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クリスタルガーデン
しおりを挟む「ひとっ飛びだったな! さ! さっさとドラゴンナイトたちに合流して、コバンザメみたいにくっついて手柄だけ貰おうぜ!」
「あんたそれ竜王にチクるわよ!」
「なんでだよ! そしたらお前も殺されるんだぞ!」
「二人とも! さっさといくぞ!」
アルが絵で描かれた翼で俺たちを叩いた。顔の横には吹き出しがあり、“イライラ”と書いてあった。
俺は改めてクリスタルガーデンの入り口を見た。綺麗なクリスタルのアーチがあった。透明な結晶でできたバラが透明なアーチに絡みついている。バラのアーチから色を引っこ抜いたみたいだ。
色のないバラは、趣がない。だが、これはこれで美しい。色を失った代わりに、その曲線美が大いに引き立っている。茎に生え揃う棘は、まるで透明なヤイバ。
触れるものの肌を刺せる。バラの唯一の武器だ。
思うにバラは棘があるから美しいのだ。完璧な美よりもどこか尖っている方が美しいような気がする。
何の欠点もない完璧な超人よりも、欠点を認め、自分の弱さを知って、その上で努力をする人間の方が美しい。
弱さこそが人間を強くするんだ。
「よし! 行こう!」
俺は透明な架け橋をくぐった。
そこには、一面に咲きほこる結晶化した花畑があった。
「うっひゃー! これぞまさにクリスタルでできたガーデンやなー!」
「そのままじゃん!」
俺はアリシアをシカトして花畑に頭からダイブした。
ザクザクザクザクっ!
「いてててててて! いってえええ!」
俺は鋭利な棘に全身を貫かれた、と思ったがあんまり痛くなかった。
「いた……くないな。うん。痛くない。ドラゴン状態だから身体能力が上がっているんだった」
つい反射で痛いと感じてしまった。目の前にフェンスがあるのに、野球ボールが飛んできたら目をつぶっちゃう。あれと同じだ。
俺は花のクリスタルを一個つまんでみた。クリスタルは太陽光を吸収して、俺の顔に打ち返してきた。
「うおっ! 眩しい」
美しいクリスタルの花弁は、ずっしりと重い。俺はそれを口の中に放り込んでみた。
「うむっ! うまい!」
クリスタルは透明感のある味がした。
舌の上に吸い付いてくるような触りご心地だ。少しひんやりとしていて金属を口に突っ込んだみたい。まるであんまり冷たくない氷を食べているような感じだ。
「ん? 溶け始めたぞ」
クリスタルは俺の舌の上でほろほろと溶け始めた。
融点が低いらしい。もしくはドラゴンの口の中が熱いだけかも。
俺はクリスタルを飴玉のように転がした。クリスタルは、舌の上をスケートリンクのように滑り舞う。
クリスタルの味は溶けることによって変化を始めた。
人間が感じる五分類の味。苦味、甘み、酸味、塩味、そして旨味。そのどれにも当てはまらない味がした。味蕾(味を感じる部位)の上に不思議な感覚が宿る。
かつて感じたことのない味に、脳は興奮と戸惑いを浮かべた。
クリスタルから発せられる味は、圧力に近いものだった。美味しいという感覚もあるにはあるが、舌が押されているような引き込まれるような感覚も生じている。
まるで舌の上に小さな小さなブラックホールがあるみたいだ。
「不思議な感覚だな」
俺はクリスタルを吐き出そうとした。
だが、舌の上にひっついてなかなか離れない。氷が舌にくっつく感覚に似ている。
「なー。はる、こへほっへくへ! (なー。アル、これ取ってくれ!)」
アルに見せた瞬間、
「何やっている! 死ぬ気かっ!」
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