王子ごはん

ナギ

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本編

勇者と野外魔獣料理

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「大将ー! でかい魔獣狩ってきたー!」
「おう。門でよく止められなかったな」
「顔パス顔パス! ドン引きはされたけどなー!」

 にぱっと笑う少年の訪い。俺はそれ以上は近づくな、とまず距離をとった。
 というか、とらざるをえない。近づいてほしくない。
 お前、血まみれだからな。これは先に見せたかったと、俺に投げつけるように渡してきたのは尾。
 何かの獣の尾だ。いや、これ獣か?
 鱗っぽい? よくわからん。けど、その体表の色は赤だ。
 がざがざした硬い皮。切り口から見える赤身。
 俺が抱えれるくらいの尾の先ということは――本体はもっとでかい。

「とりあえず、だ」

 水浴びして来いと俺は言う。
 研究所に裏手にある水場を示せば、やっと自分の状態に気付いたらしい。
 悪いと笑いながらそちらへ向かう。
 けたけたと年相応の笑い零す、俺を大将と呼ぶ少年はただの少年ではない。

 勇者――ライロイローロ。
 面倒な名前なのでローと俺は呼んでいる。
 ロの響きが、一番多いから。

 年齢は、まだ10代で。
 俺より頭一つほど身長は低い。どこにでもいそうな、勇者だと言えば嘘だろうと笑われそうな小柄な少年だ。
 しかし勇者という肩書に名前負けしないほど強い。
 俺はローより強い存在を、少なくとも人間では見た事がない。ローもまた、人ではないものに気に入られてもいるのだ。なんか、それも一柱ではない。俺はそのうちの一柱と会ったことがある。
 ある種、俺と同じようなものを受けつつも、ローは素直でまっすぐだ。
 ひねていない。
 ローはがさがさの金色の髪を乱雑にくくり、その身に日々生傷を負いつつただ遊んでいるだけの、少年だ。

「大将大将、ついでに服貸してー!」
「あー……ちょっと待ってろ」

 そう、何より自由な少年なのだ。
 それゆえ、仲間達は振り回されるばかりで、きっと勝手に一人でここに帰ってきたんだろうなと思う。
 ローは空間を自由にいじれるから、行った事のある場所なら簡単にどこでもいけるのだとか。
 なんという便利異能! 俺もできるなら欲しい! と思ったけど欲しいと思って貰えるものでもない。
 行きたい所があれば、ローに連れていってくれと言えばいいだけだしな。
 で、ローが時々、突然。仲間を放ってやってくるのは俺の飯が恋しくなった時。餌付けに成功してしまったわけだと苦笑しつつ、肉を置いて服を適当に選ぶ。
 体格差があるからどう考えてもだぼだぼになるんだけどな。あ、ぼろいのにしとこう。
 これ、貸して戻ってこないの間違いないから。

「ほら」
「あざーす!」

 服を貸してやればその場で着替え始めて。
 じゃあ大将、行こうと言う。

「行こう?」
「そう! 料理道具持って!」
「……もしかして、さっきの土産の本体のところか?」
「そこ以外、どこがあんだよー」

 何言ってるんだーというような気安さ。
 嫌だと言っても駄々をこねられて折れるのは俺だろう。
 しかしそう思う前に、一体何を狩ったのか、気になりもする。
 俺は準備するから少し待てとローを制した。
 早くーと急かしてくるが、食うのは主にお前だ。何もなければ美味いものは作れないと言えば手伝い始める。

 鍋と鍋と鍋と。
 主に鍋!! でかい鍋!! あと鉄板。
 それから調味料と野菜をありったけ。あとパン。角食パン……良いのができたってもらったんだけど、これ全部食われるな。
 それからぱっと食べれるもの。ピクルス作ってたのを持っていこう。瓶だから重い。
 まともに料理するのは難しいだろうから、鍋に色々ぶちこんで食べるスタイルになるだろうか。
 いや、焼いて終わるだけかもしれない。
 それだけでもきっと魔獣の肉は美味いはずだ。魔獣とはそういう生き物だ。不思議だけどな。
 もちろん食えるなら、なんだけど。

「こんなもんかな……」
「大将、全部あるか? 忘れ物してもすぐとりに帰れるけど」
「大丈夫」

 じゃあ、と大荷物持った俺に飛びつくロー。
 おい、飛びつく意味はないだろう。
 そう文句を言う前に俺の耳に響いたのは獣の遠吠え。
 そう、瞬きする間も無く転移されていた。
 そしてそこは戦闘の真っ只中。
 ギャウギャウと無く獣と魔術の爆ぜる音、それから剣の交わる音も響いていて。
 なんだこれ!

「わ、血のニオイによってきたのかー。大将はそのでっかいのに張り付いてて」
「あ、ああ……でっかい、の?」

 でっかいの。
 そろりと見上げる、でっかいの。
 俺の背後の、でっかいの。

「…………なんだこれ」

 その姿はまず、赤が目につく。
 鱗の赤の鮮烈さ。視線をその体のラインに沿って下ろしていけば、やがて尾となり先がない。
 その変に切れた先からは、俺がもらったところか。
 もう一度、今度は逆に視線を尾から頭の方へ。
 切られた尾。尾の付け根、伸びる足は、爬虫類っぽい感じだろうか。鋭い爪があると見て、再びまた視線を尾の付け根に戻し、それから背中を辿って行く。
 背に、とくになにかあるわけではなかった。けれど首回りには毛が生えている。多分、鬣だ。
 そしてぴんと立った耳。耳は毛がない、鱗に覆われていて、そして頭。
 頭には角が二本。その一本は途中で叩き折られているかのように歪に途切れていた。
 そして額……あっ、目がまだ開いてるやばい、目があった。
 その目はぎょろっとしていて、どこに焦点があっているのかわからない。それが逆に恐ろしいような。その眼の大きさだけでも俺位あるわけだ。
 それから逃れるように口の方へ視線動かせば何本もの牙がある。あれらはとって、素材として売り払われるのだろう。
 地面に叩き伏せられるような格好で沈んでいる魔獣。
 このサイズなら確かに、伝説の魔獣級だろう。
 そもそも、ここ、どこだ。
 俺は魔獣に背中を向けて、前方で繰り広げられている戦いに視線を向けた。

 こちらに襲い掛かっていたのは、何匹もの獣。狼のような魔獣は徒党を組んで活動していたようだ。
 血の匂いに惹かれ、というけれどまさしくそうだろう。果てた魔獣を狙ってきたのだ。
 対して、こちらはローがいない間は五人でそれをとどめていたようだ。
 それもそれですごい。
 ローの仲間も強い。けれど、ローという存在がやはり特別なのだ。
 勇者という業ゆえに、秀でた強さがあるのだと俺は思っている。
 ローは勇者であるからこそ、命をとる事に躊躇いがない。まったく、何もない。
 命のやりとりは当たり前の事で、自分もかけているからこそ奪う事に躊躇いがないのだと思う。
 それはローが、敵と定めた相手にのみだとは思うけれど。
 やがて獣達の叫び声や唸り声がやがて引いていく。それは敵を退けたということで。
 一息ついた皆がこっちへやってくる。

「大将ー、はらへったー」
「ちょ、その格好でまたこっちにくるな!」
「えー!」

 自分の背ほどもある大剣をずるずるひっぱりながらやってきたローはまたもや血まみれ状態。
 仲間達も傷は負ってないが似たようなものだ。
 あーあ、ローに貸した服ももう着れたものじゃない。獣の爪やらでひっかかれ破れかぶれだ。
 ほら、思った通り戻ってこないシャツだ。

「あー……なんか、準備するからちょっと待っててほしい。その間に、水浴びをして身なりを、だな……」

 そう言うと、皆、そういえば、みたいな顔をして。
 ちょっと離れて水浴びすると準備を始める。そのうち、血に塗れず後衛にいた顔なじみの法術士は先に結界はりますねと動き始めた。
 彼女の名前はカナリアという。ほわほわした笑みを浮かべて人のよさそうな感じだ。
 戦いに置いては後方から皆を支援するのを常としており、常識人。ローのする事に色々と頭を抱えているのだ。
 そして今回もそうだったのだろう。俺の所に来て頭を下げつつ、その表情はごはん楽しみにしています、だ。

「カイ様、ライロイの我儘ですみません……でも、でもこれを料理できるのはカイ様しかいらっしゃらないかと!」
「うん、そだね。これをどうにかできるのは俺だけかもな……」

 と、いうのも。
 俺にはありがたい異能が備わっている。
 あんまりやると頭痛がひどい、になるからしないけど。
 こいつはしないといけないだろう。ここにララがいたら、してくれたんだけどなぁ。

 食えるか、食えないか。
 それは『鑑定』してみないとわからない。毒物ならどうあっても無理だ。
 魔獣だから食えるとは思うけど念のための鑑定。時々、その身は毒であるものもいるからだ。
 俺ができるのは限られた事だけど、この力はありがたい。

「んー、鑑定ー……」

 あ、問題なくいけそう。
 俺のは簡易的なものだ。詳細がわかるわけではなく、部位の名前と食べられるかどうかくらいだ。
 どうしてもアウトなものであれば激しい頭痛と共に絶対に食うなと伝えてくれる。
 食に特化した鑑定、とでもいうのか。
 鑑定は異能を最初から持っていれば使えるものだがそんなやつはあまりいない。
 だが物事を調べ、見ていけばぽっと突然、ある一分野に関してだけなら得ることもできるのだとか。
 おそらく、俺はそれだ。
 俺が食べる気があるものなら、どうなのか教えてくれるだけ。
 だからこの魔獣がなんという種族かまではわからない。
 それがわかるのは本当の鑑定もちだ。つまり、ローなんだけどな。
 ローはまず、それをやる気がない。

 勇者の異能。異能というより、権能だ。
 勇者であるからこそ、勇者の敵に対していずれ、優位性を得るという権能。
 だから、無意識に募りゆく戦いの経験則、似たような魔獣の知識と合わさりそれが何かを判じる――というような、積み重ねはローにはない。
 それはローが愛されているから得たものでもあるらしい。
 ローを愛しているものが、ローにすべてを理解できる権利を与えたのだとか。ララ曰く、神の領域に少しだけ繋がることを許されているらしい。
 使ってるかどうかは知らない。多分使ってないだろうなと思う。

「よし……だいたい食える!!」

 身体がでかいので、頭痛くるかなぁと思ってたけどそんなにない。
 よかった。
 となれば、これを捌かなければいけないんだが。俺には無理だな。
 とりあえずこの表皮は剥ぐべきだろうが、俺の包丁で行けるのかどうか、わからない。
 ああ、でも尻尾切ってきたんだよな、ローは。

「ロー、この鱗、剥げるか?」
「できるできるー! 鱗剥げばいい? 肉切る?」
「おう。なんかもう、形適当でいいからとりあえず切って」
「じゃあ尻尾から輪切りでいい?」
「お、おう」

 輪切り。
 輪切りってどうするんだよ。いや、輪切りだから輪切りにするしかないんだけど。
 ローは自分の得物、大剣を担いで尻尾の元へ。尻尾を切りやすいように動かして、えーいと大剣を振り下ろした。
 ざしゅっと良い音がしてびゃああっと飛び散る赤いの。まぁ血だ。
 輪切りっていっても、一つが俺の身長くらいあるからもうそれで十分……ではなかった。
 こいつらは、食う。
 同じように輪切りにして、そして鱗を剥ぐのはめんどいからくりぬくように肉を切り出していく。
 土魔法で作ってもらった作業台。それはもう土というか石というか大理石だ。何やっても大丈夫な硬度で土とかが食材につくこともない。
 切り出した肉は、そこで適度な大きさに切ってもらった。その作業は仲間達も一緒に。

「……豪快すぎて、俺は……」
「カイ様、言いたいことはわかりますが、こっちは火が終わりました!」
「ああ、うん。じゃあ鉄板置いてー」

 簡易的に土魔法で土台をつくって鉄板を置く。油、ねーなと思ったがあった。
 鱗の下と肉の間。そこは脂身っぽい。そこを削って、鉄板の上にバーッとまいたらそれが溶けていく。
 すごく甘くて、良い匂いだ。
 これはー! と思って、俺はガーリックを取り出した。それをその脂身で炒める。
 そして、切り出してもらった肉をそこに放り投げるようにいくつもおいていった。
 というのも!
 もうこいつら! 食べる方に意識がいってるから!!

「大将ー! はーらーへーりー!」
「ロー、腹いっぱい食べるために自分が食べたいだけの肉を切り出してくれ。それはお前にとって必要な作業だ」
「うう、そう言われると……尻尾飽きたから他の所でもいい?」
「ああ、まぁ……どこでも」

 じゃあ、とローは腹のあたりに移動した。
 え、でも腹からって内臓もあるし。間違えて変な臓器切ったらやばくないか?
 そう言ったのだが、大丈夫大丈夫という。
 こいつ体でかいし、大剣の届く範囲に内臓ないから、と。なんだその、適当な判断。

「俺、そういう勘は外さないから。そい!」

 そい! の掛け声と共に腹に突き刺さる大剣。
 それから、ずぞぞぞとゆっくり、音立てながら切り開かれていく。

「ん……この先はやめとこー」

 で、ローの勘任せのちょっと怖い腹の解体を見ていると、鉄板の上ではすでに焼けている肉。
 そこにすぐに火の通るような野菜をばーっといれて肉と野菜の炒めものに。
 あ、皿がない! と思ってると、カナリアがにっこりと笑って地面から皿を作り出す。

「このような感じでいかがでしょう」
「素晴らしい……皿、何個か作っといてもらえるかな」
「ええ、もちろん!」

 炒め物を作り終えると、ローの作業も終わってた。ローはこれでいいかーと言って、腹へったと野菜炒めをばくばく食べている。
 俺は鉄板で尻尾の肉を厚めに切ってステーキを焼いていた。
 ソースは無いけど、これ何もつけなくても美味い。塩コショウで十分だ。
 さっき、端を少し切って味見したけど、しっかりした食べごたえ。けど硬すぎるわけでもなく。
 噛むとじゅわっと肉汁が感じられた。そしてこの油が、甘いような味で美味い。
 素材そのままを食え、と鉄板の上では肉がやかれ、焼けたのは端の方に置いて取ってもらっている。
 それから、切り出されたので大きな塊のものは、表面に塩コショウして、焼いて。
 さっき、鍋に入れた。そこにワインを一本入れて、トマトを潰して入れていく。本当は先にトマトを煮こんだ方が良いんだろうけど、ええいままよ! ほかにもよさげな野菜を入れてそのまま放置。
 それから別の鍋には骨と一緒に、一口くらいに肉を切って入れて煮込む。そっちには野菜もどさっと。
 ちょっと乱暴だけど、あの食べる勢いをみてると、な……スピードが大事。

 そっちをみつつ、切り出された腹のあたりの肉を見る。
 尻尾は赤身って感じの肉だった。腹の方は、赤身と脂が良い感じに重なってる。
 これも煮込むかなー。でも、焼いただけでも美味そうでもある。
 そう考えていると、だ。

「カイ様、ライロイもですけど、俺らも腹が減ってて! 肉がもう!」
「え、ない? 食べるの早いな……」
「はらへりです、はらへり……ううう……」

 ローの仲間である聖騎士、フェルナンドと黒魔術士のベネットが皿を持ってやってくる。
 フェルナンドはもともと、どこぞの国に仕えていたけど意気投合して勇者一行に加わったとか。
 ベネットも似たようなものだったかな。
 聖騎士であるフェルナンドは俺と同じくらいの年だが、俺より立派な体躯をしている。その体躯に見合う程食べるのだが、ベネットの方がもっと食べる。
 華奢な少女は、大量の魔力を使うと腹がへるのだとローと同じくらいは食べるのだ。

「うーん、とりあえずスープでいいか? 多分いけるはず」
「スープスープ!」
「鍋ごと持って行っていいっすか」

 俺はちょっと味見して、まぁいいかと渡した。
 確かに美味い、美味いけどもっと煮込めばもっと美味いと思う。
 あっさりとした感じのいい味だったが物足りなさはあったのだ。
 しかし、あの分だときっとすぐなくなる。
 俺は塊肉の鍋に向き合って、ちょっとずるをした。
 というのも、煮込む時間の加速だ。魔術の中でも時間を扱うものは色々と面倒くさい。
 けど俺はララのおかげでそれをちょっとだけ使える。料理限定で。そういう制約だ。
 ずるをして、鍋の中の時間を10倍に。すると5分煮込むだけで肉の様子が変わった。ほろほろだ。
 するとその匂いに誘われたのだろう。
 小さなじい様が俺の傍にいた。

「ジジ様よ、ちょっと味見するか?」
「する」
「ん」

 さらに少しとる。ちょっとつつくだけでほろっと肉は崩れた。
 ジジ様は。名前もジジなのだが、見た目もじい様だ。なんかもう名前なのか愛称なのかという感じでもあるが、こう見えて高名な僧侶であらせられる。
 正直、生きてるのが不思議な年齢なのだとか。
 ジジ様は勇者一行の保護者……で、良いのだろうか。無謀を止め、皆を支え、回復を担う大事な人だ。
 そして一番の美食家でもある。

「うまいのぅ……ほろっと崩れるのが年寄には優しい」
「そっか。よかった」
「あ、ジジ様ずるいー! カイ様、私にもくださいー!」

 そしてしゅばっと目ざとく見つけてやってきたのはジジ様の弟子だ。
 少女のような形をしているが俺は知っている。きゃぴきゃぴしているがこれは男だ。そして戦う僧侶。
 拳系だ。

「あっち持って行っていいぜ」
「はーい!」

 鍋を渡せばジジ様も一緒にそっちへ。
 さて、あとは何を作ろう。
 薄切りにしてゆでてみるか? でもそれで腹膨れるかなぁ。俺が切るのが大変そうだ。
 いや、もう焼いただけでいいか。そんな気がしてきた。
 けれどただ焼くだけじゃなくて、パンもあるから挟んでやろう。ピクルスもあるし。あ、さっきのワイン煮こみの肉……は、もう残ってないな。でもあのソースはちょっと回収しよう。
 そうと決まれば、と俺は作業を開始する。
 肉は、厚めに切って塩コショウ。ジジ様にはハンバーグにしようと思ったけどつなぎがない。粉とか卵とか持ってきてなかった。ああ、薄切りにしてちょっと味付けを濃い目にしよう。
 焼いてる間に野菜も適当に。生で行けるのもそのままでいいけど、焼いて美味い野菜を一緒にするのもいい。
 と、適当な組み合わせで、思うままに作っているはずのサンドイッチが端から消えていく。

「ロー……」
「だって美味いから!! 大将ー、もう焼いたのでいいー!」
「私も、焼いたので良いので……」

 ローとベネットがそろって並ぶ。
 俺は苦笑して、肉を切って焼いて。その傍でサンドイッチを作る。
 二人が腹いっぱいになった頃には、切り出してもらった肉のほとんどは無かった。
 そして昼ごろに来たのに、すでに暗くなり始めている。
 何も言わずに来たから探されてるかもしれない。けど、料理道具がないのと放置された尾を見てリュスレインなら察するかな。
 片付けは、汚れたものはカナリアが穴掘ってそこに埋めた。鉄板なんかも魔術で綺麗にしてくれて、俺は来た時よりも荷物は間違いなく軽くなっていた。
 しかし、だ。

「この魔獣、どうするんだ? いろんな部位が食えるには食えるけど」
「え、大将にあげるけど、全部」
「は?」
「だって俺らの雇い主、大将だし」

 あげるって。
 いや、どうすれば? 尻尾は半分くらい食った。腹の一部が削がれている。
 そもそも、これちゃんと解体できるやつはいるんだろうか?
 とりあえず、冒険者ギルドに持ち込むのが一番のような気がする。しかし、どうやって運ぶ?
 そもそも、入らないだろう。
 いや、買いたいだけなら騎士団がやってくれるかもしれない。そうだ、そうしよう。
 いつも食わせてやってるんだから!

「ロー」
「何?」
「とりあえず、これは俺の……あの研究所の横に運んでくれるか? それくらいのスペースはあるだろう」
「おっけー!」

 いきなりこんなの、現れたら大騒ぎになるだろうなぁ。サージェに怒られそうだなぁ……と俺はぼんやり。
 そう思いながら、ローに運んでもらうことにした。
 しかしこれ、早く食べないといけないのでは、と思っていると魔獣には保存の魔術をかけてあるので劣化はしないとカナリアは言う。

「んじゃ、城に移動するから魔獣に触ってー」

 と、ローが行って。
 皆、魔獣に触れて準備完了。
 本当に便利な能力だな。むしろ、倒した後これ事移動してきたらといったら、それは怒られるって皆に止められたとローは笑う。
 そう言われて五人を見ると、怒るでしょうという視線を向けられた。
 うん、怒るな。そして怒られるのは、俺!
 だがもうあるものは仕方ない。それにこれはまだ使い道がたくさんあるから放り捨てていくわけにもいかない。
 城にぱっと移動して、薄暗くなっている中、研究所には灯りがともっていた。
 移動の瞬間、どんと少しだけ地に響く、魔獣の重量感。するとすぐに、扉からリュスレインが出てきて。

「カイ様!? おかえ……り、な、さい……」
「ただいまー」
「あっ、リュスレインー! やっほー!」
「あ、ライロイ様。あっ、そういう」

 でかい魔獣とローですべてを察したリュスレインはどうぞと皆を研究所へ。
 だってこいつら、ここに泊まるつもりだからなぁ。まぁいつものことだ。
 この傍に天幕を張って過ごす。そんな勝手が許されるのは、勇者一行だからだ。

「また大きなものを……ライロイ様、あの魔獣は何なんです?」
「え? あ、見てみる。なんだろ。おっ、トリプル級の魔獣だってー。一角の赤地竜」

 あっ、竜だった。地竜だった。
 絶句するリュスレイン。そして俺を見るが、俺は首を横に振る。
 知らない、俺は竜だなんて、ちょっとそうかもなーと思ってたけど、そんな事実今聞いたからな。
 トリプル級は、人が簡単に倒せる相手ではない。間違いなく、そういう生き物だ。
 しかしそれを倒せてしまうのはローが勇者だから。そして勇者で、特別だからだろう。

「大将、また明日、この肉で何か作ってー」
「おー。それならあの肩のあたりの肉を……」

 と、話していると。
 異変を察した騎士団の詰所からわらわらと騎士たちが出てきてくれた。
 やっぱり最初に、デカイものをみてぎょっとする。そして俺を見て、あーあという顔をして。
 解体の手伝いをしてくれると約束してくれた。
 お前ら良いやつ。この肉で何か食わせてくれって、すぐ言わなければ。





【勇者と野外魔獣料理】
・肉と野菜の炒めもの
・肉、やいただけ
・肉、焼いて、鍋へ(出汁は魔獣骨)
・肉のワイン煮(塊)
・肉サンドイッチ

肉祭り!
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