この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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約束

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「なんだと?」
「今の社会は腐りきっている。ルールを破る人や人を平気で騙す奴ばかりが得をしてしまう。俺もそう思う。お前は“正しいこと”を言っている」
赤ん坊は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。驚いて俺の顔を食い入るように見つめる。

「この世に生まれてくることが最大の不幸。それも的を得ているな。生きるから悲しみにぶつかるんだ。俺たち人間は、生まれてしまったから、しぶしぶ生きている。みんなそうだ」

赤ん坊の抱えていた怒りは少しだけ収まったようにみえた。俺は続けて、
「こんな小さな赤ん坊がそんなことを言うなんて、世も末だな」

「へえ、俺様はてっきり綺麗事で俺を説得しようと試みると思っていたぜ」
「いや、俺はそんなことはしない。俺は正義のヒーローでもなんでもないからな。俺はお前の意見を否定しない。それどころか全くの同感だ。俺たち辛い世界に生まれちまったな」

赤ん坊はあっけにとられて、黙ってしまった。まさか、殺人鬼に共感する人間がいるとは夢にも思っていなかったのだろう。



しばらくの沈黙が流れた後、
「じゃあ。俺はそろそろ自分の国に帰るよ。もう殺人なんてするなよ」
「俺様を警察に突き出さないのか?」

「青少年保護法があるだろ。警察に突き出しても無駄だ」
「それはそうだが」

「青少年保護法では、大半の少年犯罪者は更生しない。あの法律にはなんの意味もない。そんなこと、大人は全員わかっている。わかっていてチャンスをあげているんだ。信じる力がゴミ以下だってみんな気づいている。そんな綺麗事になんの値打ちもない。

青少年保護法を盾にして子供は犯罪を犯す。殺して、殴って、奪って、なんのお咎めもなしだ。ずっと真面目にルールを守って生きてきた子供だけが損をする。

あの法律に意味はないけど、それでも信じたいんだ。お前なら更生できる。お前のその運の力を他のことに活かすんだ。お前のような虐待されている人を助けられるだろ? お前なら絶望した人を救い上げることができる」


「俺様が絶望していた時に、誰か助けてくれたのか? 俺様が虐待されていた時に、お前は何をしていたっ? 虐待の事実を知りもしなかっただろ?」

「確かにそうだ。俺はその時楽しく仲間と暮らしていたよ。だから次にお前が絶望したとき、俺が助けてやるよ」
俺は力強く言い放った。

「助けなんていらない。俺は更生もしない。説得しようとしても無駄だ」
赤ちゃんも負けじと言い放つ。

「お前がどれだけ理不尽で不幸な人生に絶望しても、必ず俺が助けてやる。生きている限り、全ての希望が潰えて、どれだけ頑張ってもどうにもならないことが立ちふさがるはずだ。その時に、俺はお前の味方をする。約束だ」


俺は一方的に、赤ちゃんに約束をした。俺は、この赤ん坊を救うと心に固く誓った。
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