廻りの国のアリス

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~第一話~ 廻りの国へようこそ

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 少年の言葉に少女は顔を上げ、辺りを見渡した。
少女は森の中に居た。
鬱蒼とした森の中にポツンとドアが残り、彼女はそのドアを開き、跨いだ格好で立っていた。

「遠くから見た時はわからなかったけど、結構可愛いね、これはチシャが喜びそうだ。
 さてと、じゃあ来て早速で悪いんだけどチシャの所に行くから着いて・・・」
「ちょ、ちょっと待って!?」

矢継ぎ早に話す少年の会話を遮り、少女は待ったをかける。
そんな少女を顧みず少年は話し続けた。
「あー、まあそうだよねー、よくわかんない状況だよね。
 でも大丈夫、みんな初めはそうだから。
 とりあえず、アリスはチシャの所に連れて行かないと行けないんだ。
 君に拒否権は無いよ。
 僕もお役目を果たさないといけないからね。
 説明はチシャの方が得意だからとりあえず付いて来てくれる?」
少年はそう言うと一人で森の中を歩いて行ってしまう。
少女はドアに手を掛けたまま動けず、足音の聞こえない様子に少年は立ち止まり、やや不機嫌に振り返った。

「あのさ、今、僕言ったよね?
 詳しい説明はチシャからするから着いて来てって。
 君に拒否権はないんだって。
 ちゃんと早速で悪いけどって枕詞までつけて説明したはずなんだけど?」

そう言う少年に少女はやっとの思いで言い返した。

「説明!説明が足りてません!私としては、ここはどこ、
 貴方は誰?私は誰?状態なんです、、、けど・・・。」

初めは勢いよく話し始めた少女だったが段々と語尾が弱くなっていく。
先ほどから少年が彼女を呼ぶ〝アリス〟という名に少女はずっと違和感を感じていたのだ。

「私、・・・アリスって名前、、、でしたっけ・・・?」

少女は泣き出しそうな声でそう呟くと下を向きうなだれた。
少年はため息を一つ吐き、少女の方へ近寄った。

「ごめん、悪かったよ。ちゃんと説明するからまずは僕を信じて付いて来て。」

そう言うと少年は少女の手を取り森の中へと歩き出した。


 しばらく歩くと、その先には一軒のログハウスが立っていた。
少年はノックもせずにドアを開け、少女を招き入れた。
ログハウスは外観から予測するよりも中が広く、ダイニングテーブルや暖炉が目についた。

「チシャー、ただいまー、アリス連れてきたよー。」

その声に部屋の奥から一人の青年が姿を現した。
チシャと呼ばれた青年はログハウスに似つかわしくないスーツを身にまとい、
紫色の髪からは猫の耳がぴんと立っていた。

「お帰りなさい、白君。アリス、初めまして。」

そう挨拶をすると執事のように手を胸に当て小さく頭を下げた。

「白君、アリスの事をそんなにいじめないで下さい。
 もう少し説明をしてあげてから連れてきてくれれば良かったのに・・・。」

不安げな少女の表情を読んだのか、青年は少年に注意をすると少女にここに座るようにと椅子を引いた。

「少し長い話になると思いますので、お茶でも飲んで話しましょう。」

ダイニングテーブルには紅茶やクッキー、ビスケットなどお茶会の準備がされていた。

「大丈夫、体が小さくなったり、大きくなったりはしませんよ。」

青年はそう少女に告げ、紅茶を一口飲むと彼女へ微笑んだ。
少女は促されるままにティーカップを手にすると紅茶を口にした。
(美味しい!!)
少女は美味しい紅茶に心を癒されたのか、先ほどより緊張を解きクッキーを食べだした。
彼女の様子に満足した青年は、一通り少女がお菓子を食べ終えた頃合いで話し始めた。

「さて、何から聞きたいですか?」
「えっと、、、ここはどこですか?貴方は誰?あっちの男の子の事も。 
 あ、あと変な質問って思われるかもしれないんですけど私は誰ですか・・・?」

青年はティーカップを置くと一つずつ説明を始めた。

「ここは便宜上、廻りの国と言われています。
 君がイメージしやすい説明をするならば異世界、でしょうか。
 私は知者チシャで、猫です。
 どちらで呼んで頂いても良いですしチシャ猫と呼んで頂いても構いません。
 そっちの彼は白ウサギ。
 私は呼びやすいように白君と呼んでいます。
 そして君はアリス。
 この世界でアリスとは白ウサギを追いかけて迷い込んだ女の子を指します。」

青年は少女がわかりやすいようにゆっくりと話す。

「君が思う所の、名前というものはこの世界にはありません。
 必要とされていないので。
 また別の国へ行けば事情が変わるのでしょうが、この国ではありません。
 ちなみに私と彼がウサギと猫なのはこの国を造った神様の趣味だそうです。
 君がアリスと呼ばれるのもその影響です。
 君の趣向にも合っているようなので、そのまま流して受け入れてください。」

優しい口調で話す青年ではあるが、少女に否を唱えさせぬ雰囲気を醸し出しながら話す。
その圧力に少女は思考することをやめた。
元居た彼女の世界にはアニメや漫画でこの手のお話はよくあるもので、少女自身それらの話は好きな部類である。
少女は悩むのをやめ、青年に問うた。

「私は、どうすればいいの?」
「話が早くて助かります。
 これからアリスには私たちと一緒に色々な国へ旅に出てもらいます。
 私たちも同行するのでそんなに心配をする必要はありません。
 そして自分の生きる理想の国を決めるのです。
 っと言うことで、これから旅に出る仲間です、改めて自己紹介をしましょうか。」

青年はそういうと白ウサギの方へ視線を移す。

「・・・まあ、さっきは悪かったよ・・・。チシャは白って呼ぶけど、
 白でもウサギでも白ウサギでもなんでもいいよ。改めて宜しく。」

少年は少しバツの悪そうに俯きながら少女の方へ手を伸ばす。

「じゃあ、私も白君って呼ばせてもらうね。宜しく。」

少女は白ウサギと握手を交わした。
青年は少年と少女の姿に微笑むとログハウスの奥のドアへと少女を誘う。

「さて、それでは一つ目の国へ行きましょう。
 アリス、そのドアを開けてください。」

言われるままに少女はドアに手を掛ける。
少女がドアを開いた瞬間、まばゆい光と強い風が三人を包み込んだ。
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