廻りの国のアリス

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~第二話~ 自由の国

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 光と風がおさまり、少女は辺りを見渡した。
三人は小高い丘の上に立っていた。
ドアの先には城壁に囲まれた街が見える。

「ここはどこなの?」

少女の疑問に青年は答える。

「そのドアはアリスの行きたい国へと繋がります。
 ですので、私達に聞くよりも自分の心に聞いた方が早いでしょう。」
「私の行きたい国・・・?」

首をかしげる少女に白ウサギはこんなところで立っていてもしょうがないと言い、街の方へと歩を進めた。
促されるように少女と青年は後を追いかけていく。
そこは少女が思い描く異世界の街であった。
RPGゲームなどによく出てくる中世ヨーロッパの雰囲気を醸し出すその国についた三人を、街の人々は歓迎した。

「ようこそ、自由の国へ!」
「自由の国?」

アリスが街の住人へ聞き返すとこう答えた。

「ここでは何もかもが自由!一日寝て過ごすも良し、勉強するも良し!
 働かなくても良し!君の好きなように暮らすと良い!!」

「ふーん、アリスは自由が欲しいんだ?
 まあ、この国は大抵みんな思い浮かぶもんなんだな。
 ここに来るのは何度目になるんだか・・・。」

白ウサギは嫌気が差すと言わんばかりの顔でため息を落とした。

「みんな?」
「白君、昔話はそれくらいに。
 さあ、アリスせっかくだから街を見て回りましょう。
 この国が君の理想の国なのかを決めなくてはいけません。」

チシャ猫はアリスの疑問を遮るとアリスの手を取り街の中へと歩いていく。


「一応、普通の街なんだね。学校もあるし、畑とかもある。」
「自由の国ですから、何をするのも自由なのでしょう。」

街の中では皆が笑顔で暮らしている。
木陰で本を読む者や遊びまわる子ども達、昼寝をしている人も居る。

「確かに入口で言われた通りみたい。
 みんな好きなことを自由にして過ごしてる。
 でもそしたら、みんなどうやって生きていくの?」

“グゥゥ”

小さなお腹の動く音にアリスは顔を赤らめ、お腹を押さえる。

「そういえば、だいぶお昼時を過ぎてしまいましたね。
 アリスは今何が食べたいですか?」

音に気付かぬふりをし、チシャ猫はアリスに聞き返した。

「えーっと、サンドイッチ、とか?」

アリスがそう答えると、アリスの目の前にバスケットに入ったサンドイッチが現れた。
ゆっくりと地面へと落ちていきそうになるそれを、アリスは急いで掴み上げた。
驚いた顔をしているアリスに、せっかくなので外で食べましょうとチシャ猫は言うと、
いつの間にか自分用にもサンドイッチを出し、大きな木の下へ座る。
白ウサギもそれにならい、木陰に座るとサンドイッチを食べだした。
三人でサンドイッチを食べながらチシャ猫は話し出す。

「この国では魔法が解決してくれます。
 なので衣、食、住の心配をする必要はありません。
 どうですか、アリス、この国は貴女の理想の国ですか?」
「うーん、そうね。
 一日中好きに過ごせて、生活の心配もないのは良いかも。
 ご飯も美味しいし。
 でも、まだわからないや。
 さっき来たばかりだしね。」

最後の一口を頬張りアリスが答える。

「そうですか、わかりました。それではこの後は何をしましょう?」
「お天気もいいし、少しこのままお昼寝がしたいかな。
 なんだかんだいろんなことがあって疲れてしまったし。」

アリスは欠伸をしながらそう言うと空へ向かってグッと伸びをした後身体を横たえた。
チシャ猫は小さな毛布を出すとそっとアリスの上に掛けてくれた。

「おやすみなさい、アリス。」


 疲れていたのか、すぐ眠りについたアリスを見て白ウサギはチシャ猫に話しかける。

「ねえ、チシャ。今回もいつもの感じ?」
「まあ、そうにしかならないでしょうね。」

チシャ猫の答えに白ウサギは深いため息を吐いた。

「前回みたいに、白君は先にドアに戻っていても構いませんよ。
 案内は私が引き受けますので。」
「チシャには悪いけど、そうさせて貰おうかな。無理はするなよ。」

そう言い残すと白ウサギは街の外へと歩いて行った。


 「アリス、アリス、起きてください。」

チシャ猫に身体を揺すられ目を覚ますとアリスは眠気眼をこすった。
どれくらい眠っていたのか、辺りはすっかり日が落ち、
ポツポツと並ぶ街灯が薄暗く街中を照らしていた。
昼間のにぎやかさは何処へ行ったのか。
そこにはアリスとチシャ猫以外の姿は無くなっていた。

“ガシャーン”

静まり返った街中に大きな音が響き渡った後、同じ方向から悲鳴が上がる。

「アリス、走りますよ。」

チシャ猫はアリスの手を取ると街の外へと繋がる道を走った。

「ちょっ、ちょっと待って!何が、、、何がどうなってるの!?」

寝起きで意味も分からず走らされたアリスは、
息を切らしながら立ち止まるとチシャ猫に問いかけた。
チシャ猫はアリスの問いには答えずにまっすぐに前を見つめる。
チシャ猫が見つめた先には昼間アリス達を歓迎してくれた街人の男が一人立っていた。
薄暗い街灯の下でよく見えないが、
その立ち姿は昼間彼女達を歓迎してくれた人物と同じとは思えなかった。
異質な雰囲気を放つその男はニヤリと口角を上げると奇声を発しながらこちらに向かって走りだした。

「ようこそ、自由の国へ!!」

街灯は男が持っているナイフをギラリと光らせた。
男はアリスの方へと狙いを定めナイフを振るった。
チシャ猫がアリスの腕を自分の方へと引っ張った結果、ナイフは宙を切った。
そのままアリスを抱きかかえチシャ猫は走り出した。
背後では男が後を追ってくるがチシャ猫の足の速さに追いつけないとあきらめたのか、
暫くすると足音は消え去り、遠くから小さな悲鳴が響いた。

腕の中で震えるアリスをよそ目にチシャ猫は何事もなかったかのように平静な顔で走り続け、
街の外へと出ると丘を駆け上がる。

「ここまでくれば大丈夫ですね。」

チシャ猫はそう言うとアリスを下ろした。
アリスはまだ震えていた。
立っているのがやっとなアリスに変わらぬ顔でチシャ猫は言った。

「自由の国ですから、まあ仕方ありませんね。」

顔色一つ変えずにそういうチシャ猫にアリスは恐怖を覚えた。
そんなアリスを気にも留めずチシャ猫は話し続ける。
「殺すも自由、盗むも自由、騙す、奪う、なんでも自由。
 アリス、君の望んだ世界はこの国でしたか?」

アリスはまだ恐怖から声を出すことが出来ず、首を横に振った。

「そうですよね、では次の国へ行きましょう。
 あんまり長居するのもよくなさそうですし、
 白君も先に行って待ってくれていますので。」

そう言って歩き出すチシャ猫にアリスは震える声で問いかける。

「あ、、、あの、こんなこと続けなくちゃいけないんですか・・・?」

チシャ猫は立ち止まり、しかし振り向かずに答える。

「・・・ええ、貴女の理想の国が見つかるまで。
 国の外なのでああいう輩は居ません、
 私は先に行っていますのでゆっくり来てください。」

そう言うとチシャ猫はアリスを置いて一人で歩きだした。

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