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第三章
第32話 野外ステージ建築計画(1)
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1.
二年五組の壇上には御波透哉と草川流耶の二人が立っていた。
傍らには椅子に座った担任の矢場嵐子を置く布陣で開始されたのは、第二回七夕祭の作戦会議。
先日同様、授業の一部を切り取っての実施である。
激動の土日を乗り越え、日常へと帰還した透哉は実行委員会と言う学生としての仕事に戻っていた。テーマとなっているのは二年五組が執り行う催し、野外ステージの建設。透哉の提案と熱意により実を結んだ成果であり、松風犬太郎を秘密裏に七夕祭へ参加させるための、担任を含めたクラス全体を巻き込んだ計略である。
そして、今は実行委員会で決まったことを報告し終え、ステージ建設に際しての具体的な話の最中である。
「――と言うわけで、野外ステージはグラウンドの一部を使うことになった。ステージの設計は技術部顧問の小石先生に委託したから、作業内容が固まるまでは待っているように言われた。ここまでで質問がある奴はいるか?」
要点説明はざっくりとしたものだったが、委員としてクラスの信頼を得た影響か、すんなり受け入れられた。小声での話し声こそ聞こえたが、不満の類いではなかった。
クラスメイトたちに投げかけられた透哉の言葉に、ワンテンポ遅れて挙手したのは源ホタル。
普段は委員長として壇上に立ち、質疑応答をする側だが、今日は自分の席から疑問をぶつけた。
「御波、建設場所が決まったのはいいが、部活動でグラウンドを使っている部員たちに相談はしたのか?」
生徒会副会長も兼任するホタルとしては、学園の行事を進めつつも、学園全体を慮り、融和を重んじる役目がある。実は二年五組にたまたま該当者がいなかっただけで、ホタルが挙げた問題はクリアされていないのだ。個人的というより、副会長としての広い視野を持つホタルならではの質問だった。
「部活動? グラウンドを使っている部活なんてあるのか?」
「あなたねぇ、それぐらい周知しておきなさい。グラウンドを使っているのは、サッカー部と陸上部よ」
ところが透哉は気付けなかった上、認知さえしていなかった。実際、夜ノ島学園は開校して日が浅いため、人員が確保できず許可が下りていない部活動がいくつもあるのだが、透哉の知識は問題外だった。
実行委員として問題ある透哉の悪気のない疑問に、隣の流耶が呆れた顔で言う。
「忘れん坊に変わって、私の方からサッカー部には話を付けておくわ」
「分かった。それで頼む」
説明されても心当たりが思いつかなかったので、流耶に丸投げすることにした。ちなみに、陸上部が該当しないのは、野外ステージの建設予定地とは離れた場所で活動しているからである。
「(話を聞き入れてもらえないようなら、廃部に追い込むから大丈夫よ)」
「(おいおいおい)」
解決したと思いきや、小声で囁かれた力技に、透哉は思わず半笑いを浮かべる。
その仲睦まじく見えなくもない二人を見ながら、渋い顔をしている人物がいた。
二年五組における質疑応答の特攻隊長、茂部太郎である。肩書こそ大袈裟であるが、普通で無難な特徴と言った特徴を持たない平凡な男子生徒である。
ことあるごとに問題に首を突っ込むも、決まって荒らすことも解決することもしない男が今日も話題に一石を投じるために果敢に挑んできた。
「ところで御波、ステージの材料に当てはあるのか?」
「一応、木材建築らしいが、詳細はまだ知らされていない」
「大丈夫なのか?」
茂部の鋭い風味の指摘に壇上の透哉はやや気まずそうに答える。
建築、及び設計に関しては口出しできる範囲を逸脱していたので、技術部顧問に任せっきりで半ば保留状態なのだ。
しかし、直後この材料問題は解決する。
「御波、設計は私も口出しできそうにないけど、材料の木材は近所の木工所に掛け合うから心配いらないわよ?」
「マジか」
嬉々として答えた矢場に、安堵の声を漏らす透哉。生徒の次に七夕祭を楽しみにしている矢場のバックアップは万全だった。
クラスメイトたちを前に若干の頼りなさを垣間見せることになったが、お祭り好きな担任のお蔭で進捗は順調だった。
茂部が腕を組んで満足げにうんうん、と頷いているがこの際放っておくことにする。材料問題の解決を自分の功績だと勝手に勘違いしているようだ。
「あ、そうだ。照明担当は源に頼めない?」
「照明? 放送部にでも掛け合えばいいのだろうか?」
ついでに飛んできた矢場の要望に、首を傾げながら聞き返すホタル。
「ううん、電源」
「電源!? 私は電池扱いなのか!?」
「もしものときは、頼むわねっ」
ホタルの虚しい抵抗は、矢場のウィンクに迎撃された。
和やかな空気のまま一限目、矢場の授業が終わる。
そして、二限目と三限目の間の休み時間。
――それは前触れなく起きた。
突如として二年五組の教室が謎の揺れによって脅かされた。
地震ではない、校舎に何かが衝突したような振動だった。
突然の異変にその場に居合わせたクラスの面々が顔を見合わせるも、原因は分からない。
自然と止んだ談笑。休み時間の喧噪が、瞬く間に不安と恐怖に塗り替えられる。
それでも振動は止まず、今度は激しい怪音が響く。
元より、生徒同士の乱闘による能力の衝突が頻発する学園だ。多少の爆発や火災、振動で取り乱すことはないのだが、今までに類を見ない規模の揺れが慣習で得た安心感を上回っていた。
加えて、大体の原因に当たる透哉が教室内にいることも大きな要因だった。
「――止んだ?」
「そうだね、怖かった……」
「なんだったの? 今の!?」
通過した恐怖を口々に語るクラスメイトたちを横目に、透哉は全く別の予感がしていた。
そう、例えるなら津波が押し寄せる前に、波が一旦大きく引くように。この振動にも同じ動きが当てはまるのではないか、と。
直後、一際鈍い音が頭上から響き、巨大な振動となって校舎を震わせた。
そして、二年五組の天井がミシミシと軋み、埃が舞い落ちる。
衝撃に耐え切れずに生じた亀裂の奥から、それは、聞こえる。
『むぅん! ダイナミック・ルームシェアァ!』
野太い声と強烈な衝撃を織り交ぜた一撃が天井を粉砕した。崩落した天井は瓦礫となって散乱し、舞い上がった土埃が降り立った巨影を覆い隠した。
その巨影はノシノシと破片を踏みしめながら土煙のベールを腕の一振りで払いのける。
ハゲ頭に芝を直接植えたような髪型に、彫りの深い目元をした色黒の巨漢が立っていた。
その姿は自立稼働するモアイ像に映ったという。
「こんにちは、だな。二年五組の諸君。ところで七夕祭実行委員の御波透哉はいるか?」
岩戸の開閉音のような重く低い声で、驚嘆して身体が動かない二年五組の面々に尋ねた。
「オラァ! 天井ぶっ壊して侵入しておいて悠長に挨拶か!? 何者だてめぇ!?」
振ってきた天井の残骸を蹴り飛ばしながら、名指しされたこともあって実行委員の透哉が盛大に吠える。状況に萎縮して声も出ない他のクラスメイトからすれば、透哉の声は心強かった。
夜ノ島学園の食堂には、ピンクのアフロを装備した剛田楓丸と言う珍獣がいる。けれど、実は教員の中にもその珍獣と肩を並べられる男がいた。
それが天井を突き破りむんむんと喋るこの男、技術部の顧問小石巌である。
「むん、御波か。いるじゃないか。それにしても教員に向けて暴言、いかんな。年上を敬えないようでは、立派に成人することができんぞ?」
「立派な成人は天井突き破って教室に侵入してこねぇんだよ!?」
「ここのクラス担任に比べれば私など可愛いものだろ」
「そ、そんなこと」
「扉や壁を呼吸するように壊すは、生徒を空の彼方に吹き飛ばすは、実習棟給湯室を私物化するは、やりたい放題ではないか」
やれやれと言った様子で両手を振って見せるが、比較対象が担任の矢場嵐子では言い返せない。
「確かに」
「むん、私など可愛いものだろ?」
「は、はぁ」
「むん! 私は可愛いのだ!」
話の内容が微妙にすり替わっている気もしたが、あえて触れないことにした。
「……それより、俺に何のようだ」
「むん! そうだったな、これを渡しにきた」
すると小石は手にした円筒形の入れ物を差し出した。透哉は訝しげな顔で受け取り、回すとラベルには『野外ステージ設計図案』と書かれている。
天井を突き破った衝撃で吹き飛んでいたが、野外ステージの設計を依頼していたのが、眼前で屹立する小石だった。
「図面……もう設計してくれたのか?」
「無論。生徒がやる気になっているなら教師としては可能な限り手を貸すのが務めだ」
「あ、りがとうございます……でもそれだと天井をぶっ壊す必要なかっただろ!?」
「むん? 職員室の真下が二年五組の教室だった気がしたのでな。近道をしたというわけだ」
「近道?」
透哉が復唱しながら天井に空いた大穴を見上げる。
「ちょっと床を踏み抜いた、と言うわけだ」
「こっちはその天井の破片に潰されかけたんだぞ!?」
「むん、無事で何より」
小石は満足そうに言いながら、透哉の肩をポンポンと軽く叩いた。
「みー、御波ぃ~たす、けて……きゅー」
透哉と小石が話を終えたところで、瓦礫の隙間から虫の息の犬が這い出てきた。
「……」
「……」
「とにかく、図面しかと手渡したぞ。そして、私は可愛いのだ。覚えておくように。それでは二年五組の諸君、私は失礼する! とうっ!」
小石は豪快に踏み切ると天井の穴に垂直に飛び込み、職員室に戻った。
「誤魔化しやがった!?」
クラス全員が口をあんぐりと開け、放心する中、学園に備わった修復能力で瓦礫が浮かび上がり、修繕されていく。
そして、天井が元通りになると、教室の床には被害に遭った松風だけが残っていた。
「さ、図面はどんなかな」
「僕も、み、見たい……きゅー」
松風のふにゃふにゃな断末魔を聞きながら、透哉は受け取った入れ物の中身に目を通す。
見ると設計図面と必要材料が分かりやすくリスト化されていた。素人である透哉に図面を正確に読むことは難しかったが、必要物資のリストは理解できた。
それでも、やっぱり天井を破壊した理由は見えてこなかった。
二年五組の壇上には御波透哉と草川流耶の二人が立っていた。
傍らには椅子に座った担任の矢場嵐子を置く布陣で開始されたのは、第二回七夕祭の作戦会議。
先日同様、授業の一部を切り取っての実施である。
激動の土日を乗り越え、日常へと帰還した透哉は実行委員会と言う学生としての仕事に戻っていた。テーマとなっているのは二年五組が執り行う催し、野外ステージの建設。透哉の提案と熱意により実を結んだ成果であり、松風犬太郎を秘密裏に七夕祭へ参加させるための、担任を含めたクラス全体を巻き込んだ計略である。
そして、今は実行委員会で決まったことを報告し終え、ステージ建設に際しての具体的な話の最中である。
「――と言うわけで、野外ステージはグラウンドの一部を使うことになった。ステージの設計は技術部顧問の小石先生に委託したから、作業内容が固まるまでは待っているように言われた。ここまでで質問がある奴はいるか?」
要点説明はざっくりとしたものだったが、委員としてクラスの信頼を得た影響か、すんなり受け入れられた。小声での話し声こそ聞こえたが、不満の類いではなかった。
クラスメイトたちに投げかけられた透哉の言葉に、ワンテンポ遅れて挙手したのは源ホタル。
普段は委員長として壇上に立ち、質疑応答をする側だが、今日は自分の席から疑問をぶつけた。
「御波、建設場所が決まったのはいいが、部活動でグラウンドを使っている部員たちに相談はしたのか?」
生徒会副会長も兼任するホタルとしては、学園の行事を進めつつも、学園全体を慮り、融和を重んじる役目がある。実は二年五組にたまたま該当者がいなかっただけで、ホタルが挙げた問題はクリアされていないのだ。個人的というより、副会長としての広い視野を持つホタルならではの質問だった。
「部活動? グラウンドを使っている部活なんてあるのか?」
「あなたねぇ、それぐらい周知しておきなさい。グラウンドを使っているのは、サッカー部と陸上部よ」
ところが透哉は気付けなかった上、認知さえしていなかった。実際、夜ノ島学園は開校して日が浅いため、人員が確保できず許可が下りていない部活動がいくつもあるのだが、透哉の知識は問題外だった。
実行委員として問題ある透哉の悪気のない疑問に、隣の流耶が呆れた顔で言う。
「忘れん坊に変わって、私の方からサッカー部には話を付けておくわ」
「分かった。それで頼む」
説明されても心当たりが思いつかなかったので、流耶に丸投げすることにした。ちなみに、陸上部が該当しないのは、野外ステージの建設予定地とは離れた場所で活動しているからである。
「(話を聞き入れてもらえないようなら、廃部に追い込むから大丈夫よ)」
「(おいおいおい)」
解決したと思いきや、小声で囁かれた力技に、透哉は思わず半笑いを浮かべる。
その仲睦まじく見えなくもない二人を見ながら、渋い顔をしている人物がいた。
二年五組における質疑応答の特攻隊長、茂部太郎である。肩書こそ大袈裟であるが、普通で無難な特徴と言った特徴を持たない平凡な男子生徒である。
ことあるごとに問題に首を突っ込むも、決まって荒らすことも解決することもしない男が今日も話題に一石を投じるために果敢に挑んできた。
「ところで御波、ステージの材料に当てはあるのか?」
「一応、木材建築らしいが、詳細はまだ知らされていない」
「大丈夫なのか?」
茂部の鋭い風味の指摘に壇上の透哉はやや気まずそうに答える。
建築、及び設計に関しては口出しできる範囲を逸脱していたので、技術部顧問に任せっきりで半ば保留状態なのだ。
しかし、直後この材料問題は解決する。
「御波、設計は私も口出しできそうにないけど、材料の木材は近所の木工所に掛け合うから心配いらないわよ?」
「マジか」
嬉々として答えた矢場に、安堵の声を漏らす透哉。生徒の次に七夕祭を楽しみにしている矢場のバックアップは万全だった。
クラスメイトたちを前に若干の頼りなさを垣間見せることになったが、お祭り好きな担任のお蔭で進捗は順調だった。
茂部が腕を組んで満足げにうんうん、と頷いているがこの際放っておくことにする。材料問題の解決を自分の功績だと勝手に勘違いしているようだ。
「あ、そうだ。照明担当は源に頼めない?」
「照明? 放送部にでも掛け合えばいいのだろうか?」
ついでに飛んできた矢場の要望に、首を傾げながら聞き返すホタル。
「ううん、電源」
「電源!? 私は電池扱いなのか!?」
「もしものときは、頼むわねっ」
ホタルの虚しい抵抗は、矢場のウィンクに迎撃された。
和やかな空気のまま一限目、矢場の授業が終わる。
そして、二限目と三限目の間の休み時間。
――それは前触れなく起きた。
突如として二年五組の教室が謎の揺れによって脅かされた。
地震ではない、校舎に何かが衝突したような振動だった。
突然の異変にその場に居合わせたクラスの面々が顔を見合わせるも、原因は分からない。
自然と止んだ談笑。休み時間の喧噪が、瞬く間に不安と恐怖に塗り替えられる。
それでも振動は止まず、今度は激しい怪音が響く。
元より、生徒同士の乱闘による能力の衝突が頻発する学園だ。多少の爆発や火災、振動で取り乱すことはないのだが、今までに類を見ない規模の揺れが慣習で得た安心感を上回っていた。
加えて、大体の原因に当たる透哉が教室内にいることも大きな要因だった。
「――止んだ?」
「そうだね、怖かった……」
「なんだったの? 今の!?」
通過した恐怖を口々に語るクラスメイトたちを横目に、透哉は全く別の予感がしていた。
そう、例えるなら津波が押し寄せる前に、波が一旦大きく引くように。この振動にも同じ動きが当てはまるのではないか、と。
直後、一際鈍い音が頭上から響き、巨大な振動となって校舎を震わせた。
そして、二年五組の天井がミシミシと軋み、埃が舞い落ちる。
衝撃に耐え切れずに生じた亀裂の奥から、それは、聞こえる。
『むぅん! ダイナミック・ルームシェアァ!』
野太い声と強烈な衝撃を織り交ぜた一撃が天井を粉砕した。崩落した天井は瓦礫となって散乱し、舞い上がった土埃が降り立った巨影を覆い隠した。
その巨影はノシノシと破片を踏みしめながら土煙のベールを腕の一振りで払いのける。
ハゲ頭に芝を直接植えたような髪型に、彫りの深い目元をした色黒の巨漢が立っていた。
その姿は自立稼働するモアイ像に映ったという。
「こんにちは、だな。二年五組の諸君。ところで七夕祭実行委員の御波透哉はいるか?」
岩戸の開閉音のような重く低い声で、驚嘆して身体が動かない二年五組の面々に尋ねた。
「オラァ! 天井ぶっ壊して侵入しておいて悠長に挨拶か!? 何者だてめぇ!?」
振ってきた天井の残骸を蹴り飛ばしながら、名指しされたこともあって実行委員の透哉が盛大に吠える。状況に萎縮して声も出ない他のクラスメイトからすれば、透哉の声は心強かった。
夜ノ島学園の食堂には、ピンクのアフロを装備した剛田楓丸と言う珍獣がいる。けれど、実は教員の中にもその珍獣と肩を並べられる男がいた。
それが天井を突き破りむんむんと喋るこの男、技術部の顧問小石巌である。
「むん、御波か。いるじゃないか。それにしても教員に向けて暴言、いかんな。年上を敬えないようでは、立派に成人することができんぞ?」
「立派な成人は天井突き破って教室に侵入してこねぇんだよ!?」
「ここのクラス担任に比べれば私など可愛いものだろ」
「そ、そんなこと」
「扉や壁を呼吸するように壊すは、生徒を空の彼方に吹き飛ばすは、実習棟給湯室を私物化するは、やりたい放題ではないか」
やれやれと言った様子で両手を振って見せるが、比較対象が担任の矢場嵐子では言い返せない。
「確かに」
「むん、私など可愛いものだろ?」
「は、はぁ」
「むん! 私は可愛いのだ!」
話の内容が微妙にすり替わっている気もしたが、あえて触れないことにした。
「……それより、俺に何のようだ」
「むん! そうだったな、これを渡しにきた」
すると小石は手にした円筒形の入れ物を差し出した。透哉は訝しげな顔で受け取り、回すとラベルには『野外ステージ設計図案』と書かれている。
天井を突き破った衝撃で吹き飛んでいたが、野外ステージの設計を依頼していたのが、眼前で屹立する小石だった。
「図面……もう設計してくれたのか?」
「無論。生徒がやる気になっているなら教師としては可能な限り手を貸すのが務めだ」
「あ、りがとうございます……でもそれだと天井をぶっ壊す必要なかっただろ!?」
「むん? 職員室の真下が二年五組の教室だった気がしたのでな。近道をしたというわけだ」
「近道?」
透哉が復唱しながら天井に空いた大穴を見上げる。
「ちょっと床を踏み抜いた、と言うわけだ」
「こっちはその天井の破片に潰されかけたんだぞ!?」
「むん、無事で何より」
小石は満足そうに言いながら、透哉の肩をポンポンと軽く叩いた。
「みー、御波ぃ~たす、けて……きゅー」
透哉と小石が話を終えたところで、瓦礫の隙間から虫の息の犬が這い出てきた。
「……」
「……」
「とにかく、図面しかと手渡したぞ。そして、私は可愛いのだ。覚えておくように。それでは二年五組の諸君、私は失礼する! とうっ!」
小石は豪快に踏み切ると天井の穴に垂直に飛び込み、職員室に戻った。
「誤魔化しやがった!?」
クラス全員が口をあんぐりと開け、放心する中、学園に備わった修復能力で瓦礫が浮かび上がり、修繕されていく。
そして、天井が元通りになると、教室の床には被害に遭った松風だけが残っていた。
「さ、図面はどんなかな」
「僕も、み、見たい……きゅー」
松風のふにゃふにゃな断末魔を聞きながら、透哉は受け取った入れ物の中身に目を通す。
見ると設計図面と必要材料が分かりやすくリスト化されていた。素人である透哉に図面を正確に読むことは難しかったが、必要物資のリストは理解できた。
それでも、やっぱり天井を破壊した理由は見えてこなかった。
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