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番外編 グイン・ルクタス (後)
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「どうして素直にお話しにならなかったんです?」
ロベルトの台詞が頭に刺さる。
「ただの義務じゃなく、一目惚れした、って言えばあのご令嬢のご返答もきっと違っていたと思いますよ」
そう言われても無理だと思う。
「そこまで言わなくても大丈夫だと思ったんだ」
本当の気持ちは隠して当たり障りのない回答をしておく。
「全く。これまでがこれまででしたからねぇ。グイン様から誘う、なんてことはほとんどなかったですし」
加えて既に人生の伴侶は決められていたのだ。
当然、相手も同じだと思っていた。
(いや、違うか)
このセンブルク国に来るということは、婚約者から拒絶されたということ。
(間が悪かったか)
傷心の時に言われてもすぐには受け入れられないだろう。
そう言うとロベルトが酸っぱいものを飲み込んだような顔になった。
「何だ?」
「いや、その、そう思ってらっしゃるならいいんですけどね」
煮え切らない態度に突っ込んで聞いてやろうとしたが、そこで休憩時間は終わったので、グインは再び政務に戻った。
だから、少し時間を置けば大丈夫だと思っていた。
なのに、
「申し訳ございません。ここまでしかできませんでした」
目の前にいるのは地竜。
さすがに本体は出て来られないので幻影だが。
婚姻の申し込みを断ったのに何故このセンブルク国まで来たのかと思えば、こういうことか。
幻影でもそれなりに迫力のある地竜相手に臆することなく、交渉したロザンナに感嘆しているうちに話が進み、何故かロザンナと俺の婚姻話が解消されようとしていた。
硬直する俺の前で、
『ふむ。まあ、この子がこの国で穏やかに過ごせれば別に加護の一つや二つ、くれてやってもよい、と言ったのだがな』
国王がそれを止めた。
ロザンナは女性である。
勘違いをした輩から狙われても厄介だ、と。
だから、白い結婚であればよい、と。
もちろん、地竜の加護はつく。
申し訳なさそうにするこげ茶の瞳に、俺は叫びたくなるのを必死に堪えていた。
(そうじゃないっ! そうじゃないんだっ!)
すると何故か地竜の方からも申し訳なさそうな視線を感じたような気がした。
『まあ、詳しいことは当人同士が話し合えばいいことだろう』
そこでお開きとなったが、ロザンナが申し訳なさそうにしているのが気になった。
「くっ、あはははっ! 腹が痛っ! ちょっ、殴るのは止めて下さいよっ!」
何故か大笑いしてるロベルトの腹を殴っておく。
「何がおかしい」
「ひっ、威圧は止めて下さいっ! それ洒落にならないですからっ!」
幾分か留飲を下げ、手元の書類に目を落とす。
――ねえ、白い結婚ってなんだっけ?
これまでの経緯を見守っていた精霊がロベルトの肩に止まり聞いていた。
ロベルトはこちらを気遣うように見てから小声で答える。
「それはね。閨を……うーん、要するに子供を作らない婚姻、って言えばいいのかな」
ロベルトがそう答えたとたん、更に数羽の精霊達が現れ盛大に抗議し始めた。
――それイヤーッ!
――あの子の子供見たいーっ!
――何で何でっ!?
「ちょっ、うるさっ、少し静かにしてくれないかなっ!? っていうか、こんなに拗れたの、グイン様にも責任の一端はありますよねっ!」
「人に振るな」
――ひどいグインッ!
――あの子の子供見たかったのにっ!
――何で? あの子のこと嫌いなの?
(そんな訳ないだろう)
ロザンナはとても魅力的だ。
黙り込んだ俺にどう思ったのか、
「まあ、とにかく素直に言って下さい」
「ロベルト」
「何でしょうか?」
俺はロベルトの方へ向き直った。
「聞きたいことがある」
「素敵な温室ですね」
俺はロザンナを誘い、温室へ来ていた。
今、ロザンナは王宮の客人扱いとなっている。
正式なお披露目はまだだが、ほとんどの者は事情を知っているとみていい。
ここへ来るまでの皆の視線を思い出していると、
「大丈夫ですか?」
気遣われてしまった。
「いえ、何でもありませんよ」
自分では改心の出来の笑みを浮かべ、ロザンナを案内する。
ここは王宮の中でも奥まったところにあるため、私的な話をするにはちょうどよいところだった。
ロベルトを尋も……問い詰めて聞き出したのは、女性の口説き方。
ロベルトにはマリエ嬢という婚約者がいるが、貴族としては珍しく恋愛からの始まりだった。
『いや、どうやってって、普通に告白、って必死ですねっ!』
『それ以上焦らしたら……』
『すみませんでしたっ!』
穏便(?)に聞き出したところ、やはり女性には演出が必要であるとのことだった。
『甘い雰囲気作りは大事ですね。こちらが本気だと分からせるにはそれなりの準備もあった方がいいですし』
その言に乗り、この辺りには庭師すら出入りできないよう手を回し、ロザンナと二人きりになることに成功した。
ちなみに精霊達は、ロベルトに任せてきた。
かなり抵抗されたが、好物の蜂蜜と好きなだけロベルトが相手をする、という条件でなんとか了承してもらった。
「この温室は先々代の王妃の希望で作られたんです」
当たり障りのない会話を交わしながらゆったりと歩く。
言う台詞は考えてきた。
(譬え白い結婚だとしても俺は貴女が好きです。できれば貴女を愛したいので、改めて婚姻を結んで貰えないだろうか)
「グイン様?」
「いや、その……」
(何故言葉が出て来ないっ!!)
言うべき台詞は決まっているのに、唇が言葉を紡がない。
こんなことは初めてだった。
純真な焦げ茶の瞳がこちらを見つめていた。
「貴女は、今の状況に満足できているのかと思って」
(言いたいのはこんな台詞じゃないっ!!)
胸中は暴風雨の俺に全く気付かない様子でロザンナが頷いた。
「ええ。こちらでは皆さん、とてもよくして下さって。満足しております」
にっこりと笑みを浮かべる様は、以前古典で習わされた手弱女そのもののようだった。
(可愛らしいのにどこかしなやかさもある。やはり白い結婚だけでは無理だ)
感情が高ぶった俺が口を開きかけたとき、ロザンナが機先を制した。
「グイン様は今の状況に満足されていますか?」
(……は? 今の、状況? 満足なんてできるはずもない。こんなに貴女と距離がある)
だが、今それを言うのは悪手のような気がした。
「満足しています」
本当は少しも満足していないため、平坦な口調になってしまった。
それをどう捉えたのか、
「そうですか」
ロザンナは視線を逸らし、その後は温室の話で会話が終わってしまった。
「何をどうされたらそうなるんですか」
精霊達にぐちゃぐちゃにされたロベルトが呆れたように言ったが、さすがに反論できなかった。
「言うな」
――ねぇねぇ、あの子は?
――ここで一緒に遊びたいーっ!
――それより、コクハクしたの?
無邪気に飛び回る精霊達に急かされるように言われ、俺は小さく首を振った。
――ええー、何でーっ!
――グイン、情けない!
――……ヘタレ?
「待て。何故そんな言葉を知っている?」
「あ、あーっ! もうこんな時間ですねっ! 休憩にしましょうっ! 今日のお菓子はグイン様が好きな堅果入りの焼菓子ですよっ!」
とんでもない素早さで扉へ突進していく犯人を見ながら俺は静かに命じた。
「レイ」
――りょーかい。
精霊としてはやや低めの声がした後、一陣の風が吹き、長身のロベルトの動きを封じる。
「ちょっ、王宮内での精霊の使役はご法度でしょうっ!」
「俺はただ名を呼んだだけだ」
言外に何もしていない、と告げる。
「それ何ていうかご存じですよねっ!? 詭弁、って言うんですよっ!!」
「勉強になるな。俺はいい側近に恵まれたようだ」
「棒読みで言われても嬉しくないですっ!!」
ぎゃあぎゃあ喚く側近を手元に引き寄せてもらい、俺は幾分座った目を向けた。
「さて、作戦会議というか」
「殿方にも困ったものですね」
呆れたようにこちらを見るのは、マリエ・サンドループ侯爵令嬢。
ロベルトの婚約者である。
ここ最近、婚約者であるロベルトの様子がおかしいので問い詰めると俺の件をあっさりと自供したらしい。
ちなみにあの後実行した作戦はことごとく失敗に終わり、俺は告白の『こ』すら言えなかった。
ロベルトに視線を向けると目で謝られた。
(それでいいのか、側近)
「ロベルト様を責めないで下さい。私が勝手に聞き出したのですから」
サンドループ侯爵令嬢は、ロベルトとは幼馴染だという。
親同士もよく知っていて、ごく自然な流れで婚約の運びとなったらしい。
(その上、互いに想い合っている、などまさに順風満帆じゃないか)
多少恨めしくなっていると、ふいにサンドループ侯爵令嬢が笑みを浮かべた。
「申し訳ありませんが、私達は最初から恋人同士だったわけではございませんよ」
「すまない。分かったか」
(王族たるもの、そうそう表情を読まれる訳にはいかないのだが)
そんなことを思っていると横やりが入った。
「今のグイン様は限定した分野に関しては非常にわかりやすいですからね」
「……ロベルト。後でじっくり話し合おうか」
「あ、っと。ちょっと先の予定がぎっしりなんで、それはご無理かと思います」
攻防を広げていた俺達はサンドループ侯爵令嬢の笑い声に我に返った。
「見苦しいものを見せたな」
「いえ、大丈夫です。ロベルト様はとてもよい環境に恵まれているようで安心しております」
「……よい環境、って」
撃沈しているロベルトをよそにサンドループ侯爵令嬢が口火を切った。
「それで、ロザンナ様のことですね」
その柔らかな口調を聞いて、おや、と思った。
「もしかしてサンドループ侯爵令嬢はロザンナとは……」
「ええ、何度かお会いしてお話もさせていただいたことがあります」
いつの間に、と思ったがロザンナに友人ができたのはいいことだ。
ですので、とサンドループ侯爵令嬢が続けた。
「ちょうどよく今度ベリッジ侯爵家主催のお茶会が催されます。人数は限られていますので、そこで折りを見てロザンナ様の御気持ちを聞いてみますわ」
ですが、と扇子がパチリ、と閉じられた。
「もし、ロザンナ様のお気持ちがグイン様になかった場合は、この件に関しましては一切ご協力はできませんので、そのことご了承下さいませ」
(女性とは案外怖いものだな)
あれから二週間後、俺は遠い目で外を見ていた。
確かに俺がよくてもロザンナが拒否したら何の意味もない。
この婚姻には物心ついた頃からずっと言われてきたこともあり、すっかり失念していた。
(待てよ)
もしかして俺はロザンナに嫌われているのか?
そう思えばこれまでいい雰囲気になったところで逸らされたりしたのも納得がいく。
本当は乗り気ではなかったのに、いやいやながら付き合ってくれていたのか。
(俺はロザンナに何てことを)
「百面相しているところ申し訳ないんですが、マリエから手紙を預かってきたんですが」
「それを早く言え」
手紙を開封するようにいうと、ロベルトが何とも言えない顔になった。
「何だかまるでマリエのことが好きみたいに聞こえますね」
「……体が鈍っているようだな。午後の訓練場の視察、お前も実技に交ざるか?」
「すみませんでしたっ! 手紙ですねっ! 只今っ!」
慌てて開封して目を通したロベルトが戸惑ったように俺を見た。
「どうした?」
「それが――」
そっと差し出された便箋に目を通した俺は思わず声を上げた。
「……は?」
サンドループ侯爵令嬢の手紙にはロザンナが慈善事業に興味があるようだから、王族主催のものに参加させてはどうか、とあったのだ。
ロザンナが俺をどう思っているかについては一言も書かれていない。
(これは……試されているのか?)
そう言えばロザンナは王妃教育を受けていたのだ。
こういったことに関心があっても何の不思議もなかった。
「どういうことでしょうね。もう一度マリエに聞いて――」
俺はそういったロベルトを手を軽く振ってで止めた。
「いや。サンドループ侯爵令嬢にも何か考えがあるんだろう。前向きに考えると返答しておいてくれ」
「分かりました」
(……一番近いものだと、ベルモント侯爵夫人主催の懇親会があったが、あれは寄付金を募るものだから今のロザンナの立場では出席し難いものがあるな)
ロベルトにそう言うと、
「それでは、孤児院の慰問にされてはどうですか? 短時間のものにすれば調整できます」
「そうだな。それにするか」
結果として慰問は成功に終わった。
ロザンナが俺の婚約者だというのは分かるのか、子供たちに『お姉ちゃんが王子様のお嫁さんなの?』と素直な質問をしてくれ、『ええ、そうよ。正式な発表はまだ先だから内緒ね』とロザンナが当たり前のように答えてくれた。
(そこが今回の最重要点だな)
いやいやそこで満足してはいられない。
今俺はロザンナとふたり、帰りの馬車に乗っていた。
これは告白の機会ではないか。
「ロザンナ」
「はい」
「今日はありがとう。皆、君の姿を見て喜んでいたようだ」
(よし、ここからだ)
するとロザンナが真摯な瞳で俺を見た。
「滅相もございません。グイン様のお陰ですわ。……グイン様」
「ロザンナ?」
「この間は本当にすみませんでした。グイン様はお役目を果たそうとされていたのに、私が勝手に地竜と交渉してしまって、本当に申し訳ございませんでした」
(いや、そこで謝られても困るのだが)
もしかしてこれは逆に機会が巡ってきたのかっ!?
もしやロザンナも白い結婚ではなく、自分のことを――。
そう思ったときだった。
「私と白い結婚することは確定となってしまいましたが、グイン様にどなたか想いを寄せる方がいらっしゃるのであれば、私は特に構いませんので」
どうぞご随意に。
(はああああああっ!?)
「何というか、呆れて言葉も出ませんね」
ロベルトの台詞に何も返せない。
「どうしてそこですぐ否定なさならなかったんです? 俺が本当に好きなのは君だけだ、とか」
「言う暇がなかったんだ」
がっくりと項垂れる俺の上で精霊達が騒ぎ出した。
――またダメだったの?
――ヘタレ?
――ヘタレ、ヘタレ~
(そこ、歌うなっ!!)
「でも本当にどうされるんです? このままだと白い結婚一直線になりますよ?」
「……それは嫌だ」
「どうして?」
「どうして、って決まっている。俺はロザンナを愛している。何なら最初に初めて見た時からずっと惹かれていた。周りの思惑なんて関係ない。俺はロザンナときちんと婚姻を結びたいと思っている」
そこまで一気に言ったところで、周りが妙に静かなことに気が付いた。
顔を上げると、室内にはロベルトどころか精霊達の姿もなかった。
代わりにこれまでずっと話題にしていた人物がいた。
「――ロザンナッ!?」
え、と辺りを見回す俺に幾分済まなそうにロザンナが告げる。
「ロベルト様でしたら、もう退出されました。それと一緒に精霊達も……あの、すみません」
「いや、ロザンナが謝る必要はない」
悪いのはどう考えてもあいつだろう。
さて、どう〆るかと思案していると、
「いえ、そうではなくて。……実は精霊達に姿を隠して貰っていたんです」
「は?」
言っている意味が分からない。
「ですから、お話は全て聞いてます」
申し訳ございませんと謝るロザンナに、思考が追い付かない。
(は? 精霊達がロザンナに協力? それはそうだろう。精霊達はロザンナがお気に入りだからな)
どこから聞かれていたのかは正直どうでもよかった。
(それよりも一番聞かれてはいけないことを聞かれてしまったような……)
「グイン様」
気付けばロザンナの真摯な瞳が目の前だった。
「先日の発言はお忘れになって下さい。私は、いえ、私もグイン様が好きです」
白昼夢でも見ているのか。
そう思った俺の意識は、
「おめでとうございますっ!! グイン様ッ!!」
――よかった!
――結婚、結婚っ!!
――これで子供、見られる?
雪崩れ込んで来たロベルトと精霊達の叫びで浮上した。
(お前達……)
気持ちは分かるがもう少し雰囲気というものを、と思ったところではた、と気付いたことを聞いてみた。
「もしかしてその提案をしたのは……」
「ロベルト様です」
非常に言い難そうにロザンナが答えてくれた。
「やりましたねっ、グイン様ッ!! これで白い結婚じゃなくなりましたよっ!!」
脇から軽く俺の首に腕を回して締めてくるロベルトだったが、こちらにはまだいろいろと話がある。
俺はロベルトの腕を掴んで聞いた。
「ロベルト」
「何ですか、グイン様ッ? 何かお顔が怖いですよっ!?」
「この提案をしたのはお前だと聞いたが?」
「まあ終わりよければ全てよし、って言いますよねっ!」
やけに明るく言う側近に俺は、
「後でゆっくり話をしようか」
そう返してロベルトが居る側とは反対側の足を出し、それを支点として重心を下げ、同じ側の腕を振り下ろす。
手早くやったつもりだったがその護身術は当然ロベルトも知っているので慌てたように体を離された。
(チッ、素早くやればできると思ったのだが)
「ちょっ、何しれっと本気でやろうとしてるんですかっ!?」
「まさか、そんな訳ないだろう」
「その眼はどう見ても本気じゃないですかっ!!」
議論(?)を繰り広げているとくすくす笑う声が聞こえた。
「仲がいいんですね」
「「違いますっ!!」」
またそこでくすり、と笑われたがめちゃくちゃ可愛かったので、発言の内容はなかったことにしておいた。
(何て可愛いんだ。くっ、お披露目が終わったら閉じ込めておきたい)
できれば精霊達にも見せたくはなかった。
そんな不穏な思いを隠して俺はロザンナに微笑んだ。
「それでは早速陛下にご報告に上がろう。ロベルト、使いを」
「かしこまりまして」
確か今日は向こうもそれほど火急の案件はなかったはずだ。
それにこの件に関してはかなり気を揉ませてしまっていた気がする。
ロベルトが飛び出すように出て行くと、俺は精霊達に命じた。
「少し、席を外してくれ。後で礼はする」
――ええー、何で?
――うん、分かった!
――ほら、行くよっ!
精霊達の中にも察しのよいものがいるらしく、ほどなくして執務室の中は俺とロザンナ以外、誰も居なくなった。
「あの」
当惑気味のロザンナに俺はとっておきの笑みを浮かべる。
「ロザンナ。改めて言わせて欲しい。貴女を愛している。この先の人生を共に歩んでほしい」
ロザンナの手を取り、唇を寄せる。
「グイン様っ!」
顔を上げると真っ赤になったロザンナがいた。
「嫌だったか?」
「いえ、そうではなく」
(何だこの可愛い生き物は)
その後、理性が僅差で打ち勝ち、俺達は陛下の元へ挨拶へ行くことができた。
そして、お披露目も結婚式も無事に終わり、数百年越しの神託は無事に役目を終え、地竜の乙女とセンブルク国第2王子は仲睦まじく暮らしたという。
地竜の加護は存分に働き、センブルク国の農作物は豊作が続き、その国名は長く歴史に刻むこととなった。
一方、彼の国は水竜の加護に頼ったものの、あまりにも長い間風の精霊達の力を借りていたため、その自覚が足りず、地竜の乙女が去った後、3代後に水竜の加護まで失ってしまう。
やがて彼の国は竜に嫌われた国、として後世の歴史家に呼ばれることとなる。
( 完 )
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ここまでお読みいただきありがとうございました(*ノωノ) hotランキング9位ありがとうございます(≧▽≦)初の快挙なのでとっても嬉しいですっ!!(≧◇≦) このお話は完結となりますが、またどこかでお会いできると嬉しいですm(__)m (※ 一部修正入りましたm(__)m)
ロベルトの台詞が頭に刺さる。
「ただの義務じゃなく、一目惚れした、って言えばあのご令嬢のご返答もきっと違っていたと思いますよ」
そう言われても無理だと思う。
「そこまで言わなくても大丈夫だと思ったんだ」
本当の気持ちは隠して当たり障りのない回答をしておく。
「全く。これまでがこれまででしたからねぇ。グイン様から誘う、なんてことはほとんどなかったですし」
加えて既に人生の伴侶は決められていたのだ。
当然、相手も同じだと思っていた。
(いや、違うか)
このセンブルク国に来るということは、婚約者から拒絶されたということ。
(間が悪かったか)
傷心の時に言われてもすぐには受け入れられないだろう。
そう言うとロベルトが酸っぱいものを飲み込んだような顔になった。
「何だ?」
「いや、その、そう思ってらっしゃるならいいんですけどね」
煮え切らない態度に突っ込んで聞いてやろうとしたが、そこで休憩時間は終わったので、グインは再び政務に戻った。
だから、少し時間を置けば大丈夫だと思っていた。
なのに、
「申し訳ございません。ここまでしかできませんでした」
目の前にいるのは地竜。
さすがに本体は出て来られないので幻影だが。
婚姻の申し込みを断ったのに何故このセンブルク国まで来たのかと思えば、こういうことか。
幻影でもそれなりに迫力のある地竜相手に臆することなく、交渉したロザンナに感嘆しているうちに話が進み、何故かロザンナと俺の婚姻話が解消されようとしていた。
硬直する俺の前で、
『ふむ。まあ、この子がこの国で穏やかに過ごせれば別に加護の一つや二つ、くれてやってもよい、と言ったのだがな』
国王がそれを止めた。
ロザンナは女性である。
勘違いをした輩から狙われても厄介だ、と。
だから、白い結婚であればよい、と。
もちろん、地竜の加護はつく。
申し訳なさそうにするこげ茶の瞳に、俺は叫びたくなるのを必死に堪えていた。
(そうじゃないっ! そうじゃないんだっ!)
すると何故か地竜の方からも申し訳なさそうな視線を感じたような気がした。
『まあ、詳しいことは当人同士が話し合えばいいことだろう』
そこでお開きとなったが、ロザンナが申し訳なさそうにしているのが気になった。
「くっ、あはははっ! 腹が痛っ! ちょっ、殴るのは止めて下さいよっ!」
何故か大笑いしてるロベルトの腹を殴っておく。
「何がおかしい」
「ひっ、威圧は止めて下さいっ! それ洒落にならないですからっ!」
幾分か留飲を下げ、手元の書類に目を落とす。
――ねえ、白い結婚ってなんだっけ?
これまでの経緯を見守っていた精霊がロベルトの肩に止まり聞いていた。
ロベルトはこちらを気遣うように見てから小声で答える。
「それはね。閨を……うーん、要するに子供を作らない婚姻、って言えばいいのかな」
ロベルトがそう答えたとたん、更に数羽の精霊達が現れ盛大に抗議し始めた。
――それイヤーッ!
――あの子の子供見たいーっ!
――何で何でっ!?
「ちょっ、うるさっ、少し静かにしてくれないかなっ!? っていうか、こんなに拗れたの、グイン様にも責任の一端はありますよねっ!」
「人に振るな」
――ひどいグインッ!
――あの子の子供見たかったのにっ!
――何で? あの子のこと嫌いなの?
(そんな訳ないだろう)
ロザンナはとても魅力的だ。
黙り込んだ俺にどう思ったのか、
「まあ、とにかく素直に言って下さい」
「ロベルト」
「何でしょうか?」
俺はロベルトの方へ向き直った。
「聞きたいことがある」
「素敵な温室ですね」
俺はロザンナを誘い、温室へ来ていた。
今、ロザンナは王宮の客人扱いとなっている。
正式なお披露目はまだだが、ほとんどの者は事情を知っているとみていい。
ここへ来るまでの皆の視線を思い出していると、
「大丈夫ですか?」
気遣われてしまった。
「いえ、何でもありませんよ」
自分では改心の出来の笑みを浮かべ、ロザンナを案内する。
ここは王宮の中でも奥まったところにあるため、私的な話をするにはちょうどよいところだった。
ロベルトを尋も……問い詰めて聞き出したのは、女性の口説き方。
ロベルトにはマリエ嬢という婚約者がいるが、貴族としては珍しく恋愛からの始まりだった。
『いや、どうやってって、普通に告白、って必死ですねっ!』
『それ以上焦らしたら……』
『すみませんでしたっ!』
穏便(?)に聞き出したところ、やはり女性には演出が必要であるとのことだった。
『甘い雰囲気作りは大事ですね。こちらが本気だと分からせるにはそれなりの準備もあった方がいいですし』
その言に乗り、この辺りには庭師すら出入りできないよう手を回し、ロザンナと二人きりになることに成功した。
ちなみに精霊達は、ロベルトに任せてきた。
かなり抵抗されたが、好物の蜂蜜と好きなだけロベルトが相手をする、という条件でなんとか了承してもらった。
「この温室は先々代の王妃の希望で作られたんです」
当たり障りのない会話を交わしながらゆったりと歩く。
言う台詞は考えてきた。
(譬え白い結婚だとしても俺は貴女が好きです。できれば貴女を愛したいので、改めて婚姻を結んで貰えないだろうか)
「グイン様?」
「いや、その……」
(何故言葉が出て来ないっ!!)
言うべき台詞は決まっているのに、唇が言葉を紡がない。
こんなことは初めてだった。
純真な焦げ茶の瞳がこちらを見つめていた。
「貴女は、今の状況に満足できているのかと思って」
(言いたいのはこんな台詞じゃないっ!!)
胸中は暴風雨の俺に全く気付かない様子でロザンナが頷いた。
「ええ。こちらでは皆さん、とてもよくして下さって。満足しております」
にっこりと笑みを浮かべる様は、以前古典で習わされた手弱女そのもののようだった。
(可愛らしいのにどこかしなやかさもある。やはり白い結婚だけでは無理だ)
感情が高ぶった俺が口を開きかけたとき、ロザンナが機先を制した。
「グイン様は今の状況に満足されていますか?」
(……は? 今の、状況? 満足なんてできるはずもない。こんなに貴女と距離がある)
だが、今それを言うのは悪手のような気がした。
「満足しています」
本当は少しも満足していないため、平坦な口調になってしまった。
それをどう捉えたのか、
「そうですか」
ロザンナは視線を逸らし、その後は温室の話で会話が終わってしまった。
「何をどうされたらそうなるんですか」
精霊達にぐちゃぐちゃにされたロベルトが呆れたように言ったが、さすがに反論できなかった。
「言うな」
――ねぇねぇ、あの子は?
――ここで一緒に遊びたいーっ!
――それより、コクハクしたの?
無邪気に飛び回る精霊達に急かされるように言われ、俺は小さく首を振った。
――ええー、何でーっ!
――グイン、情けない!
――……ヘタレ?
「待て。何故そんな言葉を知っている?」
「あ、あーっ! もうこんな時間ですねっ! 休憩にしましょうっ! 今日のお菓子はグイン様が好きな堅果入りの焼菓子ですよっ!」
とんでもない素早さで扉へ突進していく犯人を見ながら俺は静かに命じた。
「レイ」
――りょーかい。
精霊としてはやや低めの声がした後、一陣の風が吹き、長身のロベルトの動きを封じる。
「ちょっ、王宮内での精霊の使役はご法度でしょうっ!」
「俺はただ名を呼んだだけだ」
言外に何もしていない、と告げる。
「それ何ていうかご存じですよねっ!? 詭弁、って言うんですよっ!!」
「勉強になるな。俺はいい側近に恵まれたようだ」
「棒読みで言われても嬉しくないですっ!!」
ぎゃあぎゃあ喚く側近を手元に引き寄せてもらい、俺は幾分座った目を向けた。
「さて、作戦会議というか」
「殿方にも困ったものですね」
呆れたようにこちらを見るのは、マリエ・サンドループ侯爵令嬢。
ロベルトの婚約者である。
ここ最近、婚約者であるロベルトの様子がおかしいので問い詰めると俺の件をあっさりと自供したらしい。
ちなみにあの後実行した作戦はことごとく失敗に終わり、俺は告白の『こ』すら言えなかった。
ロベルトに視線を向けると目で謝られた。
(それでいいのか、側近)
「ロベルト様を責めないで下さい。私が勝手に聞き出したのですから」
サンドループ侯爵令嬢は、ロベルトとは幼馴染だという。
親同士もよく知っていて、ごく自然な流れで婚約の運びとなったらしい。
(その上、互いに想い合っている、などまさに順風満帆じゃないか)
多少恨めしくなっていると、ふいにサンドループ侯爵令嬢が笑みを浮かべた。
「申し訳ありませんが、私達は最初から恋人同士だったわけではございませんよ」
「すまない。分かったか」
(王族たるもの、そうそう表情を読まれる訳にはいかないのだが)
そんなことを思っていると横やりが入った。
「今のグイン様は限定した分野に関しては非常にわかりやすいですからね」
「……ロベルト。後でじっくり話し合おうか」
「あ、っと。ちょっと先の予定がぎっしりなんで、それはご無理かと思います」
攻防を広げていた俺達はサンドループ侯爵令嬢の笑い声に我に返った。
「見苦しいものを見せたな」
「いえ、大丈夫です。ロベルト様はとてもよい環境に恵まれているようで安心しております」
「……よい環境、って」
撃沈しているロベルトをよそにサンドループ侯爵令嬢が口火を切った。
「それで、ロザンナ様のことですね」
その柔らかな口調を聞いて、おや、と思った。
「もしかしてサンドループ侯爵令嬢はロザンナとは……」
「ええ、何度かお会いしてお話もさせていただいたことがあります」
いつの間に、と思ったがロザンナに友人ができたのはいいことだ。
ですので、とサンドループ侯爵令嬢が続けた。
「ちょうどよく今度ベリッジ侯爵家主催のお茶会が催されます。人数は限られていますので、そこで折りを見てロザンナ様の御気持ちを聞いてみますわ」
ですが、と扇子がパチリ、と閉じられた。
「もし、ロザンナ様のお気持ちがグイン様になかった場合は、この件に関しましては一切ご協力はできませんので、そのことご了承下さいませ」
(女性とは案外怖いものだな)
あれから二週間後、俺は遠い目で外を見ていた。
確かに俺がよくてもロザンナが拒否したら何の意味もない。
この婚姻には物心ついた頃からずっと言われてきたこともあり、すっかり失念していた。
(待てよ)
もしかして俺はロザンナに嫌われているのか?
そう思えばこれまでいい雰囲気になったところで逸らされたりしたのも納得がいく。
本当は乗り気ではなかったのに、いやいやながら付き合ってくれていたのか。
(俺はロザンナに何てことを)
「百面相しているところ申し訳ないんですが、マリエから手紙を預かってきたんですが」
「それを早く言え」
手紙を開封するようにいうと、ロベルトが何とも言えない顔になった。
「何だかまるでマリエのことが好きみたいに聞こえますね」
「……体が鈍っているようだな。午後の訓練場の視察、お前も実技に交ざるか?」
「すみませんでしたっ! 手紙ですねっ! 只今っ!」
慌てて開封して目を通したロベルトが戸惑ったように俺を見た。
「どうした?」
「それが――」
そっと差し出された便箋に目を通した俺は思わず声を上げた。
「……は?」
サンドループ侯爵令嬢の手紙にはロザンナが慈善事業に興味があるようだから、王族主催のものに参加させてはどうか、とあったのだ。
ロザンナが俺をどう思っているかについては一言も書かれていない。
(これは……試されているのか?)
そう言えばロザンナは王妃教育を受けていたのだ。
こういったことに関心があっても何の不思議もなかった。
「どういうことでしょうね。もう一度マリエに聞いて――」
俺はそういったロベルトを手を軽く振ってで止めた。
「いや。サンドループ侯爵令嬢にも何か考えがあるんだろう。前向きに考えると返答しておいてくれ」
「分かりました」
(……一番近いものだと、ベルモント侯爵夫人主催の懇親会があったが、あれは寄付金を募るものだから今のロザンナの立場では出席し難いものがあるな)
ロベルトにそう言うと、
「それでは、孤児院の慰問にされてはどうですか? 短時間のものにすれば調整できます」
「そうだな。それにするか」
結果として慰問は成功に終わった。
ロザンナが俺の婚約者だというのは分かるのか、子供たちに『お姉ちゃんが王子様のお嫁さんなの?』と素直な質問をしてくれ、『ええ、そうよ。正式な発表はまだ先だから内緒ね』とロザンナが当たり前のように答えてくれた。
(そこが今回の最重要点だな)
いやいやそこで満足してはいられない。
今俺はロザンナとふたり、帰りの馬車に乗っていた。
これは告白の機会ではないか。
「ロザンナ」
「はい」
「今日はありがとう。皆、君の姿を見て喜んでいたようだ」
(よし、ここからだ)
するとロザンナが真摯な瞳で俺を見た。
「滅相もございません。グイン様のお陰ですわ。……グイン様」
「ロザンナ?」
「この間は本当にすみませんでした。グイン様はお役目を果たそうとされていたのに、私が勝手に地竜と交渉してしまって、本当に申し訳ございませんでした」
(いや、そこで謝られても困るのだが)
もしかしてこれは逆に機会が巡ってきたのかっ!?
もしやロザンナも白い結婚ではなく、自分のことを――。
そう思ったときだった。
「私と白い結婚することは確定となってしまいましたが、グイン様にどなたか想いを寄せる方がいらっしゃるのであれば、私は特に構いませんので」
どうぞご随意に。
(はああああああっ!?)
「何というか、呆れて言葉も出ませんね」
ロベルトの台詞に何も返せない。
「どうしてそこですぐ否定なさならなかったんです? 俺が本当に好きなのは君だけだ、とか」
「言う暇がなかったんだ」
がっくりと項垂れる俺の上で精霊達が騒ぎ出した。
――またダメだったの?
――ヘタレ?
――ヘタレ、ヘタレ~
(そこ、歌うなっ!!)
「でも本当にどうされるんです? このままだと白い結婚一直線になりますよ?」
「……それは嫌だ」
「どうして?」
「どうして、って決まっている。俺はロザンナを愛している。何なら最初に初めて見た時からずっと惹かれていた。周りの思惑なんて関係ない。俺はロザンナときちんと婚姻を結びたいと思っている」
そこまで一気に言ったところで、周りが妙に静かなことに気が付いた。
顔を上げると、室内にはロベルトどころか精霊達の姿もなかった。
代わりにこれまでずっと話題にしていた人物がいた。
「――ロザンナッ!?」
え、と辺りを見回す俺に幾分済まなそうにロザンナが告げる。
「ロベルト様でしたら、もう退出されました。それと一緒に精霊達も……あの、すみません」
「いや、ロザンナが謝る必要はない」
悪いのはどう考えてもあいつだろう。
さて、どう〆るかと思案していると、
「いえ、そうではなくて。……実は精霊達に姿を隠して貰っていたんです」
「は?」
言っている意味が分からない。
「ですから、お話は全て聞いてます」
申し訳ございませんと謝るロザンナに、思考が追い付かない。
(は? 精霊達がロザンナに協力? それはそうだろう。精霊達はロザンナがお気に入りだからな)
どこから聞かれていたのかは正直どうでもよかった。
(それよりも一番聞かれてはいけないことを聞かれてしまったような……)
「グイン様」
気付けばロザンナの真摯な瞳が目の前だった。
「先日の発言はお忘れになって下さい。私は、いえ、私もグイン様が好きです」
白昼夢でも見ているのか。
そう思った俺の意識は、
「おめでとうございますっ!! グイン様ッ!!」
――よかった!
――結婚、結婚っ!!
――これで子供、見られる?
雪崩れ込んで来たロベルトと精霊達の叫びで浮上した。
(お前達……)
気持ちは分かるがもう少し雰囲気というものを、と思ったところではた、と気付いたことを聞いてみた。
「もしかしてその提案をしたのは……」
「ロベルト様です」
非常に言い難そうにロザンナが答えてくれた。
「やりましたねっ、グイン様ッ!! これで白い結婚じゃなくなりましたよっ!!」
脇から軽く俺の首に腕を回して締めてくるロベルトだったが、こちらにはまだいろいろと話がある。
俺はロベルトの腕を掴んで聞いた。
「ロベルト」
「何ですか、グイン様ッ? 何かお顔が怖いですよっ!?」
「この提案をしたのはお前だと聞いたが?」
「まあ終わりよければ全てよし、って言いますよねっ!」
やけに明るく言う側近に俺は、
「後でゆっくり話をしようか」
そう返してロベルトが居る側とは反対側の足を出し、それを支点として重心を下げ、同じ側の腕を振り下ろす。
手早くやったつもりだったがその護身術は当然ロベルトも知っているので慌てたように体を離された。
(チッ、素早くやればできると思ったのだが)
「ちょっ、何しれっと本気でやろうとしてるんですかっ!?」
「まさか、そんな訳ないだろう」
「その眼はどう見ても本気じゃないですかっ!!」
議論(?)を繰り広げているとくすくす笑う声が聞こえた。
「仲がいいんですね」
「「違いますっ!!」」
またそこでくすり、と笑われたがめちゃくちゃ可愛かったので、発言の内容はなかったことにしておいた。
(何て可愛いんだ。くっ、お披露目が終わったら閉じ込めておきたい)
できれば精霊達にも見せたくはなかった。
そんな不穏な思いを隠して俺はロザンナに微笑んだ。
「それでは早速陛下にご報告に上がろう。ロベルト、使いを」
「かしこまりまして」
確か今日は向こうもそれほど火急の案件はなかったはずだ。
それにこの件に関してはかなり気を揉ませてしまっていた気がする。
ロベルトが飛び出すように出て行くと、俺は精霊達に命じた。
「少し、席を外してくれ。後で礼はする」
――ええー、何で?
――うん、分かった!
――ほら、行くよっ!
精霊達の中にも察しのよいものがいるらしく、ほどなくして執務室の中は俺とロザンナ以外、誰も居なくなった。
「あの」
当惑気味のロザンナに俺はとっておきの笑みを浮かべる。
「ロザンナ。改めて言わせて欲しい。貴女を愛している。この先の人生を共に歩んでほしい」
ロザンナの手を取り、唇を寄せる。
「グイン様っ!」
顔を上げると真っ赤になったロザンナがいた。
「嫌だったか?」
「いえ、そうではなく」
(何だこの可愛い生き物は)
その後、理性が僅差で打ち勝ち、俺達は陛下の元へ挨拶へ行くことができた。
そして、お披露目も結婚式も無事に終わり、数百年越しの神託は無事に役目を終え、地竜の乙女とセンブルク国第2王子は仲睦まじく暮らしたという。
地竜の加護は存分に働き、センブルク国の農作物は豊作が続き、その国名は長く歴史に刻むこととなった。
一方、彼の国は水竜の加護に頼ったものの、あまりにも長い間風の精霊達の力を借りていたため、その自覚が足りず、地竜の乙女が去った後、3代後に水竜の加護まで失ってしまう。
やがて彼の国は竜に嫌われた国、として後世の歴史家に呼ばれることとなる。
( 完 )
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ここまでお読みいただきありがとうございました(*ノωノ) hotランキング9位ありがとうございます(≧▽≦)初の快挙なのでとっても嬉しいですっ!!(≧◇≦) このお話は完結となりますが、またどこかでお会いできると嬉しいですm(__)m (※ 一部修正入りましたm(__)m)
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