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地獄の幕開け
しおりを挟む第七章 現実へ~ポロリなどありません~
「さあ。帰るわよ」
と、呆れ顔のアリシア。
「いやだああああああああ」
俺は五歳の子供がドン引きするほど駄々をこねた。
「いい加減にしろ! もう十分楽しんだだろ!」
電柱にしがみつく俺を引き剥がすアル。
「この世界から出たくないー!」
「ずっとゴロゴロしたし、温泉も行ったしもういいでしょー? そろそろ仕事に戻りましょう」「そうさね。もう十分じゃないかね」
と、引き気味のウレン。
「俺は一生ここにいる! もうどこにも行かない! ハーレムがいい! チートがいい!」
「はー。全く。手のかかるやつだな」
その時だった――
「あのー。もうハイデルキアに帰られるのですよね?」
と、なろうの国王。
「おお! 俺の執事! いや、俺はいつまでもこの国にいるつもりだよ! で、どうした? おしぼりか?」
「いいえ。あれはお客様に対するサービスですよ。ところでこれを!」
王様は俺にあるものを手渡した。
「またいらしてくださいね!」
そして、俺は引きずられながらなろうの国を後にした。
椅子の家に帰宅した。俺は泣いた。
泣いて、泣いて、泣きまくった。
「わ、私、しーらないっと!」
アリシアは危険を察知して椅子の家から飛び出て行った。
「にゃあん」
テーブルの下ではもょもとが鳴いている。って言うかアリシアこの猫連れてきたのか……
「言っておくけど、私もこんな金もっていないからな」
「ぅん……」
俺は、テーブルの上に鎮座する請求書の束を見た。
『ケン様へ 鯨代の領収書一千万マニー』
『神様へ チート代二千万マニー』
『私のダーリン(はあと)様 女の子とイチャイチャ代二千万マニー』
などなど……
「これがなろうの国のやり方か……」
「あれが全部有料だと思うわけないだろー! なんだよ! これ! 詐欺じゃないかっ!」
「小説の設定を全部現実にしたんだぞ! あんだけ楽しんでたんだし、しっかり払え!」
「お前も温泉入ってマッサージしたよな……ってか、なんで止めてくれないんだよっ?」
「私も知らなかったんだ! あの国に入った女性は、全員洗脳される。しかもあそこに入った男性はなかなかあの国から出たがらなくなる。だから情報が隠蔽されていたんだな」
「だからってあんなに生々しく現実を突きつけることないだろ!」
[過去の回想]
王様は俺に請求書の束を突きつけた。
「はい! こちらが今回の領収書になります。お楽しみいただけたでしょうか?」
「えっ? 領収書?」
俺は王様からの領収書の束にサッと目を通した。
一枚領収書をめくるたびに俺の顔が青くなるのを感じる。
全部の領収書を見終わった後は、顔面蒼白になっていた。まるで生きている死人だ。
「あの……これって?」
「此度のサービス料になります! 女の子の洗脳代。接待代。飲食費。全部含めて約一億マニーになります! 端数はサービスしておきますね!」
「え……え……え……」
「可愛い女の子をエサにして、モテなさそうな男を誘惑。そして、骨の髄まで絞り取るのがこの国のやり方です!」
さっきこの王様をちょっとかっこいいと思ってしまったのを返せよ!
「おえええええっ」
俺は現実を直視できなくなって、嘔吐した。
背後からくすくす声が聞こえてくる。
「ケンったらすごく浮かれていたわよね? あの時、『御託はいい来な!』って言っていたわよ」
「全くだ。何十時間膝枕をしたのかわからん。洗脳状態だったとはいえ、仲間にあんなことさせるか? いつもいやらしい目で見られていたと考えるとゾッとするな」
「最初はキョドリまくっていたのに」「女の子が最初から好感度マックスだと気づくと、急に饒舌に口説いていたね。ビデオに撮っていたから後で上映会をしようか」
「ガルガル。女の子にくっつかれている時、『よせやい!』『やめろよ!』って言いながら手には全く力がこもっていなかったよ! あれはなんでだ? ねえなんで?」
「うええええええっ!」
俺は恥ずかしさのあまり嘔吐した。
ヒョコっ――
王様の背後からもえとシャーリーが顔を出した。
「ばっかじゃないの? 騙されちゃって! お兄ちゃんのバーカ!」
と、追い討ちを放つもえ。
(これが本性か……)
だが――
「ケン……大丈夫?」
と、俺に駆け寄る優しいシャーリー。
「うううシャーリー……俺の本当の味方は君だけだ!」
「よしよし」
シャーリーは地べたで、這いつくばる俺の頭を優しく撫でてくれた。
「信じていたよ、シャーリーだけは俺のことを裏切らないって!」
「私ケンと一緒に過ごせてとっても楽しかったわよ」
「俺もだよ……」
心の中に涙の雨が降る。やっぱりシャーリーはいい子だ。俺の目に曇りはない。
「お芝居抜きで、ケンは本当にいい男よ。ふふっ」
俺の目の前には天使がいる。
「ふふっ」
と、俺。
「ケンが私のために読んでくれたポエムも歌ってくた歌も詩もラブレターもとっても嬉しかったわ!」
「シャーーリーーっ!」
「あまりにも嬉しすぎたから……今からみんなの前で披露するわね!」
「へっ?」
その瞬間、シャーリーは国中の拡声器につながるマイクを持った。そして――
「では皆さん。今からケンが私に送ってくれた恥ずかしいポエムを朗読します! 録音の準備はいいですかー?」
「「「「いいでーすっ!」」」」
「へ? シャーリー?」
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