魔王軍の魔女は、姫の身代わりで囚われた初恋の人の看守になった

桃瀬さら

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 牢の重たい扉を閉めた瞬間。
 アリアドネの黒い瞳が、ベッドに腰掛けるルーカスをとらえる。
 目隠しをされ、手枷をはめられた180cmはゆうに越えるルーカスの痛々しい姿。
 軍服に輝く武功を示す装飾は、もはや意味をなさない。

 粗末な木のベッドがあるだけの牢屋。
 牢屋の小さな窓から見える空は、アリアドネの髪のように暗い影を落としている。
 
 彼にこんな場所は似合わない。
 できるなら、もっと違う形で会いたかった。
  
「……誰だ?」
 
 10年前ぶりの声は記憶より低く、掠れていた。
 アリアドネは手枷の鍵を手にそっと近づく。
 
「今日からあなたの看守になった、魔王様に仕える魔女アリアドネよ」

 気付いて欲しい。気付いて欲しくない。
 相反する願望が自分の中でせめぎ合う中、手枷を解き、目隠しを外す。

 ルーカスの赤い瞳と視線が絡み合う。

「アリアドネ……?」

 ルーカスに名前を呼ばれた瞬間、身体が高揚する。
 抑えていた想いが今にも溢れそうになる。
 
「何か気になることでも?」

 アリアドネは微笑みを浮かべて、わざと軽く返す。
 
「いや……ただ懐かしい名前で、戸惑っただけだ」
「お知り合いに私と同じ名前の人が?私は私以外のアリアドネに会ったことがないの、ぜひ紹介してくださる?」
「その子とは、もう何年も会えてない」
「そう……。それは残念ね」
​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​
 アリアドネの声は優しく、どこか寂しげに響く。
 ルーカスの瞳に悲しみが浮かぶ。

 あなたは知らないのね。
 私がここにいることを……ずっと、あなたのことを忘れられないでいたことを。

 アリアドネが魔女になって変わったことがいくつかある。そのうちの一つが髪色と瞳の色の変化。
 髪は白髪から、光を通さない黒へ。瞳は明るい碧色から、夜の底のような黒へと。

 今の私は、あなたの目にどう映っているんだろう。
 
 アリアドネはそっと手を伸ばし、ルーカスの頬に触れる。
 ひどく冷たい指先が彼の温かな肌に触れると、ルーカスの瞳がわずかに揺れた。

「これからは私が守るわ」

 囁きは甘く、まるで蜜のよう。
 牢屋の闇の中に溶けこみながら、静かに広がっていく。
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