この小説は絶対に読まないでください 〜パワーワード〜

大和田大和

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公開処刑

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[膝枕の地点]
「あの……大丈夫ですか? しっかりしてください!」
目を覚ますと、元気だった頃のシャーリーがいる。心配そうな顔で俺のことを見ている。
「俺が蘇生したの何回目?」
「え? 一回目ですけど……?」
俺は起き上がると、
「じゃあ、狙い通りだ! さ! デートの続きでもしよう!」
そして、デートは再開された。

洞窟の中をお手て繋ぎいで歩きながら――
「さっきはお恥ずかしいものを見られちゃいましたね」
「さっき? さっきってなんのこと?」
やべえ、時間いじったからなんのことだかわからない。この時の俺って何してたっけ?

「さっきと言うのは、
【え? もしかしてシャーリーの心音? シャーリーも俺と同じように興奮しているってことか? もしそうなら死んでもいい!】
【私の心音が聞こえちゃいましたか? 恥ずかしいです……】
の箇所のことです」

「ああ。あそこの部分か」
(なんか説明が機械的だな……)
っていうかシャーリーは、ナチュラルに俺の心の声読むな……前にアリシアにもやられたし。っていうかこんなにだだ漏れなら心の中で呟いている意味が全くないんだが……
「私、今まで殿方と手を繋いだことなんて一度もなくて……舞い上がっちゃったの」
(きたー! 彼氏いたことがないアピールだ! ラブコメとかだと定番だ!)
直視したら目が抉り出されるほどの美人で可愛くてスタイルのいい女の子に彼氏がなぜか一度もいたことがない。これほど最高のものはない。
その上、性格も百点満点中百点満点。神の作りし最高傑作レベルの優しさ。
だけど、ちょこっとぼっちで大人しめに設定されていて完璧さを感じさせなく、親しみやすい。
これは、なろう系だけでなく、全ラブコメの鉄板、定番ですな。

「ハハッ。よせよ! 君みたいに可愛い子に彼氏がいたことがないなんて……信じられないぜ!」
シャーリーに彼氏がいたことがないことは知っていたけど、話合わせよっと。
「か、可愛いだなんてやめてください! こ、困ります」
シャーリーは顔を真っ赤にさせて、照れている。超可愛い。百点の反応。
「お世辞なんかじゃないぜ? 可愛い顔してんじゃんか?」
「もーう。ケンの意地悪っ! でもありがとっ!」
すげえええ! 男心を鷲掴みにする完璧なセリフだ!
「いや、俺はただ事実を言ったまでだし……」
「もーさっきからケンは私のこと褒めてばっかり。今度は私にケンのことを誉めさせてくださいよ!」
「え? これもなろう系のイベントなの?」
「もちろんですよ! じゃあ、今から褒めますね! ケンは優しいです。少女が困っていたら助けずにはいられない紳士の心を持ちつつ、同時に鷹のような気高さと高貴さと誠実さをも内包しています。さらに、ケンの胸の中に存在するのは“揺るぐことがない誇り”です。この誇りがある限りケンは負けません。ケンは私の知りうる中でも最高の男です! 歴史上の中で究極で無敵。完璧にして至高です」
「長い! 長い! 長い! なんかプレゼンみたいになっている。しかもなんか褒め言葉が――
俺を無視して、
「ケンの最もいい部分は、その強さにあります。ケンは究極で無敵です。この世界の全戦力を集結させてもまだ到達できない神の神域におわしまします。この世界中でさいっきょう。私、ケンがモンスターを殺すところをもっと見たいです!」
シャーリーは息継ぎもせずに一気に吐き出した。まるで外国語の授業みたいだ。
「あ、ありがとう。すごく嬉しいんだけど、なんかお世辞っぽくない? こんなに褒められると、そう聞こえちゃう」
「そんなことないですよ! お世辞なんかじゃないです! そんなに疑うなら何でもいいからケンさんに関する質問してください!」
「えー。ほんとー? じゃあ、俺とヒゲ男爵の関係性は?」
その瞬間、シャーリーは顔を曇らせた。
(やっぱりお世辞か……いや、待てよ)
「あ、ごめん。これ並行世界で俺が言った話だったわ。だから答えられるはずがないな。別の問題にするよ」
「いいえ! ちゃんと覚えていますよ。髭男爵は、ケンのお父様を殺した容疑者を追い詰めた刑事に逮捕された犯罪者のドキュメンタリーを見ていた家政婦の浮気相手です」
「めっちゃ細かいところまで一言一句覚えていてくれている! って言うかそんなどうでもいいとこまで覚えてくれたの?」
「はい! 私ケンのお話大好きですから!」
「ってか栄養失調で気絶してたんじゃなかったの? しかも、ここさっきの歴史と分岐したパラレルワールドだよね? 何で当然のように記憶を継承しているの? 君、なろう系主人公?」
「なろう系主人公はケンですっ! もっとかっこいいところ見せて!」
どうやらシャーリーは本当に俺のことが大好きで仕方がないらしい。なろう系とか関係なく俺のことが大好きなんだ! やった!
「しょうがないな……でもモンスターは皆殺しにしちゃったし」
「ならもう一回モンスターを蘇生させましょう!」
「へ?」
「もう一回モンスターを復活させて、その後、私の目の前でもう一度殺してください!」
(この女、何とんでもなく残酷なことサラッと言ってんだよ!)
「それは、いくらなんでもモンスターがかわいそうだろ。シャーリーのお願いでも聞けないな」
シャーリーは俺に抱きついてきて、上目遣いをして見せる。そして――
「……ダメ?」
「いいよ」


そして、モンスターの残虐な公開処刑が始まった。
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