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(……もうすぐ春休みかー……)
バイトが終わって俺はダラダラと足を引きずりながらぼんやり帰っていた。疲れた。体動かしてる間はいいんだけどな。終わってこうやって一人で帰ってると、急激に疲れがくるんだよな。
……今日は二人でいるところを見ずに済んだ。ここ数日は見てない気がする。俺はいまだに毎日毎日怯えながら学校生活を送っていた。あの二人が並んで歩いているところをマジで見たくない。あれを見たら途端に体がズンと重くなって気力が削がれる。……いつまで経っても俺は颯太に未練タラタラだった。
あいつようやく卒業してくれるな。俺からあっさり颯太を奪っていった、あのクソ野郎。これでもう少なくとも俺は二人が一緒にいる場面を見ずに済むってわけだ。
だからって、卒業を機に二人の関係が切れるってわけでもないだろうけどな。
……はぁ。自分が嫌になる。こんなに何ヶ月も経つってのに、いつもいつも、頭の中は相変わらず颯太のことばっかりだ。
もういっそ全部忘れてしまいたい。楽になりたい。……でも忘れたくない。忘れられるはずがないんだ。
だって颯太は俺にとって、ガキの頃からずっとずっと─────
「…………いつき…」
………………。
はぁ。見ろ。ついに幻聴まで…………、
………………ん?
マンションのエントランスに入ろうとしたその時、颯太の声が聞こえた気がしてさすがに自分にうんざりした瞬間。
「…………っ!!」
心臓が痛いほどドクンッと大きく飛び上がり、止まるかと思った。
振り向いたら、颯太が立っていた。
「………………っ、…そ…」
「…………。」
困ったような顔で、少し俯いて目の前に立っている颯太。心の準備が全くなくて、完全に動揺した俺は言葉が出ない。……こんなに近くで見るの、何ヶ月ぶりだろう。半年ぶりぐらいか……?すれ違うことしかなかったのに。…話しかけられた。急に。うちの前で。
「…………っ、」
固まった喉を無理矢理動かしてゴクリと鳴らす。心臓がうるさい。
「…………ど、うしたんだよ、……何してるんだ、こんな、時間に……」
喉がカラカラで声が掠れる。よかった。思ったより優しい声が出た。
「………………ご、」
「?!」
「ごめん、ね、急に……」
「……っ、」
「は、話が、したくて……」
「………………。」
話しかけてきている。俺に。幻じゃないのか?なんて思ってしまうほど俺は動揺していた。なんで?今頃、突然……。
あの日以来ずっと一言も話しかけてこなかったくせに、謝りもしなかったくせに、こいつ何を今さら……。なんて腹が立つ気持ちも少しあったが、それよりも颯太が俺に会いに来てくれて今目の前に立っていることに対する喜びの方がはるかに大きかった。見栄もプライドもなく抱きしめたかった。
「…………何?」
「…………こ、ここじゃ……」
話せないっていうのか。でも部屋にあげるわけにはいかない。
「……今いねーんだよ、親が」
「……え」
「親父の社員旅行についていってる、おかん」
「………………。」
長野でスキーだと聞くやいなや小躍りして喜んでいたアクティブなおかんは、今頃親父と楽しく過ごしているだろう。一人きりの家の中に颯太を入れるわけにはいかなかった。
「……ここじゃダメなの」
俺はエントランスの手前の段差に声かけると、颯太を見上げて声をかけた。……やっぱり可愛いなーこいつ……。久々に近くでゆっくり顔見たらすげぇドキドキする。
「………………。」
何も言わないし、座りもしない。キュッと唇を噛んで俯いたままだ。……本当に、何なんだろう、急に、今さら。そんな困った顔されても……、どうしてやったらいいのか分からない。
「…………い、……いつき……」
「……。」
はぁ。嫌になる。名前を呼ばれただけでこんなに体が熱くなるなんて。
「……部屋に、いれて」
(…………?!)
「……いや、だからさ、誰もいねーんだよ今。……マズいだろ、さすがに」
俺も何をしてしまうか分かったもんじゃねーし。
「…………。」
「……怒られるんじゃねーの。大好きな部長さんに」
「……っ!」
あー、クソ。言いたくもない嫌味言っちまった。ネチネチしてんなー俺。未練がましい……。息を呑む気配がしたかと思うと、颯太がボロボロと涙を零しはじめた。
「?!……は?!……い、いや、なんで…」
「は、……はなしを……、聞いてよ!!」
あ。……怒った。
颯太が突然全身を震わせながら激昂する。
「は、話したくて……っ、ゆ、……勇気を、出してっ、こ、ここまでっ、……会いに、来たのに……っ!!……こ、……こんな、」
「わ、分かったって……」
「こんなに、……こんなに、ずっと……、……う……、は、はなれて、……う゛ぅぅ……っ!おれ、……俺は……!」
「ちょ、……お、落ち着けよ、……颯太」
「ふ……、うぅぅ……、ひどい…、ひどい……、いつき……っ!!」
「……………………。」
え……、……えぇ?俺ぇ?!俺がひどいの……?なぜ……??
滝のように涙を流しながら俺に対する恨み言を言い、ずりずりと後ろに下がっていく颯太をなだめる。
「わ、分かったよ。……ごめん、悪かったよ。……来いよ、うち」
いや、俺が悪いのか……?なんで?でも颯太がこんなに泣いて興奮してたら放っておくことはできない。
俺は久しぶりに颯太の手を握り、マンションの階段を上がった。
バイトが終わって俺はダラダラと足を引きずりながらぼんやり帰っていた。疲れた。体動かしてる間はいいんだけどな。終わってこうやって一人で帰ってると、急激に疲れがくるんだよな。
……今日は二人でいるところを見ずに済んだ。ここ数日は見てない気がする。俺はいまだに毎日毎日怯えながら学校生活を送っていた。あの二人が並んで歩いているところをマジで見たくない。あれを見たら途端に体がズンと重くなって気力が削がれる。……いつまで経っても俺は颯太に未練タラタラだった。
あいつようやく卒業してくれるな。俺からあっさり颯太を奪っていった、あのクソ野郎。これでもう少なくとも俺は二人が一緒にいる場面を見ずに済むってわけだ。
だからって、卒業を機に二人の関係が切れるってわけでもないだろうけどな。
……はぁ。自分が嫌になる。こんなに何ヶ月も経つってのに、いつもいつも、頭の中は相変わらず颯太のことばっかりだ。
もういっそ全部忘れてしまいたい。楽になりたい。……でも忘れたくない。忘れられるはずがないんだ。
だって颯太は俺にとって、ガキの頃からずっとずっと─────
「…………いつき…」
………………。
はぁ。見ろ。ついに幻聴まで…………、
………………ん?
マンションのエントランスに入ろうとしたその時、颯太の声が聞こえた気がしてさすがに自分にうんざりした瞬間。
「…………っ!!」
心臓が痛いほどドクンッと大きく飛び上がり、止まるかと思った。
振り向いたら、颯太が立っていた。
「………………っ、…そ…」
「…………。」
困ったような顔で、少し俯いて目の前に立っている颯太。心の準備が全くなくて、完全に動揺した俺は言葉が出ない。……こんなに近くで見るの、何ヶ月ぶりだろう。半年ぶりぐらいか……?すれ違うことしかなかったのに。…話しかけられた。急に。うちの前で。
「…………っ、」
固まった喉を無理矢理動かしてゴクリと鳴らす。心臓がうるさい。
「…………ど、うしたんだよ、……何してるんだ、こんな、時間に……」
喉がカラカラで声が掠れる。よかった。思ったより優しい声が出た。
「………………ご、」
「?!」
「ごめん、ね、急に……」
「……っ、」
「は、話が、したくて……」
「………………。」
話しかけてきている。俺に。幻じゃないのか?なんて思ってしまうほど俺は動揺していた。なんで?今頃、突然……。
あの日以来ずっと一言も話しかけてこなかったくせに、謝りもしなかったくせに、こいつ何を今さら……。なんて腹が立つ気持ちも少しあったが、それよりも颯太が俺に会いに来てくれて今目の前に立っていることに対する喜びの方がはるかに大きかった。見栄もプライドもなく抱きしめたかった。
「…………何?」
「…………こ、ここじゃ……」
話せないっていうのか。でも部屋にあげるわけにはいかない。
「……今いねーんだよ、親が」
「……え」
「親父の社員旅行についていってる、おかん」
「………………。」
長野でスキーだと聞くやいなや小躍りして喜んでいたアクティブなおかんは、今頃親父と楽しく過ごしているだろう。一人きりの家の中に颯太を入れるわけにはいかなかった。
「……ここじゃダメなの」
俺はエントランスの手前の段差に声かけると、颯太を見上げて声をかけた。……やっぱり可愛いなーこいつ……。久々に近くでゆっくり顔見たらすげぇドキドキする。
「………………。」
何も言わないし、座りもしない。キュッと唇を噛んで俯いたままだ。……本当に、何なんだろう、急に、今さら。そんな困った顔されても……、どうしてやったらいいのか分からない。
「…………い、……いつき……」
「……。」
はぁ。嫌になる。名前を呼ばれただけでこんなに体が熱くなるなんて。
「……部屋に、いれて」
(…………?!)
「……いや、だからさ、誰もいねーんだよ今。……マズいだろ、さすがに」
俺も何をしてしまうか分かったもんじゃねーし。
「…………。」
「……怒られるんじゃねーの。大好きな部長さんに」
「……っ!」
あー、クソ。言いたくもない嫌味言っちまった。ネチネチしてんなー俺。未練がましい……。息を呑む気配がしたかと思うと、颯太がボロボロと涙を零しはじめた。
「?!……は?!……い、いや、なんで…」
「は、……はなしを……、聞いてよ!!」
あ。……怒った。
颯太が突然全身を震わせながら激昂する。
「は、話したくて……っ、ゆ、……勇気を、出してっ、こ、ここまでっ、……会いに、来たのに……っ!!……こ、……こんな、」
「わ、分かったって……」
「こんなに、……こんなに、ずっと……、……う……、は、はなれて、……う゛ぅぅ……っ!おれ、……俺は……!」
「ちょ、……お、落ち着けよ、……颯太」
「ふ……、うぅぅ……、ひどい…、ひどい……、いつき……っ!!」
「……………………。」
え……、……えぇ?俺ぇ?!俺がひどいの……?なぜ……??
滝のように涙を流しながら俺に対する恨み言を言い、ずりずりと後ろに下がっていく颯太をなだめる。
「わ、分かったよ。……ごめん、悪かったよ。……来いよ、うち」
いや、俺が悪いのか……?なんで?でも颯太がこんなに泣いて興奮してたら放っておくことはできない。
俺は久しぶりに颯太の手を握り、マンションの階段を上がった。
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