この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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空の上の居室

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第二章 竜王の居室

ドクン、ドクン、ドクン、ドクンっ!
「ぷはー!」
俺は肺から大きく息を吐き出して、再び蘇った。誰かが人工呼吸をしてくれたみたいだ。

「ちょっと大丈夫?」
目に涙を浮かべながらアリシア。
「おい! 心配したぞっ!」
俺のことを抱きしめるアル。義手の冷たい部分と、生身の温かい部分が不思議な感触を俺に与える。

「みんな? ひょっとして俺死んでいたのか?」
「そうだ! びっくりしたぞ!」
「みんな! 俺のことを心配してくれたんだな」
そうだ。さっきはギャンブルさえできればいいと思っていた。だけど大事なのは仲間だ。俺には仲間がいる。俺は一人じゃない。

「せっかくクジを当てたのに死んじゃうなんてもったいないわよ! それに私たちが泊まれなくなるところだったのよ!」

ん?

「そうだ! そうだ! ケンがあの部屋の権利を持っているから、ケンなしで私たちはあの部屋に泊まれないのだ。危うく野宿するところだった」

あれ?

「お前ら、俺のことを心配してくれたんじゃなかったのか?」
その瞬間、二人とも黙り込んだ。

「あ、当たり前でしょ。私ケンのことだーいすき(友人として)」
「と、当然だ。私たちは仲間だろ!」
「そ、そうだよな。疑って悪かったな。じゃあそろそろ竜王の居室で休むとしようか」
そして、俺たちは竜王の居室に向かった。


竜王の居室に向かう方法は単純だった。ホテルの最上階(二等の部屋)から屋上に上って、そこからハシゴで空を目指す。それだけだ。
「こちらから上がケン様の本日のお部屋になります。こちらが鍵です」

鍵を受け取ると、屋上の鍵を開けた。そこはホテルの一番てっぺん。ウェディングケーキの一番上だ。夜の空に向かって伸びる巨大な建造物の頂点。夜風が全身を攫おうとしてくる。今にも吹っ飛ばされそうだ。

そんな屋上には、ポツンとハシゴがある。ハシゴは宇宙に向かってまっすぐ伸びていて、先は全く見えない。危なっ。
「うおーーーーー! 外だ! これ部屋っていうのか?」
正直、屋外をあてがわれたような気分だ。

「この空全てが私の部屋なんでしょ!」
アリシアも屋外に出てきた。俺の部屋な。

「寒っ! 本当にこの上に部屋なんてあるのか? 騙されているんじゃないのか?」
アルの反応にも頷ける。ここから見下ろす景色は、三百六十度全部空だ。空の中で遭難したみたいだ。

「ではごゆっくり」
ホテルマンはホテルの中に帰っていった。

「ま、ともかく上ってみよう」
俺たちはそばにあったハシゴを登ることにした。

左右からは殴りつけるように風がぶつかってくる。体感温度は、とうに氷点下を下回っている。指先に感覚がない。まるで体が徐々に石になっていく呪いにかかったかのようだ。

氷点下のヤイバは、俺の身を容赦なく切り刻む。俺の体に残る温度は無残にも斬り伏せられて、冷気に侵される。
「ひぎーさみー! ってかなんでこんな思いしないといけないんだ? もう三等のちょっといい部屋の方が良かったんじゃないのか?」
俺は文句を言いながらハシゴを登る。冷たい空気の中をひたすら上に向かって泳いでいく。空気の塊の中を槍のように突き進んでいく。進む。登る。上がる。

登って、登って、登りまくった。一生分登ったんじゃないか? そう思った矢先、
「つ、着いた!」

俺は、ハシゴの終着駅にたどり着いた。そこは、まごうことなく空の上だった。何もない空中に両足をつけて立っている。
「うおおおおおお! なんだこの達成感!」
「うおおおおおお! 着いたぞー!」
と、アリシア。
「やっとかああああ」
と、アル。


固形化した空の端っこに行ってみた。そこには、杭が打ち付けられてある。ここからは普通の空になっているのだろう。俺はギリギリまでいって、そこから世界を見渡した。

それは見渡す限りの黒い海のようだった。
「すっげええええええええ!」
口からは陳腐な感想しか出てこなかった。なんと形容していいのかわからないのだ。あまりの高度に言葉を失いそうだ。

俺たちが今いる地点は、空のはるか上、宇宙と言っても差し支えないだろう。月を見下ろすほどの高さにいる。
っていうかこれもはや、宇宙空間に突っ立っているようなレベルだ。頭上には、星屑をちりばめた天蓋。眼下には久遠に広がる夜の大地と海。いくつもの大陸が見える。陸の上には、人々のつけたであろう灯火が小さな輝きを放っている。

それは、黒い地面に星のカケラをぶちまけたみたいだ。

俺は胸いっぱいに空気を吸い込んだ。薄くて軽い酸素は、肺の中に一気に流れ込んできた。体内に入った空のカケラは、俺の体から体温を奪った。ゆっくりと吐き出した息は、白い湯気となって空に溶ける。

「さっみいー」
絶景と寒さから、まるで寒い外国にでもきたような感覚になった。
「ねえ! あれ!」
アリシアが空を指差す。俺は背後を振り返って、アリシアの示す方向を見た。


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