婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ

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第二十四話 オデロン・クスコ辺境伯 side (前)

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 取っていた部屋へ戻ると側近のサミュエルが呆れたように声を掛けてきた。

「だらしない顔になってますよ。辺境の凶虎が」

「誰が凶虎だ。だいたい誰がそんな詰まらないあだ名を付けたのか時間を取って問い質したい位なんだが」

 辺境は国境に面していることもあり、隣国の間諜や森の魔獣に常に警戒していなければやられる。

 ほとんどその認識でいたせいか、身近な者には二重人格だの、辺境の凶虎だの、よく分からないあだ名を付けられてしまっている。

 まだ彼女の耳には入っていないようだが、非常に不愉快なんだが。

「ちょ、いきなりその殺気はやめて。侍従たちが怖がってるだろ」

「それをお前が言うのか? ずっと側にいたくせに」

 控えている侍従たちも子供の頃からの付き合いだ。

 今さらこれ位で脅えるなんてことはないだろう。

「そんなことよりサミュエル、お前氷魔法が得意だっただろう。少し出してくれ」

「突然だな」

 そう言いつつサミュエルの氷魔法で作られた氷を布でくるみ、彼女の部屋へ持って行くように侍従に言いつける。

 侍従が退室するとサミュエルがいぶかし気に茶色い眉を上げた。

「誰か具合でも……愚問だったな」

 俺が動くのはほとんどロクサーヌのためでしかない。

 それを知っているサミュエルははあ、とため息をついた。

「本当に落差が凄いな。王女殿下の前だとあんなに猫被るんだな」

「喧嘩なら買うが」

「こええ。遠慮するよ。それで王女殿下の具合はどうなんだ? 今日は移動は中止か?」

「いや。ご本人が旅程は変えないと仰っているから、このまま行く」

 そう答えるとサミュエルがうーん、と唸った。

「何かあったのか?」

「いやそれがさ。ちょっと困ったこと、っていうか有り得ないっていうか」

 言葉を濁すサミュエルを促して話を聞くと俺も唸りたくなった。

 アレが脱走中で、もしかしたらこちらへ向かっているかもしれないなどという馬鹿げた報告は要らなかったんだが。

「確かに有り得ないな」

 そう答えつつ、別の可能性も考えてみる。

 誰か手引きでもしたのか?

 アレは自分で策を巡らせるほどの頭も伝手もなかったはずだが。

 逆に言えば駒として躍らせるのであればアレほど適したものはない。

 となるとこの件で得をする者は――

「それでどうする? ちゃちゃっとやっちまう?」

 ロクサーヌの人気は高い。

 どこでも末の子、というのは可愛いものらしいがロクサーヌの場合は別格と言ってもいい位だった。

 天真爛漫さと優雅さとを感じさせる笑み。

 公の場では凛とした姿を見せるのに、王子である兄等身内だけに見せる表情はこちらの庇護欲を掻き立てるのには充分で。

 ロクサーヌの信奉者は多いが、サミュエルもそうだったらしい。

「そうだな。だがこちらの判断でやると後がうるさいからそれは最終手段にしておくぞ」

 特にロクサーヌの両親とか兄とか姉とか――

「いっそのこと家族って言った方が早くないか?」

 サミュエルが呆れたように問い掛けてきた。

「口から出ていたか」

 大きく頷くサミュエルに渋面を作っていると氷を届けさせた侍従が戻って来た。

「お話し中失礼致します。ただいま戻りました」

 侍従は中には入らず応対に出た侍女に渡したため、ロクサーヌの様子までは見られなかったらしい。

「そうか。では旅程はそのままで行くが互いの連絡は密にしろ。それからライアンに鳩を飛ばせ」

 この魔法が発達した現代、他にも連絡方法はあるが、辺境に近いこの地では鳩の方が確実だろう。

 ライアンは辺境警備隊の中でもある能力に突出していた。

 気配を隠すのが上手いのだ。

 それは味方であるはずの私達も欺くほどだった。

 加えて護身もできるし、引き際もよく弁えている。

 まさにこういった探り事には非常に向いている。

「分かりました。アレの動向を探らせればいいんでしょう。後は黒幕の有無ですかね?」

 どこか諦めたような態度は何なんだ?

「分かっているようだな」

 思わず唇の端を上げるとうわ、と後退りされた。

「こわっ、今すっごい黒いもの出てますよ!! 俺こっち側でよかった!!」

 そこまで反応されると面白くない。

「行ってみるか? 向こう側とやらに」

「全力で辞退させていただきます!!」

 それじゃ鳩の準備して来ますので、と脱兎のごとく退室されたんだが。
 
 全くそこまで私は鬼畜ではないぞ。

 と思って侍従に目を向けるとそっと逸らされた。

 何故だ。






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