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ニート
しおりを挟む第五章 ニート生活~ポロリもあるよ~
[温泉旅館の目の前にて]
温泉イベントは滞りなく完遂された。湯気が俺の頭上で薫っている。半透明な気体はゆらゆらしながら空を泳ぐ。
青い空の白い雲が霞んで見える。
和やかな昼の日差しが、霞を射抜く。輝く光の矢は、眩しいほど鋭く尖っていた。俺は顔にかかる光の飛沫を手で払って、
「いやあ。気持ちよかったな」
体からは疲労がすっかりと溶け出た。まるで、十六時間睡眠を取った後のようだ。それは寝過ぎか……
「ふぃいいいい。きんもちよかったわよね。っていうかさっき大変なもの見たでしょ? あれは忘れなさいよ? いいわね?」
アリシアは俺を横目で見ながら、恥ずかしそうに言った。顔は湯熱で熱っているのか、恥ずかしくて熱っているのかわからない。だがそれがいい。
「あ、あ、あ、あれは不可抗力だろっ! 俺は悪くないねっ!」
俺はさっき見たものを、まじまじを脳内に描きなおしながら言った。
「そ、そうね。よく考えたら、ケンのせいじゃないわ。ごめんなさい」
そして、シャーリーが、
「ケン。私の体の例の部分のアレがああなっているのは絶対に内緒よ!」
「わかっているよ! って言うかアレが見えちまったのは全くの偶然なんだからな!」
「そ、そうよね」
続いて、アルが、
「ケン! さっきの感触は忘れてくれ。全くお前は、変なとこばっかり触って――」
「あ、あ、あれも不可抗力だろっ! 俺は無罪だ」
「よく思い出したらあれは不可抗力だったな。すまない」
続いてウレンが、
「あなたさっき私にしたことをしっかり覚えていなさいよ!」「一生覚えていな!」
「さっきのあれは大義名分があるだろ!」
「そうよね。ごめんなさい。大義名分があるからあれはノーカンね」「そうだね。あれを責めるのはお門違いだね」
さっきの混浴では、次々と都合よくラッキーなことが起こりまくった。これもなろう系の恩恵なのだろう。
人生で一番最高だった。頭の中に次々とコマ送りになる最高の映像の数々を、もう一度思い出した。
[過去のかいそ――]
と、過去の回想に入る時だった。
「ちょっとお腹も空いたし、超高級レストランでお昼にでもしましょう! もちろんケンの奢りで!」
「私は超高級マッサージにも行きたい。食事が終わったらみんなで行こう! 当然ケンの奢りだ」
「私はカジノで一獲千金当てたいわ! 元手はケンが全部出していいから!」「スったときはケンが全部かぶっておくれ!」
「俺はお土産やさんを買いたい。お土産じゃなくて店ごと全部。この国中の全部のお店の全商品が全部欲しい。無論ケンの奢りで! がるる」
「ね? ケンもそれが良いでしょ?」
と、アリシア。
俺は女どもを見て、
「俺の金で、高級レストランとマッサージに行きたいって? お前らは俺の大切な仲間だ。いついかなる時も俺を支えてくれた。
辛い時には励ましてくれて、苦しい時は涙を拭いてくれた。お前たちは最高の仲間だ。
この“絆”だけは絶対に誰にも壊させない。俺はそろそろお前たちに恩返ししないといけないのかな……ふふ。
よっし! 今日は全部俺の奢りだ! お前ら食って飲んで遊びまくるぞ!……………………なんて俺が言うと思ったかっー?
俺が本当にお前らの分の贅沢代を全部出すとでも思ったか? あ?
“都合の良い時だけケンケンってよってたかってくるお前ら”に俺が奢るわけ……………………あるに決まってるだろーっ! 奢る! 今日は全部俺が奢る! 奢っちゃうんだなこれが! さーやろうどもー! 金に物言わせて、あーそぶぞー!」
「「「「おおおおおー!」」」」
それから俺たちの生活はヤバかった。なろうの国の全部の土地を買った。その後、全部のレストランを店ごと買った。その後、全部のマッサージ屋さんとカジノとお土産屋さんを全部店ごと買った。家もホテルも建物も神社も池も湖も全部全部買った。ぜーんぶ買った。買って買って買いまくった。この国は俺のものになった。
キングサイズのベッドよりもはるかに巨大なベッドの上で俺はゴロゴロする。
ベッドの端が視界に入らない。まるで一坪の土地を丸ごとベッドにしたくらい広い。
俺はゴロゴロしながら、
「腹が減ったな……セバスチャン!」
なろうの中では執事は、全員セバスチャンらしい。
「は! お呼びでしょうか?」
この国の元国王がきた。
「腹が減ったから軽くつまみを持ってきてくれるかな?」
「は! 仰せのままに! 神様」
良い良い。ちゃんと俺の方が上だということを認識しているらしい。人間にしてはまあまあやるな。
「ほらー飯だぞー」
俺はベッドで寝ている取り巻きの女どもを起こすことにした。
ペチンっ!
俺はアリシアを叩いて起こす。
「ふあーあ。ん? まだ……昼じゃん! おやすみ」
(一体何時まで寝るつもりなんだ、こいつは?)
「ほら! 飯がきたぞー」
ペチンっ!
俺はアルを起こす。アルは目を擦りながら、
「むにゃ? 今日は日曜日だ。ケンはおっちょこちょいだなあ……」
「今日は月曜だよ!」
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