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その後のお話【クリスマスをロマンチックに過ごしたい】
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「俺たちってさ、まともに記念日を祝ったことがないよな」
「……え?……ん、まぁ……そうかな。そうだねぇ」
突然の俺の言葉に、テレビを見ながらお揃いのマグカップでカフェオレを飲んでいた颯太がキョトンとして答える。
俺たちは幼稚園の頃からの幼なじみで、恋人同士。互いの誕生日やクリスマス、ロマンチックに過ごせるはずのイベントは毎年何回も巡ってきているのに、これまでなんとなくなあなあに過ごしてきてしまっているのだ。
まず、ガキの頃。小遣いも二人きりの時間も、当然ない。
中学生、高校生頃。それまでの流れと思春期の妙な恥じらいからなんとなく気恥ずかしくて、誕生日は互いにファーストフードを奢ったり、なんかちょっとした会計を持ったりしたぐらい。
大学生と社会人になってからは、全然時間が合わなくて当日を一緒に過ごしたことがない。いつも電話で「今日お前誕生日だよな?おめでとう颯太」とか、そんな程度だった。
だけどそんな俺たちももういい大人のカップルだ。しかも、ど、同棲中の。いくらでも二人きりでロマンチックし放題なわけだ。
「……よし、決めたぞ、颯太。今年のクリスマスは二人きりで恋人らしくロマンチックに過ごそうではないか」
「ではないか、って。……でも、うん、いいね。俺も前から思ってたんだよね、ちゃんとイベントごとを恋人っぽく過ごしたいなぁって」
「そ、そうか?」
「うん」
「そうか!」
「うん」
やっぱり颯太も思っていたのか。そうと決まれば話は早い。
「よし!!2週間後の今年のクリスマスはめっちゃくちゃロマンチックにいくぞー!」
「……でも樹、当然仕事あるよね」
「まぁ、あるっちゃあるけど、起きて待っててくれよ、急いで帰って来るから。な?」
「ふふ。分かった」
「プレゼント交換会しよーぜ」
「あ、いいねそれ!お互いに相手が喜びそうなものを自分で選ばない?」
「おぉ!いいなそれ!あえてリクエスト聞かずにな。……ふふん、よーし、期待してろよ颯太。俺は外さねーぞー」
「ふふっ、絶対に俺の方が喜ばせてみせるから!」
二人でキャッキャとはしゃぎながら計画を立てているこの時点では、まだまだガキの頃からのノリのままだった。
そして、当日。
イブの日のテレビの生出演やその他雑誌のインタビューなどなど、多忙なスケジュールをビシッとこなし、俺はワクワクしながらすっ飛んで帰った。遅くなってしまったけど、颯太は絶対に起きて待っててくれるはずだ。
マンションの下までマネージャーに送ってもらい、エレベーターホールまで徒競走並みにササササ…と移動し、素早く25階の部屋に帰る。
「ただいまー!颯太ー……、ん?」
鍵を開けて大声で呼んでみるけど……。なんか、奥のリビングが、暗い。気がする。え?いない?いや、薄明かりが点いてるっぽい…。
ま、まさか、……あいつお化け屋敷系のドッキリを仕掛けてくるんじゃねぇだろうな?!くっそー、絶対に叫ばねぇぞ。
俺はニヤニヤしながらそっとリビングのドアを開けた。
「………………っ!」
え……。
「おかえり、樹」
「……す、……すげぇ……」
てっきりドッキリの類いだと思ってニヤニヤしていた自分のガキさ加減を恥じるほどに、ロマンチックな光景がそこには広がっていた。
照明を落としたリビングの中には無数のキャンドルが灯り、なんと、大きなクリスマスツリーまで飾ってあった。ローテーブルの上にはシャンパンに何やら豪華な食事が……。
「ふふ。どう?これぞ恋人たちのクリスマスってかんじでしょ?」
そして一番素敵なのは、その部屋で微笑んで俺を出迎える颯太の姿。
「……か、完璧じゃねぇか……すげぇ……」
もうそれしか言葉がない。
「メリークリスマス、樹」
「か、可愛い……颯太……」
「……何で急に?」
「だってお前……、こんなロマンチックな部屋の中で、メリークリスマスって……。これぞ恋人同士じゃねぇか。……すげぇ……」
もう本当にそれしか言葉が出ない。さっきから俺はアホみたいにすげぇすげぇと呟いている。
「ふふ、さぁ、食事しようよ、遅い時間だけど。……もしかして何か食べて帰ってきた?」
「バカ言うなよ。万が一食べて帰ってきてたとしても絶対に食うわ」
ローストビーフだのチキンだのテリーヌだのカナッペだの、いろんなご馳走が並んでいる。
「……まさか、手作りじゃねぇよな?料理」
「俺が作ったのもあるよ。でもチキンとテリーヌは買ってきた」
「それ以外作ったのかよ!すごいな颯太!」
「一応ネット見て作ったから食べられるはず…」
「ふ、不安になること言うなよ…」
初めての恋人らしいクリスマスディナーは楽しくて楽しくて、二人してはしゃいで食べた。甘い物はそんなに好きじゃない俺だけど、あまりにもテンションが上がってクリスマスケーキも颯太と同じくらいの大きさ食べた。
「こんなにいろいろ準備するの大変だっただろ?…ありがとな、颯太」
「ふふ。ううん、すっごく楽しかったよ。憧れてたんだー。こういうの」
そんなことを言う颯太が健気で可愛くてたまらない。ディナーの後はいよいよクリスマスプレゼントの交換だ。
颯太は照れくさそうに大きな箱を持ってきた。
「お?でかいな」
「うん。気に入ってくれるかなぁ。ちょっと不安。…開けてみて、樹」
俺はなんだかものすごくドキドキしながら箱の包装を解いていく。
「っ?!は?え、お前これ…………えぇ!」
「…そこまでビックリする?」
「だって……高かっただろ?大丈夫なのか…?」
中から出てきたのは俺が好きなブランドのジャケットだった。
「これは普段の感謝の気持ちもこめてね。…何もかも甘えちゃって生活してるから…。だから普段あまりお給料の使い道ないし、大丈夫だよ。もらって」
「…ありがとな、颯太」
「うんっ」
…はぁぁぁ。可愛い。
……さて、と。
「…………。」
「…………。」
「早く」
「んっ?」
「早く、はい」
颯太が両手を出してきて催促する。そう、次は俺が渡す番なのだ。プレゼント交換会なんだから…。
……それにしても、いつの間にか颯太は俺より精神的にだいぶ大人になってしまって。いや、俺がいつまでもガキすぎるのか?さっきから、このロマンチックな演出をしてくれていたリビングをお化け屋敷的なヤツだと勘違いしたり、……こ、……こんなふざけたプレゼントを用意したり……。
……いや、大丈夫だ。まともな方もあるし。
でも。
「はやくー。いつきー」
「なぁ、颯太。ほんの冗談バージョンのプレゼントと、真面目バージョンのプレゼントと、どっちから見たい?」
「真面目な方だけでいい」
「…………よし」
もうふざけた方出しにくいじゃねーか。
「……はい。愛しい恋人に、これを」
「ふふ。嬉しいなー。ありがとう樹」
「中身見てから喜べよ」
「………………うわぁ!ち、ちょっと、すごすぎ」
「ふ」
……よかったぁ~真面目なのも用意しといて。
俺が用意したプレゼントは、お揃いの時計だった。
「マグカップのお礼だ。あのお揃い、めっちゃ嬉しかったから」
「お礼がすぎるよ…。こんな高価なもの…。……大事にするからね、一生」
「はは。どっちかのが壊れたら買い替えような、一緒に」
颯太は時計を腕につけて俺のと交互に見ては嬉しそうにしていた。
「ありがとう、樹。……疲れたでしょ?そろそろ寝ようか」
「いやいやいやいや、待てよ颯太。もういっこの方も見ろよ。ふざけたバージョン」
「や、いいよ。……寝室行こ」
ガシッ
「………………。」
「見てよ」
「なんかイヤな予感しかしないんだよ」
「するどいなお前。見てよ」
「……ふぅ。絶対ロマンチックの全てがぶち壊しになる気がするんだけど…」
「バカ言うな。俺もいい大人だぞ」
「………………。」
颯太は溜息をついて、俺がグイグイ押し付ける箱を渋々開ける。こんなの普通なら出しづらいようなロマンチックな夜になったが、ここでこれを出せるのが俺だ。だって、これも俺の夢のひとつだったんだから……あわよくば……こ、今夜……。
「………………は?何?これ」
颯太が眉間に皺を寄せて気持ち悪いもののように指先でおそるおそる持ち上げる。ヒラヒラした白いエプロンだ。
「よく見ろ、颯太。そんな不気味なもんじゃねぇよ」
「……どうよく見てもなんかフリフリしたエプロンなんだけど」
「そ、そうだよ!さすがだな颯太!俺の夢のひとつなんだよ!仕事で疲れて帰ってきた俺を、こ、これを裸の上に着た颯太が出迎えてくれるんだ。お帰りなさい、樹♡ご飯にする?お風呂にする?それとも、俺?♡って。そこで俺は当然…………お、おいっ!!」
颯太は最後まで聞かずにエプロンをポイッと床に捨ててさっさと寝室に行ってしまった。
ーーーーー end ーーーーー
「……え?……ん、まぁ……そうかな。そうだねぇ」
突然の俺の言葉に、テレビを見ながらお揃いのマグカップでカフェオレを飲んでいた颯太がキョトンとして答える。
俺たちは幼稚園の頃からの幼なじみで、恋人同士。互いの誕生日やクリスマス、ロマンチックに過ごせるはずのイベントは毎年何回も巡ってきているのに、これまでなんとなくなあなあに過ごしてきてしまっているのだ。
まず、ガキの頃。小遣いも二人きりの時間も、当然ない。
中学生、高校生頃。それまでの流れと思春期の妙な恥じらいからなんとなく気恥ずかしくて、誕生日は互いにファーストフードを奢ったり、なんかちょっとした会計を持ったりしたぐらい。
大学生と社会人になってからは、全然時間が合わなくて当日を一緒に過ごしたことがない。いつも電話で「今日お前誕生日だよな?おめでとう颯太」とか、そんな程度だった。
だけどそんな俺たちももういい大人のカップルだ。しかも、ど、同棲中の。いくらでも二人きりでロマンチックし放題なわけだ。
「……よし、決めたぞ、颯太。今年のクリスマスは二人きりで恋人らしくロマンチックに過ごそうではないか」
「ではないか、って。……でも、うん、いいね。俺も前から思ってたんだよね、ちゃんとイベントごとを恋人っぽく過ごしたいなぁって」
「そ、そうか?」
「うん」
「そうか!」
「うん」
やっぱり颯太も思っていたのか。そうと決まれば話は早い。
「よし!!2週間後の今年のクリスマスはめっちゃくちゃロマンチックにいくぞー!」
「……でも樹、当然仕事あるよね」
「まぁ、あるっちゃあるけど、起きて待っててくれよ、急いで帰って来るから。な?」
「ふふ。分かった」
「プレゼント交換会しよーぜ」
「あ、いいねそれ!お互いに相手が喜びそうなものを自分で選ばない?」
「おぉ!いいなそれ!あえてリクエスト聞かずにな。……ふふん、よーし、期待してろよ颯太。俺は外さねーぞー」
「ふふっ、絶対に俺の方が喜ばせてみせるから!」
二人でキャッキャとはしゃぎながら計画を立てているこの時点では、まだまだガキの頃からのノリのままだった。
そして、当日。
イブの日のテレビの生出演やその他雑誌のインタビューなどなど、多忙なスケジュールをビシッとこなし、俺はワクワクしながらすっ飛んで帰った。遅くなってしまったけど、颯太は絶対に起きて待っててくれるはずだ。
マンションの下までマネージャーに送ってもらい、エレベーターホールまで徒競走並みにササササ…と移動し、素早く25階の部屋に帰る。
「ただいまー!颯太ー……、ん?」
鍵を開けて大声で呼んでみるけど……。なんか、奥のリビングが、暗い。気がする。え?いない?いや、薄明かりが点いてるっぽい…。
ま、まさか、……あいつお化け屋敷系のドッキリを仕掛けてくるんじゃねぇだろうな?!くっそー、絶対に叫ばねぇぞ。
俺はニヤニヤしながらそっとリビングのドアを開けた。
「………………っ!」
え……。
「おかえり、樹」
「……す、……すげぇ……」
てっきりドッキリの類いだと思ってニヤニヤしていた自分のガキさ加減を恥じるほどに、ロマンチックな光景がそこには広がっていた。
照明を落としたリビングの中には無数のキャンドルが灯り、なんと、大きなクリスマスツリーまで飾ってあった。ローテーブルの上にはシャンパンに何やら豪華な食事が……。
「ふふ。どう?これぞ恋人たちのクリスマスってかんじでしょ?」
そして一番素敵なのは、その部屋で微笑んで俺を出迎える颯太の姿。
「……か、完璧じゃねぇか……すげぇ……」
もうそれしか言葉がない。
「メリークリスマス、樹」
「か、可愛い……颯太……」
「……何で急に?」
「だってお前……、こんなロマンチックな部屋の中で、メリークリスマスって……。これぞ恋人同士じゃねぇか。……すげぇ……」
もう本当にそれしか言葉が出ない。さっきから俺はアホみたいにすげぇすげぇと呟いている。
「ふふ、さぁ、食事しようよ、遅い時間だけど。……もしかして何か食べて帰ってきた?」
「バカ言うなよ。万が一食べて帰ってきてたとしても絶対に食うわ」
ローストビーフだのチキンだのテリーヌだのカナッペだの、いろんなご馳走が並んでいる。
「……まさか、手作りじゃねぇよな?料理」
「俺が作ったのもあるよ。でもチキンとテリーヌは買ってきた」
「それ以外作ったのかよ!すごいな颯太!」
「一応ネット見て作ったから食べられるはず…」
「ふ、不安になること言うなよ…」
初めての恋人らしいクリスマスディナーは楽しくて楽しくて、二人してはしゃいで食べた。甘い物はそんなに好きじゃない俺だけど、あまりにもテンションが上がってクリスマスケーキも颯太と同じくらいの大きさ食べた。
「こんなにいろいろ準備するの大変だっただろ?…ありがとな、颯太」
「ふふ。ううん、すっごく楽しかったよ。憧れてたんだー。こういうの」
そんなことを言う颯太が健気で可愛くてたまらない。ディナーの後はいよいよクリスマスプレゼントの交換だ。
颯太は照れくさそうに大きな箱を持ってきた。
「お?でかいな」
「うん。気に入ってくれるかなぁ。ちょっと不安。…開けてみて、樹」
俺はなんだかものすごくドキドキしながら箱の包装を解いていく。
「っ?!は?え、お前これ…………えぇ!」
「…そこまでビックリする?」
「だって……高かっただろ?大丈夫なのか…?」
中から出てきたのは俺が好きなブランドのジャケットだった。
「これは普段の感謝の気持ちもこめてね。…何もかも甘えちゃって生活してるから…。だから普段あまりお給料の使い道ないし、大丈夫だよ。もらって」
「…ありがとな、颯太」
「うんっ」
…はぁぁぁ。可愛い。
……さて、と。
「…………。」
「…………。」
「早く」
「んっ?」
「早く、はい」
颯太が両手を出してきて催促する。そう、次は俺が渡す番なのだ。プレゼント交換会なんだから…。
……それにしても、いつの間にか颯太は俺より精神的にだいぶ大人になってしまって。いや、俺がいつまでもガキすぎるのか?さっきから、このロマンチックな演出をしてくれていたリビングをお化け屋敷的なヤツだと勘違いしたり、……こ、……こんなふざけたプレゼントを用意したり……。
……いや、大丈夫だ。まともな方もあるし。
でも。
「はやくー。いつきー」
「なぁ、颯太。ほんの冗談バージョンのプレゼントと、真面目バージョンのプレゼントと、どっちから見たい?」
「真面目な方だけでいい」
「…………よし」
もうふざけた方出しにくいじゃねーか。
「……はい。愛しい恋人に、これを」
「ふふ。嬉しいなー。ありがとう樹」
「中身見てから喜べよ」
「………………うわぁ!ち、ちょっと、すごすぎ」
「ふ」
……よかったぁ~真面目なのも用意しといて。
俺が用意したプレゼントは、お揃いの時計だった。
「マグカップのお礼だ。あのお揃い、めっちゃ嬉しかったから」
「お礼がすぎるよ…。こんな高価なもの…。……大事にするからね、一生」
「はは。どっちかのが壊れたら買い替えような、一緒に」
颯太は時計を腕につけて俺のと交互に見ては嬉しそうにしていた。
「ありがとう、樹。……疲れたでしょ?そろそろ寝ようか」
「いやいやいやいや、待てよ颯太。もういっこの方も見ろよ。ふざけたバージョン」
「や、いいよ。……寝室行こ」
ガシッ
「………………。」
「見てよ」
「なんかイヤな予感しかしないんだよ」
「するどいなお前。見てよ」
「……ふぅ。絶対ロマンチックの全てがぶち壊しになる気がするんだけど…」
「バカ言うな。俺もいい大人だぞ」
「………………。」
颯太は溜息をついて、俺がグイグイ押し付ける箱を渋々開ける。こんなの普通なら出しづらいようなロマンチックな夜になったが、ここでこれを出せるのが俺だ。だって、これも俺の夢のひとつだったんだから……あわよくば……こ、今夜……。
「………………は?何?これ」
颯太が眉間に皺を寄せて気持ち悪いもののように指先でおそるおそる持ち上げる。ヒラヒラした白いエプロンだ。
「よく見ろ、颯太。そんな不気味なもんじゃねぇよ」
「……どうよく見てもなんかフリフリしたエプロンなんだけど」
「そ、そうだよ!さすがだな颯太!俺の夢のひとつなんだよ!仕事で疲れて帰ってきた俺を、こ、これを裸の上に着た颯太が出迎えてくれるんだ。お帰りなさい、樹♡ご飯にする?お風呂にする?それとも、俺?♡って。そこで俺は当然…………お、おいっ!!」
颯太は最後まで聞かずにエプロンをポイッと床に捨ててさっさと寝室に行ってしまった。
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