがあたいのところによってきて、
「そろそろ遺跡の中に入ろう。この爺さん頭がアレだ」
「わ、わかった」
「じゃあ爺さん俺たちは、遺跡の中に入るから紅茶は好きに飲んでくれ!」

あたいは、老人に、
「あんた老人ホームから脱走した老人っしょ! さっさとホームに帰るし! みんな心配しているつーの!」
老人は何も答えない。無視されるとかちょっとショックだ。




そして、あたいたちは遺跡の中に足を踏み入れた。

そこは別世界だった。一歩足を踏み入れた瞬間、
『お帰りなさいませ。ご主人様』
アナウンスとともに、ホログラムで覆い隠していた機械の園が広がった。右も左も上も下も全ての視界が機械のジャングルに紛れる。

見たこともないような巨大な鉄の塊。内臓のように複雑に絡み合う何かのケーブル。
「うっわー! なんだここっ! テンション爆上げー!」
あたいは野良犬のように走り回った。飛び回って、はしゃぎまくり、何もないところで転んで頭を床にぶつけた。衝撃が脳に墨汁のように染みてくる。伽藍堂とした頭蓋内に反響する衝撃がほとばしる。

「あいったー! 何もないところで転ぶとかアリエンティー!」
「お! おい! 気をつけろよ! 大怪我したらどうするんだよ!」
ケンが私のことを助け起こす。
「はあ? こんなんで怪我なんてしねーし!」
と言いつつも、いつもよりも痛みが引かない気がする。しかも体の動きもなんだか鈍いし、ついにあたいも歳か。

ケンに助け起こされて、
「助けなんて必要ねーし。でもあざまし(ありがとうございました)」
ケンに起こされながら、地面に落ちていた一枚のボロボロの紙を拾った。なぜ落ちている紙を拾ったのか聞かれたらうまく答えることができない。強いて言うなら、なんとなく。

なんとなくこの紙は重要な意味を持っているような気がしたから。ただそれだけ。
「ん? なんだこれ?」
あたいはその紙を、目を細めて覗き込む。あれ? なんか視力が落ちたかな? 小さい文字がやけに見えにくい気がする。多分カラコンの使いすぎだ。
そして、ケンもその紙を覗き込む。そこには意味深なことが書かれていた。
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