婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ

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第二十六話 オデロン・クスコ辺境伯 side (後)

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「どうしてお前がロクサーヌを知ってるんだ!?」

 第二王子であるマクシム殿下は第一王子であるフレデリク殿下とは違い、その気さくな人柄で親しまれているのだが――

 第三王女殿下との出会いから二日後、まだ所用が残っていた父について王宮へ上がったところ、廊下でこちらを見るなり、いきなり手近な部屋へ押し込まれてのこの怒号である。

 初対面でいきなりこれとは、この国の王族は大丈夫だろうか。

 何と答えたらいいものか、と思っているとぐい、と第二王子の腕が引かれて一人の少年が私の前へ出た。

「失礼いたしました。クスコ辺境伯令息。私はラグーンと申します。お父上であるクスコ辺境伯にはしばらくあなた様をお借りする旨、お伝えしておきましたのでご了承ください」

 その折り目正しい態度にああ、苦労しているのだな、と思ったのは黙っておこう。

「了承いたしました」

 そう答えて一礼を返すと第二王子殿下がどこか後ろめたい表情をしていた。

 いやその自覚があるならここへ引き込まなければよかったのでは。

「王家の方々は第三王女殿下のことになるとタガが外れる傾向にありますので」

 淡々とした言葉にああ、なるほど、と思っていると第二王子殿下が反論した。

「おい。仮にも王族にその態度はないだろう!? ラグーン。お前も少しは側近としての自覚を持て」

「そのお言葉、そっくりそのままお返しさせていただきます。それとこのことは第一王子殿下にもご報告させていただきますので」

「待て」

 なんだこの三文芝居は。

 あまりの展開に呆気に取られているとラグーンが申し訳なさそうにこちらを見た。

「すみません。マクシム殿下は悪い方ではないのですが、第三王女殿下のことになると本当に周囲が見えなくなると言いますか」

 何だか側近殿が気の毒に思えて来た。

「いえ、構いませんよ」

 そう返すと第二王子殿下が不貞腐れたようだった。

「何か、俺抜きで会話が続いているな」

 それに対し、側近殿がしれっと答える。

「いえ、とんでもありません。このグランマイン王国が第二王子殿下であられるマクシム殿下を蔑ろにするなど、もっての他にございますから」

 全然そう思ってないのが丸わかりなのだが、いいのだろうか。

 だが第二王子殿下はそこまで気付いてはいないようだった。

「そうか。それならいい」

 単純すぎでは。第二王子殿下。

 そんなことを思っているなどおくびにもださずに神妙な表情を保っていると、マクシム殿下が、

「そんな訳でクスコ辺境伯令息には以降、ロクサーヌには近づかないで欲しい」

 は?

 いやどこに『そんな訳』の『訳』があったのか。

 この流れだと第三王女殿下に対する慈愛が相当するが仮にも王族がそんなのでいいのだろうか。

 見かねたように側近殿が口を挟んだ。

「それでは話をはしょりすぎですよ。あー、クスコ辺境伯令息、つまりですね。第三王女殿下におられましては今度婚約者との顔合わせが控えておりまして、おかしな誤解や周囲の勘繰りを招かないよう、これ以降の邂逅は控えて頂けると助かります」

 成程。やはりあの会話は聞かれていたのだな。

 たとえどんなことがあっても王族、しかもこのグランマイン王国の宝玉と讃えられる第三王女殿下。彼女の行動は王家の影によって委細漏らさず報告されていたのだろう。

 しかし婚約者、か。

 それはそうだろう。

 王族なのだから。

 心のどこかで一度会っただけなのにもう寂しくなるな、と思っている自分が居た。

 私にもこんな感情があったとは。

 だがここで否を唱えるのは家臣がするべきことではなかった。

 なのでゆっくりと頷いた。

「かしこまりました。ですが第三王女殿下にまた会うような発言をしてしまいましたので、その辺りのご配慮をお願い致したく存じます」

「……善処する」

 あ、これ全然しないやつだな。

 まあそれにしても婚約者ができるのであれば私の存在は不要だな。

 そう思ったので第二王子殿下の発言には突っ込まないでおいた。

 だがその返答に少しだけむっとしたので、不敬になるかもしれないが思い切って私は口を開いた。

「それではこれにて失礼させていただきます」

「あ、おい」

 後ろで何か聞こえたような気がしたが、側近殿の注意する声は第二王子殿下の方へ向かっていたのでこれでいいのだろう。



 その後第三王女殿下に直接会うことはなかった。

 年の差もあるが、たった一度会っただけの相手に恋情を抱くことなどないと思っていた。

 それからしばらく公の場で顔を合わせることもなかったため、次第に記憶も薄れていくと思われた頃、父が身罷った。

 




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