この想いは届かない

神崎 ルナ

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「貴方の選択肢は二つ。聖水を噛まれた痕にかけ人に戻れるか試すか後は……」


そこで何かに気付いたように上着を肌蹴られた。


「何を」


「これは……そういえばまだでしたね」

意味が分からない、という顔をしていたんだろう。

「吸血鬼の噛み痕は独特なんですよ。治まるには噛んだ吸血鬼が手を加えないと傷口が塞がらないんです」


普通は軽く嘗めたりするだけでいいんですけどね。


確かにじくじくと痛みを持つそこはまだ治りきっていなかった。


(いつもは……ああ)

閨事で何度か嘗められていたな、と思い返し体が熱くなる。


「これだと聖水を掛けるとかなり痛みを伴いますね」


「勝手に話を進めないでくれ。俺はそんなことをするつもりはない」

紫の瞳が見開かれた。

「正気ですか? 折角人に戻れるというのに。それともまさか」


「俺は自分でここへ来たんだ」


空気が変わった。


「そうですか」

肌蹴られた上着が破られた。


「何、」


「自覚がないんですか。貴方は今吸血鬼にくみすると言ったんですよ。ああ、それともう一つの方法ですが」


まだ熱が渦巻く体に手が伸ばされた。

「魔力を抜くには退魔師に抱かれるのもいいそうなんですよ」


(はあああっ!!)



「やめ、」


抵抗するも元々『飢え』が溜まりきっていた体だ。


大したこともできずに押さえられてしまう。


「男だぞ」

分かっているのか、と聞くと、


「気付いてないんですか? 貴方、今物凄い色香ですけど」


(は?)


「確かに容姿は平凡に見えますけど、あいつの魔力を受けているのと」

手が一番触れられたくない箇所へ触れた。


とたん、身体が弓なりになり声が上がる。


(なっ、)


「男性は興味がなかったんですが、今の貴方なら余裕ですね」


(いや、だ)


その間にも体をまさぐられ、予期しない反応を示してしまう。


「凄いな。もし人に戻れたら側におきたい位ですよ」


(我が君……)


思うままにならない体を呪う脳裏に我が主との会話が蘇った。


『そろそろ名を呼んでもよいのだぞ』


確かに我が主は名を教えてくれた。

一度目と二度目。

今主が言っているのは二度目に会った時のことで。


言ってしまったら初めて会った時のことがなかったことになってしまう。


そんな意地が勝り、俺は今日まで名を呼ぶことができなかった。


(だけど)


もっと早く言っておけばよかったかもしれない。


固い地面に押し倒され、一瞬頭が冷えたその時俺の口から言葉が漏れた。




「……ノイシュ」



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