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鮮血姫と白薔薇王子

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鈍感娘にモーションかける独占欲王子的な何か。





 その少女を知る者は、彼女を鮮血姫と呼ぶ。
 ラツィア王国、その西の国境を守るゼルフィ騎士団の長たるガルナド将軍の愛娘、ロゼア。
 豪奢な金色の髪を後ろで一括り。薄い身体はしなやかなばねの様。快活そうな表情をかたどるのは深紅の瞳。程よく日に焼けた肌の色は健康そのものだった。
 そんな彼女の育った場所は戦いの中。
 ロゼアの母はロゼアを産むと同時に亡くなった。妻を愛していたガルナド将軍は、ロゼアを自分の手で育てると事切れる彼女へと誓う。
 ガルナド将軍は赤子を胸元に抱いて戦場を渡り、大きくなれば背負って槍を振るい。やがて子は共に馬に乗り、傍を走り。
 ロゼアが戦いの中に身を置く事は自然なことだった。
 剣を振るい、馬を駆って血を浴びて戦うロゼア。金糸は輝きつつも返り血を浴びる。
 それでもなお、心崩すことなく、ただ毅然と、凛々しく、矜持を以て彼女はあった。
 ロゼアはどんな悲惨な戦いに出会っても、己を見失わず美しく、強くあったのだ。
 そんな風に戦場で育ったのだから、おおらかで小さなことは気にしない豪胆な性格になった。
 人が聞けば、戦場で育つなど、ちゃんと教育がなされていないのではと思うがそうではない。
 貴族として、淑女としての振る舞い、言葉遣い。
 それらはガルナド将軍自身が、というのは教え下手で難しかったが。彼の部下達がしっかりと身につけさせたのだ。
 時と場合、それに合わせた行動は大事。あの戦場ではおおざっぱで剛毅なガルナド将軍でもロゼアの母の前では紳士であったし、王には敬意を持って礼儀正しくふるまうのだからと。
 そうした周囲の教育もあり、少々ずれたところはあるがロゼアはまっすぐに育った。
 戦場たる西方ではいつもは兵士や傭兵たちと似たような格好で混ざり。髪は乱雑に括り化粧もしない。それはどうみても少年の姿だ。胸のふくらみは小さく、ゆったりとした服を着てしまうと、わからなくなる。
 そんなロゼアは年に一度だけ、その身を女に戻す。
 一年に一度、国境の戦線の報告に将軍全てが会するのだ。
 その時だけロゼアは父と共に首都へと向かう。
 基本的に部下とともにあるガルナド将軍は、不要なものだと首都に家がない。
 だからその期間だけは王宮に部屋を借りる。それはロゼアも同じだ。
 そしてロゼアはその年に一度が楽しみでもあった。
 その理由は、きらきら輝く綺麗なものを見れる事にもあったが、国の第二王子と会えるからだ。
 彼の名前は、ティティス。
 白薔薇王子と呼ばれる、とても美しい少年。輝く銀髪に澄んだ青の瞳。
 思慮深く、柔らかな印象を誰にも与える少年は良き主たる資質を秘めていた。
 ティティスとロゼアの出会いは幼少の頃。
 ロゼアは彼が未来の、私の主君なのだと幼いながらに自覚し、騎士の誓いを立てた。
 ティティスはかわいらしい子供の遊びだと思いそれを許す、と言ったのだ。そして後に、それが本気だと知っって絶望する。
 ティティスはくるくると表情変わる快活なロゼアに淡い恋心を抱いていたのだ。
 しかし、だ。
 ロゼアの気質を考えると、騎士の誓いを立てた相手に恋心を抱くなんて――まず、ない。
 結婚してほしいといっても、冗談だろうとそれは命令か! ならば応じるのが騎士の務めだろうか! と笑って返しそうなくらいなのだから。
 ティティスは毎年、会うたびに美しくなるロゼアに焦っていた。
 ティティスは15歳。ロゼアは14歳。
 ガルナド将軍の娘であるという点においても彼女は政略結婚の相手として狙われる。
 彼女が正式に社交界にデビューする時が恐ろしくてたまらなかった。今はまだ、ガルナド将軍の連れとして来ているのだから誰も手を出せないのだ。
 しかし、彼女の性格を知れば大体の貴族は尻込みしてしまうだろう。
 夜会の、おとなしくしている彼女しか知らないのならば。だがそんな彼女でも良いと言う相手が現れたらどうしようもない。
 ティティスはどうにかして、ロゼアを繋ぎとめておきたくてたまらなかった。
 そう、だから恋心に気付いた10歳の頃から毎年、夜会のたびに白薔薇を持ってそれをロゼアに捧げ続けた。
 あなたは私のもの、と。
 その花言葉を以て周囲に知らしめるために。それを知っている、兄である第一王子は今年もやるのかと囃し立ててくる。
 先程もそうで、ティティスはそれから逃れて庭園へと来ていた。
 庭園の白薔薇を一輪、自分で選んでティティスは手折る。
 あと数時間で夜会が始まる。一年ぶりのロゼアはどうなっているのだろうかと会うのが楽しみでたまらなかった。
 その頃、ロゼアは部屋で支度をしていた。コルセット、というものは窮屈でつけたくはない。
 それならまだビスチェが良い。皮鎧のようで親しみやすいからだ。
「む、ちょっと胸が……まぁいいか」
 乱暴に補正下着へと胸を詰めようとするロゼアを慌てて止めたのは小さなころから世話をしている乳母のロサリィだ。
 今日は一人で着る、というから見ていたのだがやはりあぶなっかしい。
「ロゼア様、もう少し丁寧に……少し体を前に倒して」
「ああ、なるほど! 毎年、こうして苦労するのも楽しいのだけどな。今年のドレスはどうしたのか、豪奢だな」
「それは旦那様が張り切ってご用意されたそうですよ」
「親父殿が? なんでまた……」
「この前の武功の褒美だそうです」
 それならいただいておこう、とロゼアは笑う。
 この前の武功というのは西方の、国境を侵した一団の首をあげた事だろう。
 何人かは生け捕りにして連れ帰ることもでき、山賊のアジトを吐かせることができたのだ。
「ロサリィ、ドレスはこれでいいだろうか?」
「ええ、はい。お綺麗ですよ」
 首元はスクエアカットで広く開いている。しかしその端は白いレースが精緻に彩っていた。
 ビスチェでしゅっとしめると胸元が上がり、少し大きく見える。皮鎧のようだとロゼアは言うがそれは一級品だ。スカートはふんわりと布を重ねて広がるもので。少々大股であるいてもばれたりはしない。
 靴は、編上げのヒール。夏に履くサンダルのようで歩くには問題ないなとロゼアはその場で飛び跳ねた。
 それをたしなめられる前にやめ、くるりと回って鏡の前に。
「うん。鎖骨が丸見えだな! ああ、矢傷がちょっとみえるな……」
「そこは化粧で隠してしまいましょう」
 ロゼアは椅子に座る。化粧はまだうまくできないからロサリィにしてもらっているのだ。
 けれどその前に、髪を結い上げてもらう。
 豪奢な金色をいくつか三つ編みにして一部だけ結い上げる。
 この国では、夜会のような場では既婚の女性は髪を全て結い上げ、未婚の女性は髪の一部を降ろすのがしきたりだった。
 ロサリィは髪の一部を編み結い上げ、残りを綺麗に整えた。そして化粧。
 まだ若いロゼアは過分な化粧は必要ない。最低限整え、そして口紅を。
 それから、鎖骨近くの矢傷の後をおしろいで薄めた。
「完璧だな。これで戦闘態勢はばっちりだ」
「ロゼア様、戦いに行くわけではないのですよ」
「何を言うロサリィ! 夜会は戦いだと親父殿も仰っている! 私は誰にも負けぬ夜会の花になってこよう! 主に!! 壁の!!」
 ああああ、とロサリィは声を零す。
 この方は自分が何を言っているのかは、よくわかっていないのだろう、と。
 そもそも、別にロゼアは夜会にはでなくてもいいのだ。それは父親の仕事なのだから。
 しかし、その父親が――ロゼアを自慢して、そして儂が牽制しておかんと! 変な虫がついたら困る!! と、威嚇のために連れ出しているのだ。
 だから国王の前に出るときも、他の将軍と話すときも傍らに。それが余計に注目を集め、軍部の者からは戦える嫁など重宝以外の何でもない! と思われていることを知らぬのは本人だけ。
 旦那様、それは余計なことではと誰もが思っているのだが、思い込んだら一直線でそれはとまらない。
「楽しみだな、夜会。私よりもっときれいにしたお嬢さん達がたくさんいるのだろう」
「いいえ、ロゼア様が一番美しいですよ」
「いや、そんなことはないよ。だってみてごらんよ、私の腕は柔らかくなく硬い肉だ」
 足も、腹も。そんな私よりもかわいいお嬢さんはいっぱいいるとロゼアは言う。
 ロゼアの気質は、騎士なのだ。
 女性は守るべき存在、と思っている節がある。自分も、女性なのだが。
 それから少しして、父親であるガルナドが迎えに来た。
 今日は軍服をきっちり着こなし、胸には勲章を。びしっと決めた気難しげな男はロゼアを見るなり――破顔した。
「ロゼア! かわいい! きれい!! 似合ってる!! 儂の見立て万歳!!」
「おう、親父殿。素敵なドレスをありがとう」
「いや、うん。本当に良く似合っている。うん」
 でれでれとまなじりを落とし、鼻の下を伸ばし。そんなガルナドにロサリィは旦那様と冷たい一声。それにはっとして、こほんと咳払いひとつ。
 きりっと表情を引き締めれば、そこには貴族として、そして将軍としてあるガルナドの顔。
「では我が娘、ロゼアよ」
「ええ――お父様」
 これから向かうは戦場よ、と二人の意識は切り替わる。
 ガルナドの差し出した手に手を重ね、悠然と微笑んでみせる。
 そう、それでいいとガルナドは頷いた。
 国王に挨拶にいけば、白薔薇を贈る第二王子がいるのが少々、嫌なのだが。
 ロゼア自身がその意味をわかっていないし、また教える気もガルナドにはないのだ。
「戦場に出るのと同じくらい、この瞬間は高ぶりますわ」
「ああ、それは正しく、間違っていない。儂も高揚する」
 ここは戦場以上に血まみれの場所。
 言の葉という刃で斬り合う場所なのだからとガルナドは教えている。
 ロゼアもそれは理解していた。しかし、同じ年頃の令嬢が向ける言葉など軽くて柔く、心に何も傷などつかない。
 ただ一つ、傷つくことがあればそれはティティスからの言葉くらいだとロゼアは思っていた。
 我が未来の主、唯一絶対だと幼いながらに感じた彼の言葉こそ、私を揺るがさぬもの、そして揺るがすものなのだと。
「今年も白薔薇を頂けるかしら」
「……もらえるんじゃあないかな」
 ガルナドの歯切れは悪い。それはとても複雑な気持ちがあるからだ。
 娘が愛されるのは嬉しい。しかし、まだ娘を嫁にだとか、そんなことは考えたくはない。
 そもそも第二王子の元にやる気はない。王宮に閉じ込められて生きていける娘ではないのだから。









この後展開メモ。



なんやかんやで婿取りイベント発生。
けど、ロゼアが強くて。
というかロゼアもなんだかんだ言いつつティティス好きなんだけどはずかしくて主従!主従!ってしてるだけ。
落とし込みがなんかあると、お前らはやくくっつけよ展開になりそうな。
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