終末学園の生存者

おゆP

文字の大きさ
57 / 164
第二章

第10話 七夕祭実行委員会(2)『絵』

しおりを挟む
2.
 委員の仕事が終われば後は自由な時間である。会議のさなか、頭の片隅で思い描いた『自分に出来ること』を行動に移すために充てたい。
 そそくさと資料とノートを重ねて片付けを始める透哉の斜め前。
 三席ほど離れたところに座っていた女子生徒が勢いよく席を立つと、振り向きざまに飛ぶ勢いで駆け寄ってきた。
 栗色のポニーテイルをぴょこぴょこと揺らせ、目をギラつかせながら。

「うふ、うふふふっ、お兄様! 終わりましたわ!」
「見覚えのある後頭部があると思ったら、やっぱり野々乃か。おめぇなんでいるんだよ」
「それはあたしの愛がなせる技ですわ! ここからがあたしたちの本当の放課後ですわ!」

 また変なこと言っている、程度にしか受け取っていない透哉の非歓迎オーラを無視して、野々乃はずんずん迫ってくる。
 こうしている間にも朝顔の蔓みたいに絡みつこうと両腕をくねくねしている。
 もちろん透哉には野々乃に付き合う余裕はない。
 ちなみに透哉は裏でホタルと野々乃の間に結ばれていた密約など知らないので、七夕祭実行委員になって会議に参加したらたまたま一緒になった程度の認識しかない。
 野々乃は野々乃で、ホタルの尽力あって透哉が実行委員になったと思っているので、頼んだ甲斐があったと歪んだ努力に少なからず手応えを感じていた。

「まーた訳の分からんことを……」
「またまたお兄様ったら! あたしのために委員会に立候補してくれたくせに!」

 照れ隠しと勘違いした野々乃は一人嬉し恥ずかしと言った様子で、透哉の言葉も聞かずに感極まって悶え始める。
 やっぱり透哉は何を言っているか分からない。
 そして、会議が終わったとは言え、そこはまだ実行委員のメンバーで席が埋まった教室内。
 当然大っぴらに声を上げれば意図せず周囲の耳に入ってしまう程度の広さしかない。けれど野々乃に他の生徒から注がれる奇異の視線を気にとめる気配はない。
 透哉と違って動機が不純な野々乃からすれば会議の終了こそが始まりの合図であり、抑圧されていた変態ストーカーとしての資質を遺憾なく発揮している。



 野々乃は近くの椅子を引き寄せると座ったままの透哉の隣に並び、透哉の太ももの上に人差し指這わせてもじもじし始める。

「えへへっ、うへへぇっ! お兄様っ……ぽ」
「――っ!?(ナニコレ気持ち悪い!?)」

 野々乃としては、今この場で透哉に出会えることが最上の結果なのである。逆に透哉としては、大きな誤算な上に激しく気持ち悪いが、目的への直接的な障害にはならないだろうと考える。
 ひとまず、レコードの針みたいに太ももの上で周回する野々乃の指を握って、曲がらない方にグキリと変な音がするまで曲げて撃退しておく。

「滅ぶがよい!」
「つぉおおお!? お兄様ぁ!? 愛情表現がなかなかハードですわぁ!?」

 野々乃は痛みに悶えながらも、透哉の太ももを撫でていた指を咥えると上目で見てくる。
 続けて透哉は野々乃の腕を掴んで引き寄せると、小さく丸めて担ぎ直して掃除用具のロッカーの中に容赦なく蹴り込む。
 ドンドンと中で暴れる野々乃が隙間から漏れ出さないように、机を十個ほど前に並べて封印完了である。

「(きゃあ!? ここはどこですの!?)」

 揺れたり跳ねたりする掃除用具入れを尻目に透哉は帰る準備を再開。
 野々乃が飛び込んで来る前の平和な時間を取り戻す。
 目下、直接的な障害となり、説得して突破しなければならないのは実行委員長。
 あの雪だるまを説得して味方に付けられなければ松風の七夕祭参加は絶望的である。

「(狭いですわ! 暗いですわ!?)」

 他クラスの委員がパラパラと離席して教室を出て行く中、壇上で資料を片付けている雪だるまの顔をした三年生。
 名を貫雪砕地つらゆきさいじと言うらしい。
 恐らく魔力を氷結させる類いのエンチャンター。

「(――まさか、これがお兄様流新奥義監禁プレイですの!?)」

 しかし、彼に関する情報はそこまでである。と言うか、透哉は今日初めて貫雪砕地を知ったのである。
 手近な人間に尋ねて情報を得ようかと考えたが、周囲にはもう誰も残っていなかった。

「(――エンチャント!)」

 そうこうする間に、掃除用具入れの側面にオレンジ色の線が走り、膨張して内側から弾けた。
 音の方を振り返ると、焼き切られた掃除用具入れから野々乃がぬるりと姿を現した。その姿は棺桶から這い出てきたミイラみたいである。
 悔しいことにこの場における情報源は、この変態一人。他を当たろうにも、野々乃の奇行を目撃した常識人たちはそそくさと去ってしまった後だ。
 透哉は荷物をまとめ、席を立つと生還して間もない野々乃に声量を絞って聞いた。

「(なんなんだ。あの顔面雪だるまは?)」
「(誰ってお兄様、ご存じないのですか? 三年の貫雪砕地先輩ですわ。魔力を氷結させるエンチャンターですわ)」
「(そりゃ見たら分かるだろ。なんで雪だるまなんだ)」
「(……聞いた話によると事故の傷を隠すために、らしいですわ)」

 透哉のダメ元の問いに野々乃が小声で返事する。普段は気持ちを抑えない猪突猛進変態ストーカーな野々乃も、ちゃんと質問すれば正しい返答をするところを見るとしっかり自分を抑制できるようだ。
 それどころか細かな補足までしてくれる辺りはとても優秀な後輩と言える。
 今後はそっちに路線変更してくれないだろうか、と淡い期待をする透哉だったが、既に息を荒げてにじり寄ってくる野々乃に願いは届きそうにない。
 横目で改めて雪だるまフェイスを見つつ、妙な寒気を覚えた。
 氷で作られた頭に、目鼻を模して取り付けられている黒いパーツ。
 あれを果たして目と呼んでいいか、疑問は尽きない。仮に模造品だったとして、本当の彼の視線はどこに向いているのだろう。
 考えると途端に不気味に思えてきた。
 透哉は野々乃に目配せをして逃げるように教室を出た。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 現実に疲れ果てた俺がたどり着いたのは、圧倒的な自由度を誇るVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。  選んだ職業は、幼い頃から密かに憧れていた“料理人”。しかし戦闘とは無縁のその職業は、目立つこともなく、ゲーム内でも完全に負け組。素材を集めては料理を作るだけの、地味で退屈な日々が続いていた。  だが、ある日突然――運命は動き出す。  フレンドに誘われて参加したレベル上げの最中、突如として現れたネームドモンスター「猛き猪」。本来なら三パーティ十八人で挑むべき強敵に対し、俺たちはたった六人。しかも、頼みの綱であるアタッカーたちはログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク・クマサン、ヒーラーのミコトさん、そして非戦闘職の俺だけ。  「逃げろ」と言われても、仲間を見捨てるわけにはいかない。  死を覚悟し、包丁を構えたその瞬間――料理スキルがまさかの効果を発揮し、常識外のダメージがモンスターに突き刺さる。  この予想外の一撃が、俺の運命を一変させた。  孤独だった俺がギルドを立ち上げ、仲間と出会い、ひょんなことからクマサンの意外すぎる正体を知り、ついにはVチューバーとしての活動まで始めることに。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業。  そんな俺が、仲間と共にゲームと現実の垣根を越えて奇跡を起こしていく物語が、いま始まる。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...