この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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衝突

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俺は翼を使って空を掻き、同時に地面を足で弾いた。飛行と走行の中間のような移動は、凄まじい瞬発力を俺に与える。
右手を振りかぶり、思いっきり叩きつける。

敵は、機械のアームでそれを平然と受け止める。俺の握りこぶしをアームが掴んで離さない。

「さっきは油断したが、俺の今の状態も第二段階だ。パワーだけで言ったら互角。負ける道理はないっ!」

そして、敵は俺の右手を掴んで地面に叩きつける。まるで、砲丸投げの砲丸を飛ばさずに地面にぶつけているみたいだ。
「グっっ!」
痛みと衝撃が全身に走る。脳内に激しい電気信号が飛び交う。

そして、そのまま敵は、俺を掴んで砲丸投げのように回す。筋肉で動くメリーゴーランドは汚くて激しい。
「ヒャッハーーー!」
俺は砲丸のごとく投げ飛ばされた。地面に勢いよく激突した。大きなクリスタルを砕きながら地面を滑り、止まった。

痛みは思っていたほどではない。おそらく第二段階に到達したことで防御力も上がったのだろう。

そこから先は烈火のごとく激しい肉弾戦だった。

俺の右手が敵の肌を殴る。敵が俺の左腕に噛み付く。俺が敵の装甲を剥ぎ取る。敵が俺の鱗を引きちぎる。俺が敵の足を踏み砕く。敵が俺の頭をドリルで削る。


周囲の地べたには、どす黒い血がひっくり返されていた。機械のオイルが混じった血液は、汚らしくも美しい。

血溜まりに浮かぶ油が、日光を反射して虹色に輝く。ミスマッチなその組み合わせは、見るものの心に、芸術的な何かを与える。
決して綺麗とは言えないが、汚いだけとも言えない。

白い紙に血とオイルを使って絵を描けば、それなりのものが描けそうだ。


「ふー。ふー」
俺は肩で息をする。
「ヒャヒャっ! ハアハアっ」
敵は笑いながら喘いでいる。

俺は両翼を力の限り広げた。神経は翼の先端までしっかりと張り詰めている。広がった翼は二メートル以上はある。青い空はすっかり隠れて見えなくなった。
「次は空中戦だ」

「いいだろう。ヒャヒャヒャ」
敵は、足と腰のあたりからジェット噴射を行なった。ロケットが空に飛び立つ仕組みと同じだろう。エネルギーを激しく一定後方に爆発させ、その推進力を利用して飛ぶ。


俺は太ももからふくらはぎへ力を熱伝播させた。
迸るパワーは筋肉の筋を縫うようにして、足元に進む。
足の大腿筋は筋が浮き出るほど膨らみ、傷口からは激しく出血が起きた。
そして、力一杯地面を蹴って、空に向かって飛び上がった。


そのまま空中でムーンサルト。視線を宙返りさせる。体の方向は下から向かってくる敵に固定。そして、俺は重力を受け入れた。

全身を引っ張る惑星の引力。その巨大な力に自分の力を重ねる。翼で空を割って、隕石のように加速する。

体はあちこちが引っ張られているみたいな感覚になった。重力と翼力の全てを右手に集中。今度は手を開いて、鉤爪を大きく開く。五本の鉤爪が血を欲しがり、白く光る。

下からは武器の竜がジェットエンジンでこちらに向かう。

上から下から、同時に二つの物体が互いに向かって進む。徐々にその距離を詰めていく。

風が俺たちから逃げるように左右に逃げていく。

雲がちぎれて、その身を散らす。

音が割れて、沈黙を綺麗に飾る。

“空気が破断して裂ける音”だけが、俺の鼓膜に滑り込んでいく。

「「バラバラにしてやる!」」

そして、俺たちは巨体を正面衝突させた。
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