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戦闘終了 王様かっけえ
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土煙が空に落ちる。
「な、何が起きたんだ?」
俺は目を細めながら周囲を探る。
煙の切れ目から、立ち竦むまさおが見えた。まさおは、
「信じられない。俺の今までの努力が、“なろう太郎”なんかに負けるなんて」
と、言うと、膝から崩れ落ちた。どうやら勝負は決したらしい。
王様は崩れ落ちたまさおのもとへ行くと、
「大したことないですね」
決め台詞を放つ。そして、
「私たちなろう作家は、孤独です。あなたのようなアンチに日々暴言を吐かれながら小説を書いています」
王様は遠くを見つめながら語り始めた。その振る舞いは、漫画でよくある師匠キャラの仙人みたいだ。
「でも暴言を吐かれるのはまだマシなのです。もっとも辛いのは誰にも小説を読んでもらえないこと」
王様は自分語りのようなものを始めた。みんなで聞いてあげよう。
「どういうことだ?」
「小説家になろうには、およそ七十万作品があります」
「七十万だと?」
「そして、その多くは、誰からも読まれることなく埋もれているのです」
「あなたは先ほど、
【小説家になろう? お前みたいなカスに、なれるわけないだろっ!】
と、おっしゃいましたね」
「ああ。言った。それがなんだ? 撤回しろとでも言いたいのか?」
金髪は這いつくばりながら怒号を放つ。
「いいえ。私もそう思います。“小説家になろう”から小説家になれるわけない。そう思います」
「なんだと? お前は事実小説家になったんだろ?」
「ええ。私はあの地獄に耐えることができたからです」
「地獄だと?」
「ええ。地獄です。執筆は辛い。誰も読んでくれない。誰も見てくれない。
小説家になんてなれない可能性の方が高いのに、それでも書き続ける。
作家になれないことはわかっている。だけど“小説家になろう”そう言って今日も文字を打つのです。
それが“なろうの世界”です。みんな自分を騙し騙し書いているのですよ」
“自分を語る王様”をヤンキーはギラついた目で見つめる。
「みんな薄々自分は小説家になれない。と思いながら執筆し続ける。
数年経ってもう何が楽しくて執筆を始めたのか思い出せなくなっても、それでも手を止めなかった人だけが小説家になれるのですよ」
「何が言いたい?」
「別にあなたがアンチなろうなのはどうでも良いのです。
アンチがいるということはそれだけ注目されているということですからね。
新人作家にアンチは一人もいませんから」
「でも、あんな都合の良い小説、俺は認められない!」
いきりたつヤンキー。
「確かに、なろうの世界では、チート能力や運で勝つ都合の良い展開が横行しています」
「俺は現実の世界で、“筋肉を操る力”を筋トレで勝ち得た。例え金にならなくても俺の努力の方が立派だ! お前らは努力もできないチートやろうだ! お前は、チート能力を使わないと俺には勝てないんだ。それがなきゃ……俺が勝ってた」
噛みつくヤンキー。
「先ほど、私はチート能力など使っていません。ごく普通に私の努力があなたのそれを上回ったのですよ」
「チート能力を使っていなかっただと? じゃあ一体なぜ?」
「なろう作家は、チート能力者ではない。ただの人間です。
現実の世界にチート能力も運で勝つ場面はありません。
そんな都合の良いモノこの世のどこにも……あるわけないでしょう?」
王様は初めて真面目な顔を見せた。どこか辛そうだ。
「私たちは、どれだけ辛くても、どれだけきつくても、あなたに暴言を吐かれても、決して投げ出さない。涙を拭って、泥臭く文字を打ち続けます。
“都合の良いなろう小説”は、作家の泥臭い努力によってしか産まれ得ないのです。
ただの凡人が続けた努力こそが“なろう小説”なのですよ」
「それは……」
「たとえ、アンチにボロクソに批判されても、どこかに読んでくれる人がいる。誰かが私の拙い小説を楽しみにしてくれる」
「…………」
「どれだけ辛くても、『面白い』、『続きが気になる』そう言ってもらえるだけで地獄の中を、身を切り裂きながら、進んでいける。
初めて感想を書かれたときは、机の前で声を上げて泣きました。たった一人が読んでくれるだけで、『面白い』の一言で、またパソコンに向き合える」
王様はヤンキーに、
「あなたは漫画を読んだことくらいありますか?」
「漫画? まあそれくらいなら」
「それなら、漫画に『ファンレターありがとう。一通も漏らさず読んでいます』というような事がおまけページに書いてあるのくらいはわかりますね?」
「まあな」
「私が作家になる前は、ああいうのはただのお世辞と建前。ファンレターなんて、一回読んだら屑籠に入れるものだと思っていました。
ですが、執筆を始めてわかりました。あれはお世辞でも建前でもない。
作者が汗と血で汚れた手で、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、かっこ悪い顔で、読んでいるのです。一通たりとも漏らさずにね」
「くっ……」
「たとえ、十人中九人が私の小説を蔑んでも、読んでくれる一人のために、何百万字も打ち続けるのですよ」
「何百万字だと?」
「ええ。なろうに小説を投稿しても、お金なんて一円ももらえません。私たち作家は金のために執筆はしない。書きたいから書くのですよ」
「お前らは、小説の中で自己満足しているだけだ!」
「自己満足ね……マー君さん?
「なんだよっ?」
王様は笑顔で、
「あなたの言う通りです。それは正しい」
「な、何? 自分で認めるのか?」
「ええ。認めますとも。自分が書きたいから、自分が満足したいから、だから小説を書くのです。“書け”と誰かに言われて書き始める作家はいません。みんな誰に言われるでもなく書き始める。
自己満足のために執筆する。それが作家です。誰にも必要とされなかった人間が、誰かに必要とされるようになるまで執筆するのですよ」
王様は過去を思い出したのか、感慨深そうな表情で続けた。
「たとえ、小説が書店に並ぶ日が来ても、それが売れるとは限らない」
「もし、売れなかったら?」
「もちろん。また最初から違う作品を書き直すだけです」
「何百万字も書いたのにか?」
「例え、何千万字でもですよ。それがあなたが言う負け犬の姿です」
「それでも俺はなろう小説を認めない。反吐が出るほど嫌いだ」
「そうですか。それもあなたの価値観。別に責めません」
「ちっ。行くぞ。おめーら」
そして、アンチなろうたちはとぼとぼと“なろうの世界”から出て行った。あいつら何しにきたんだ?
「な、何が起きたんだ?」
俺は目を細めながら周囲を探る。
煙の切れ目から、立ち竦むまさおが見えた。まさおは、
「信じられない。俺の今までの努力が、“なろう太郎”なんかに負けるなんて」
と、言うと、膝から崩れ落ちた。どうやら勝負は決したらしい。
王様は崩れ落ちたまさおのもとへ行くと、
「大したことないですね」
決め台詞を放つ。そして、
「私たちなろう作家は、孤独です。あなたのようなアンチに日々暴言を吐かれながら小説を書いています」
王様は遠くを見つめながら語り始めた。その振る舞いは、漫画でよくある師匠キャラの仙人みたいだ。
「でも暴言を吐かれるのはまだマシなのです。もっとも辛いのは誰にも小説を読んでもらえないこと」
王様は自分語りのようなものを始めた。みんなで聞いてあげよう。
「どういうことだ?」
「小説家になろうには、およそ七十万作品があります」
「七十万だと?」
「そして、その多くは、誰からも読まれることなく埋もれているのです」
「あなたは先ほど、
【小説家になろう? お前みたいなカスに、なれるわけないだろっ!】
と、おっしゃいましたね」
「ああ。言った。それがなんだ? 撤回しろとでも言いたいのか?」
金髪は這いつくばりながら怒号を放つ。
「いいえ。私もそう思います。“小説家になろう”から小説家になれるわけない。そう思います」
「なんだと? お前は事実小説家になったんだろ?」
「ええ。私はあの地獄に耐えることができたからです」
「地獄だと?」
「ええ。地獄です。執筆は辛い。誰も読んでくれない。誰も見てくれない。
小説家になんてなれない可能性の方が高いのに、それでも書き続ける。
作家になれないことはわかっている。だけど“小説家になろう”そう言って今日も文字を打つのです。
それが“なろうの世界”です。みんな自分を騙し騙し書いているのですよ」
“自分を語る王様”をヤンキーはギラついた目で見つめる。
「みんな薄々自分は小説家になれない。と思いながら執筆し続ける。
数年経ってもう何が楽しくて執筆を始めたのか思い出せなくなっても、それでも手を止めなかった人だけが小説家になれるのですよ」
「何が言いたい?」
「別にあなたがアンチなろうなのはどうでも良いのです。
アンチがいるということはそれだけ注目されているということですからね。
新人作家にアンチは一人もいませんから」
「でも、あんな都合の良い小説、俺は認められない!」
いきりたつヤンキー。
「確かに、なろうの世界では、チート能力や運で勝つ都合の良い展開が横行しています」
「俺は現実の世界で、“筋肉を操る力”を筋トレで勝ち得た。例え金にならなくても俺の努力の方が立派だ! お前らは努力もできないチートやろうだ! お前は、チート能力を使わないと俺には勝てないんだ。それがなきゃ……俺が勝ってた」
噛みつくヤンキー。
「先ほど、私はチート能力など使っていません。ごく普通に私の努力があなたのそれを上回ったのですよ」
「チート能力を使っていなかっただと? じゃあ一体なぜ?」
「なろう作家は、チート能力者ではない。ただの人間です。
現実の世界にチート能力も運で勝つ場面はありません。
そんな都合の良いモノこの世のどこにも……あるわけないでしょう?」
王様は初めて真面目な顔を見せた。どこか辛そうだ。
「私たちは、どれだけ辛くても、どれだけきつくても、あなたに暴言を吐かれても、決して投げ出さない。涙を拭って、泥臭く文字を打ち続けます。
“都合の良いなろう小説”は、作家の泥臭い努力によってしか産まれ得ないのです。
ただの凡人が続けた努力こそが“なろう小説”なのですよ」
「それは……」
「たとえ、アンチにボロクソに批判されても、どこかに読んでくれる人がいる。誰かが私の拙い小説を楽しみにしてくれる」
「…………」
「どれだけ辛くても、『面白い』、『続きが気になる』そう言ってもらえるだけで地獄の中を、身を切り裂きながら、進んでいける。
初めて感想を書かれたときは、机の前で声を上げて泣きました。たった一人が読んでくれるだけで、『面白い』の一言で、またパソコンに向き合える」
王様はヤンキーに、
「あなたは漫画を読んだことくらいありますか?」
「漫画? まあそれくらいなら」
「それなら、漫画に『ファンレターありがとう。一通も漏らさず読んでいます』というような事がおまけページに書いてあるのくらいはわかりますね?」
「まあな」
「私が作家になる前は、ああいうのはただのお世辞と建前。ファンレターなんて、一回読んだら屑籠に入れるものだと思っていました。
ですが、執筆を始めてわかりました。あれはお世辞でも建前でもない。
作者が汗と血で汚れた手で、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、かっこ悪い顔で、読んでいるのです。一通たりとも漏らさずにね」
「くっ……」
「たとえ、十人中九人が私の小説を蔑んでも、読んでくれる一人のために、何百万字も打ち続けるのですよ」
「何百万字だと?」
「ええ。なろうに小説を投稿しても、お金なんて一円ももらえません。私たち作家は金のために執筆はしない。書きたいから書くのですよ」
「お前らは、小説の中で自己満足しているだけだ!」
「自己満足ね……マー君さん?
「なんだよっ?」
王様は笑顔で、
「あなたの言う通りです。それは正しい」
「な、何? 自分で認めるのか?」
「ええ。認めますとも。自分が書きたいから、自分が満足したいから、だから小説を書くのです。“書け”と誰かに言われて書き始める作家はいません。みんな誰に言われるでもなく書き始める。
自己満足のために執筆する。それが作家です。誰にも必要とされなかった人間が、誰かに必要とされるようになるまで執筆するのですよ」
王様は過去を思い出したのか、感慨深そうな表情で続けた。
「たとえ、小説が書店に並ぶ日が来ても、それが売れるとは限らない」
「もし、売れなかったら?」
「もちろん。また最初から違う作品を書き直すだけです」
「何百万字も書いたのにか?」
「例え、何千万字でもですよ。それがあなたが言う負け犬の姿です」
「それでも俺はなろう小説を認めない。反吐が出るほど嫌いだ」
「そうですか。それもあなたの価値観。別に責めません」
「ちっ。行くぞ。おめーら」
そして、アンチなろうたちはとぼとぼと“なろうの世界”から出て行った。あいつら何しにきたんだ?
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