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幻獣の願い
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幻獣は探す。
この人ならざるものの住む世界で一番、強いものを。
それはこの世界のすべてのものが戦い挑んでも勝てぬ相手――カミサマだ。
きっといつもの場所にいるのだろうと人の姿をとってそこへ向かう。
水と風、緑の綺麗な場所で何度も訪れた事がある。岩と岩の隙間を通り、そこへ向かう。
本性でそこに降り立つなどは不敬なこと。どんなに面倒な道のりであってもカミサマの用意した道を歩いてゆく。
薄暗い岩と岩の隙間の先が明るくなってきた。
耳に聞こえてくる水音は、流れ落ちる滝。
四方から落ちる水に囲まれたその場所はカミサマの住まう場所だった。
「我らが神よ」
声をかけるとばしゃばしゃと水浴びをしていた真っ黒な羽毛の塊が身震いをした。
その羽毛の隙間から除く瞳が幻獣の姿を捕える。
「我らが神よ!? なんだその気持ちの悪い……呼び方は」
声をかけた相手は驚いて引く。
その姿に幻獣は、かしこまってみただけだと笑って返した。
「うぬ……裏がありそうな感じしかないんだが……久しぶりだな、赤いのよ」
水音立てながらあがってくるのを、赤いのと呼ばれた幻獣は待った。
真っ黒な羽毛の塊はふるふると再度身震いし水気を払う。
人ならざるものの頂点。黒い羽毛の塊は身を包む四つの羽根を開く。そしてのそのそと手と思しきもので纏う羽毛をかき分ける。
「すまん。目で見なくても見えるがお前たちには顔があったほうがよかったな」
「そうだな、そのほうがどこをみていいかわかりやすい」
羽毛の中から現れるのは小さな子供だ。その肌には羽毛だが人のようでもある。さらに羽毛をかき分ければその中に手足があるのもわかる。
人にもう少し近づけたほうが良いだろうかと唸っていたが、それよりも話かと視線を向けた。
「力添えしてほしい」
「国もどきの遊びへの力添えならせんよ」
「力を借りなくても俺の国は十分強い。自分の力ではどうにもならぬことなのだ、我らが神よ」
なんだか遠回しな、歪曲した言い回しをするなぁとカミサマは思う。
我らが神よ、と言う。それは本当に自分ではどうしようもないことだからこそ来たのだとカミサマは知る。
しかし、天変地異などもない。うっかりちょっと間違えて大地をひっくり返したりもしてないのだがなとカミサマは首をひねる。
それでも、ここにきた。力を借りたいという。
こういうときは、大体馬鹿かと言いたくなるようなことを言いだすのがこの赤い幻獣だ。
赤い幻獣の本性は獣だ。鋭い爪と牙、毛並は炎のようでゆらゆらと揺らめく美しい獣。けれどただの獣ではなく、その頭にひねりあがった角をもっており、それは人間の真似事をした姿でもそのままある。
金色の瞳には楽しさが滲んでおり、言ってみろとカミサマは促した。
「あちらの世界に我が身を以て行きたい」
「馬鹿か、貴様は」
「仕方ないだろう。あんたの力を借りなきゃ、いけないんだから」
「お前なんかがあっちにいったらまず、あちらがもたんだろう。すると俺がカミサマのやつにまたくどくどと言われるはめに」
「だから勝手に言ったらそうなるから、そうならんように力を貸せと」
行きたいというなら理由があるはず。カミサマはそれを言ってみろと促した。
すると、だ。
赤いのはあーとかうーとか声をもらし、そして嬉しそうに、楽しそうに、笑みをこぼした。
「我が姫に会いに行きたいからだ」
「は?」
「かわいらしい姫をみつけてな! いつもそっけないのに小さなものやかわいいものを見ると頬を緩めて微笑む。その顔がかわいくてな!」
「あー……」
「いつもこちらから見守っていて、これからもずっとそのつもりだったんだけどな! そうもいかないかなぁって感じで」
それからしばらく、赤いのはカミサマに彼女を見つけた経緯やら、もっとよく彼女のかわいさを教えてやると、あの子だと見せたり。
もういいと言われるまで語りつくした。
「お前がどれだけあの人間を好いているかはよぉくわかった」
しかしなぁ、とカミサマは渋い顔をする。
そこをどうにかして、行かせろというのが赤いのの言い分だ。
「すぐにはどうにかできるとは言えない。こっちだけの問題じゃないだろう……」
「そもそも! 小さいのとか弱いのだけがあっちにすいすい行けるのがずるい」
「お前が大きくて強いのが悪い」
「それは俺のせいではない」
カミサマと赤いのはにらみ合う。
しかしはぁとため息をカミサマが落とすとわがままを言っているのはわかっていると赤いのは零した。
「どうしても、傍に行きたい。というより行かなければまずい。他の男にちょっかい出されて黙っていられない」
そういえば話の中で王子どもがどう、とか言っていたなとカミサマは思い出す。
正直、人間同士のことにお前が口をだすのもどうだろうとは思うのだが、こうなればこれは止まらないことも知っている。
「あっちの方に話をしてくる。それで良いと言えば行って良い。駄目だと言ったら、諦めろ」
「……俺が暴れないで良い結果を期待している」
それはあちらしだいだとカミサマは苦笑して行ってくる、とその場より姿を消した。
この人ならざるものの住む世界で一番、強いものを。
それはこの世界のすべてのものが戦い挑んでも勝てぬ相手――カミサマだ。
きっといつもの場所にいるのだろうと人の姿をとってそこへ向かう。
水と風、緑の綺麗な場所で何度も訪れた事がある。岩と岩の隙間を通り、そこへ向かう。
本性でそこに降り立つなどは不敬なこと。どんなに面倒な道のりであってもカミサマの用意した道を歩いてゆく。
薄暗い岩と岩の隙間の先が明るくなってきた。
耳に聞こえてくる水音は、流れ落ちる滝。
四方から落ちる水に囲まれたその場所はカミサマの住まう場所だった。
「我らが神よ」
声をかけるとばしゃばしゃと水浴びをしていた真っ黒な羽毛の塊が身震いをした。
その羽毛の隙間から除く瞳が幻獣の姿を捕える。
「我らが神よ!? なんだその気持ちの悪い……呼び方は」
声をかけた相手は驚いて引く。
その姿に幻獣は、かしこまってみただけだと笑って返した。
「うぬ……裏がありそうな感じしかないんだが……久しぶりだな、赤いのよ」
水音立てながらあがってくるのを、赤いのと呼ばれた幻獣は待った。
真っ黒な羽毛の塊はふるふると再度身震いし水気を払う。
人ならざるものの頂点。黒い羽毛の塊は身を包む四つの羽根を開く。そしてのそのそと手と思しきもので纏う羽毛をかき分ける。
「すまん。目で見なくても見えるがお前たちには顔があったほうがよかったな」
「そうだな、そのほうがどこをみていいかわかりやすい」
羽毛の中から現れるのは小さな子供だ。その肌には羽毛だが人のようでもある。さらに羽毛をかき分ければその中に手足があるのもわかる。
人にもう少し近づけたほうが良いだろうかと唸っていたが、それよりも話かと視線を向けた。
「力添えしてほしい」
「国もどきの遊びへの力添えならせんよ」
「力を借りなくても俺の国は十分強い。自分の力ではどうにもならぬことなのだ、我らが神よ」
なんだか遠回しな、歪曲した言い回しをするなぁとカミサマは思う。
我らが神よ、と言う。それは本当に自分ではどうしようもないことだからこそ来たのだとカミサマは知る。
しかし、天変地異などもない。うっかりちょっと間違えて大地をひっくり返したりもしてないのだがなとカミサマは首をひねる。
それでも、ここにきた。力を借りたいという。
こういうときは、大体馬鹿かと言いたくなるようなことを言いだすのがこの赤い幻獣だ。
赤い幻獣の本性は獣だ。鋭い爪と牙、毛並は炎のようでゆらゆらと揺らめく美しい獣。けれどただの獣ではなく、その頭にひねりあがった角をもっており、それは人間の真似事をした姿でもそのままある。
金色の瞳には楽しさが滲んでおり、言ってみろとカミサマは促した。
「あちらの世界に我が身を以て行きたい」
「馬鹿か、貴様は」
「仕方ないだろう。あんたの力を借りなきゃ、いけないんだから」
「お前なんかがあっちにいったらまず、あちらがもたんだろう。すると俺がカミサマのやつにまたくどくどと言われるはめに」
「だから勝手に言ったらそうなるから、そうならんように力を貸せと」
行きたいというなら理由があるはず。カミサマはそれを言ってみろと促した。
すると、だ。
赤いのはあーとかうーとか声をもらし、そして嬉しそうに、楽しそうに、笑みをこぼした。
「我が姫に会いに行きたいからだ」
「は?」
「かわいらしい姫をみつけてな! いつもそっけないのに小さなものやかわいいものを見ると頬を緩めて微笑む。その顔がかわいくてな!」
「あー……」
「いつもこちらから見守っていて、これからもずっとそのつもりだったんだけどな! そうもいかないかなぁって感じで」
それからしばらく、赤いのはカミサマに彼女を見つけた経緯やら、もっとよく彼女のかわいさを教えてやると、あの子だと見せたり。
もういいと言われるまで語りつくした。
「お前がどれだけあの人間を好いているかはよぉくわかった」
しかしなぁ、とカミサマは渋い顔をする。
そこをどうにかして、行かせろというのが赤いのの言い分だ。
「すぐにはどうにかできるとは言えない。こっちだけの問題じゃないだろう……」
「そもそも! 小さいのとか弱いのだけがあっちにすいすい行けるのがずるい」
「お前が大きくて強いのが悪い」
「それは俺のせいではない」
カミサマと赤いのはにらみ合う。
しかしはぁとため息をカミサマが落とすとわがままを言っているのはわかっていると赤いのは零した。
「どうしても、傍に行きたい。というより行かなければまずい。他の男にちょっかい出されて黙っていられない」
そういえば話の中で王子どもがどう、とか言っていたなとカミサマは思い出す。
正直、人間同士のことにお前が口をだすのもどうだろうとは思うのだが、こうなればこれは止まらないことも知っている。
「あっちの方に話をしてくる。それで良いと言えば行って良い。駄目だと言ったら、諦めろ」
「……俺が暴れないで良い結果を期待している」
それはあちらしだいだとカミサマは苦笑して行ってくる、とその場より姿を消した。
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