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vs武器
しおりを挟むクリスタルの破片が空中を舞う。キラキラ光る結晶は、空気の中を優雅に泳ぐ。時折頬にぶつかった結晶は俺のことを吸い込もうとしてくる。
だが、流石に粒子サイズになるとそこまで害はないのだろう。しばらく俺の鱗にくっつくと自然に取れる。
「なんだ? さっきの攻撃? 一撃でダンジョンが崩壊したぞ」
俺は瓦礫の中から這い出ると、翼を使って空に逃げた。
重力に逆らい、上に向かって飛ぶ。風が翼を舐める。少しだけ気持ちいい感覚は、戦闘中でないならいつまでも味わっていたいものだ。
俺はある程度の高さまで来ると、浮遊島を見下ろした。俺の視線が手探りで地べたを舐める。
「アル? アリシア? 平気か?」
煙が俺の視界を飲み込む。何も見えない。竜状態の体力と防御力は甚だ強い。二人とも無事だと思うが。
「いたら返事をしてくれー!」
その時だった。
ボフっ。バサバサ。
煙の塊の中から、何かが俺に向かって飛んでくる。翼の生み出す風の流れが、煙の動きを変えていく。
「アル? お前か?」
返事はない。嫌な予感がする。というか敵の位置がわからないのに、大声出したらダメだな。
「アリシア? お前なのか?」
返事はない。アルでもアリシアでもないということは。
俺に向かって飛んできていたのは、人さらいの武器竜だった。
「やっぱ人さらいか」
俺は目の前に飛び上がった武器の塊を見た。
鋼鉄でできた羽を豪快に動かしながら空中で静止している。まるでガラスの塊に入れられたオブジェのようだ。
ギチギチ。ギシギシ。と、機械の関節からは悲鳴にも似た音が聞こえる。
「殺す」
そして、砲口に力を溜め始めた。銀色の砲口が赤熱を始める。
「さっきの攻撃をやる気だな」
俺は空中を翼を使って旋回。煙に紛れて、姿をくらます。空を跳ねまわりながら、目だけは武器の竜を捉える。
砲口はあまりの熱気で完全に赤色に変色している。今にも自身の熱で溶け始めそうだ。
俺の黒い肌の奥の奥。そこには小さな心臓がある。竜の体を動かすための動力源。
コンマ数秒ごとに、その体積を変化させる。必死で大小しながら、赤血球を血管の中に流し込む。血の粒は酸素を体の要所要所で解き放つ。
俺の全身には、血と酸素が巡りに巡っている。まるで昼と夜を食べ続ける惑星のように回る。
回転して、回転して、まだ回る。止まったらその時が最後。砕けて宇宙のゴミになる。
俺の体は、生きている。生きるということは、死ぬことへの激しい抵抗。
死んでたまるか! という気合だけが俺の全身を活性化させている。
俺は翼に万力のような力を込める。空気をかき分けて空を泳ぐ。次第にスピードは上がり、景色は矢のように背後に流れる。
武器の竜の周囲を旋回しつつ攻撃に備える。
そして、敵は砲口から巨大な熱エネルギーを熱放射した。特大のレーザービームが輝きながら俺を食べようとする。どう考えてもあの銃口からあんなサイズのレーザーなんて出るはずがない。だが、この世界で不可能なことは可能になるのだ。
「くそっ! 躱し切れるかっ?」
俺は縦横無尽に空を切っていく。縦に横に斜めに前に後ろに飛び回る。少しでも停止すれば一瞬でチリにされる。
敵は、ちょろちょろ飛び回る俺を楽しそうに追い詰める。空中に赤い絵の具で自由に絵を描いているみたいだ。
青空のキャンバスに赤い線が塗りたくられる。青は赤に染まっていく。
攻撃は激しく空を汚していく。
レーザービームは周囲にある小さな浮島を次々に食べていく。攻撃を食らったクリスタルは重力場を維持できなくなる。破壊された浮島は地べたに向かって吸い込まれていく。
爆発音と炸裂音が鼓膜の中を飛び回る。
そして、レーザーが俺の頬をかすった。
バチッ!
「危ねー!」
竜の鱗の表面が火傷している。ひりつく感覚が頬に巣くった。
「今のが直撃していたらやばかったな。今度はこっちの番だ」
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